見出し画像

演劇が大好きなおじさんの話

私の初舞台は19歳の時。
だったと思う。
20年前の記憶なんて曖昧だ。

高校は男子校だった。
大学に進んでも女の子との交流は0に近かった。

どうやったら女の子とお話ができるのだろう。(気持ち悪い)
どうやったら女の子に自然に触れられるのだろう。(気持ち悪い)

そうだ、演劇だ!

なんてクソみたいな発想なのだろうか。
もし、今こんな志で演劇を始める若者を見つけたら、間違いなく「辞めちまえ!!!!」と一喝するだろう。

しかし、私の動機は、本当にこの程度のものだった。

インターネットで劇団を探した。
面白そうな劇団を見つける。
見たこともないのに申し込む。
座長と会う。
カラオケに行く。
採用。

大した労力を割くこともなく、初めての舞台が決まった。
そもそも演劇自体見たこともないのに、いきなり劇団に所属してしまった。

動機はどうあれ。

今までに感じたことのない「生きてる」って感覚を味わった。
なんだこの達成感は。
小さい劇団だったから1円も収入はなかったけど、
それでも、
これをずっと続けていきたい、と
心の底から強く思った。

私は当時、教員免許を取るべく大学に通っていた。
しかし演劇と出会って、その夢は即捨ててしまった。

先生も、舞台役者も、人前に立って何かを伝えるって意味では、同類ではないか。

あぁ、なんて都合の良い解釈なのだろうか。
若気の至りもあって、当時の私は真剣にそう考えた。
実家に帰り、両親に土下座した。

「大学は辞めます。」
「演劇をやります。」
「(ついでに彼女(今の奥さん)と同棲します)」

見たこともない演劇を、一生やっていきたい。

そんなふざけたスタートだったが、それ以降私はがむしゃらに舞台に立ち続けた。
そこそこ演劇を観に行く機会も増えた。
だがそれ以上に、自分は舞台に立つことを好んだ。
観に行く暇があるなら、稽古をしていたい。
何度も何度も稽古を重ね、表現を広く、深くしていきたい。

いつの間にか私は、演劇そのものより、稽古を愛するようになった。

とにかく稽古場が好きだ。
作品をより高めるために、役者が汗水垂らして切磋琢磨する時間。
とても贅沢で、有意義で、なにものにも代えがたい興奮と感動が詰まっていた。

約一ヶ月、稽古をする。
台本を読みまくる。
稽古が終われば劇場に入る。
セットの中で演じる芝居に、更にアイデアが重なる。
やりたいことができなくなることもある。
それでも、一歩、いや半歩でもいいからより良い作品にするために己の脳と身体を振り絞る。

私は稽古が好きだ。
そして私はペース配分ができない。
だから稽古に全てのエネルギーを費やして、劇場に入ってから体調を崩したり大怪我をすることが多い。

ひどい役者だ。
こんな役者を見かけたら、私だったら速攻降板させる。

でも仕方ない。
それが私の演劇との向き合い方なのだから。

水疱瘡になって劇場側からNGを食らったことを除けば、それでもなんとか降板には至らず舞台に立ち続けてきた。
膝の靭帯を痛めて松葉杖で劇場に通ったこともあった。
次の日は足首の靭帯も痛めたが、それでも演じ続けた。
ゲネプロ中、舞台上のカーペットが古かったためか、埃アレルギーを発症し、泡を吹いて失神して救急車で運ばれたこともあった。
ゲネプロはすっ飛ばしたが、それでも何とか本番には間に合った。
過労でぶっ倒れてこれまた救急車で運ばれ、点滴を打ち、開演2分前に劇場に入ったこともあった。
主演だった。
本番が近づきスタジオ入りしたのに胃腸炎にかかって全女性キャストに介抱されるという悲しいハーレムを味わったこともあった。

あぁ、こうしてみると、何とか演じ切ったと思っていたのは自分だけで、劇団や劇場、共演者やスタッフの皆さんにはとんでもく迷惑をかけてきた。
こんな男は、演劇なんかやらない方がいい。

今となってはハッキリとした理由は覚えていないが、私は2012年いっぱいで、演劇から離れた。
特に廃業の宣言はしなかったが、静かに演劇界からフェードアウトした。

IT系の会社に就職し、3年半働いた。
全くと言っていいほどのIT素人おじさんが、1から勉強し、何個かIT関連の資格も取得し、チームリーダーを任されるまでになった。
毎日7時の満員電車に飛び乗り、帰りは終電間際。
帰りの電車の中でもパソコンを広げ、帰ってからもパソコンを広げ、ひどい時には風呂に入りながらパソコンを開いていた。
生活は安定した。
精神は崩壊した。
うつ病と診断された。

今度は地元で好きなことを仕事にしよう。
ラーメン屋に転職した。
仕事はハードだったが楽しかった。
でも、一年半後、またうつ病になった。

人間関係なのか。
真面目に仕事をやりすぎるのか。
明確な理由はわからなかった。

5年間、何かを封印して生きてきた。

演劇だ。

私は、やっぱり、演劇がやりたい。

家族に相談し、私はまた、38歳から演劇をやるようになった。

無名なおじさんなのでカムバックなんて表現は合わない。
そもそも辞めたって宣言もしてなかったし、それそこ静かに帰ってきた。

エンジン全開だった。
フルスロットルってやつだ。
演劇から離れていた期間も、暇さえあれば外郎売だけは口にしていた。

でも、復帰からたった一年で、演劇ができない世界が待っていた。

でも、私は演劇から離れた世界を5年間経験してきた。

演劇ができる世界を想像する。
演劇は死なない。
俺は生きている。

何の話をしているのかサッパリわからなくなってしまった。
気付いたら自分と演劇の記憶を書き殴ってしまった。

私は演劇が好きだ。
観るのも好きだ。
でも、観るよりやる方が5億倍好きだ。
稽古場の空気が好きだ。

どこよりも濁っていて
人間の臭さが充満している
稽古場の空気が、大好きだ。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

スキスキスースキスースキスー
90
【職業】俳優 / Spacenoid Company所属 / 舞台を中心に活動 【自己紹介】1980年7月11日生まれ / AB型 / 一児の父 / 春日部市在住 / 読む / 食べる / インドア / すげー顔がデカい https://spacenoid.jp/

この記事が入っているマガジン

note編集部お気に入りマガジン
note編集部お気に入りマガジン
  • 15822本

様々なジャンルでnote編集部がおすすめしている記事をまとめていきます。

コメント (2)
こんにちは。熱い思いのこもった、伝わる記事だと思いました。好きだという気持ちが溢れてくるようでした。辛いことが多くあったこと、自分も辛い経験があったので、勝手ながら分かった気がします。
hiro-GRITさん、コメントありがとうございます。
気持ちに任せて好きという気持ちを書き殴ったらこうなりました。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。