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我が家の東京マラソン2020

**世の中、新型コロナウィルス騒動の影響で数々のイベントは中止になり、おまけに学校まで休校。

私もなんとなく出歩く気分ではなくなったりと、閉塞感を感じる日々。**

3月1日に行われた東京マラソンも、市民ランナー参加や付随のイベントは中止になった。エントリーした数万人の人が残念がったことだろう。

しかし、そんな中でも「エリート選手」(一部、準エリート選手)のみで東京マラソンが開催された。
走るのは約200人。
オリンピック選考会を兼ねたレースでもあり、エリート部門の基準を突破したトップ選手ばかりだ。

なんと、大学生の我が家の息子は、そのエリート選手なのだ。
親の私だって信じられない。
うちの子がエリート選手だなんて(笑)

それだけで、元気と勇気をもらえる。

出場出来るなんてラッキーだ!

エリート入りが決まった後、「厚底シューズ禁止」の話が出る。
それは困った!
我が子も、その厚底シューズで駅伝を走り、マラソンで記録を出してきた。
もしもそのシューズが禁止になったら、新たに自分に合うシューズを探さなくてはならない。

「厚底シューズが禁止になったら、日本記録も5分は落ちるだろうよ」
と家で冗談をいう。
それくらい、走りに合えば良いシューズだ。
(逆に使いこなせない選手が履いていると、走りがもたついて見える気がする)

さて、東京マラソンが近づくと、無事そのまま禁止にならずにすんだ様だ。
我が家もマラソン当日発売の新モデルは手に入れられなかったが、一週間前に旧モデルを手に入れた。

35000円也。

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地元の新聞に、地元から出場選手の紹介記事が載る。
うちの子の名前は無かった。
載ったのは実業団選手のみ。

「記事の文字数に入らなかったのかな?」
「そんなわけないだろ」
「チェックしていないのかな」
「名簿は見れるはずだよ」
「うちの子の方がタイムは良いのに」
「そうなんだね」

まあ、良い。
我が子は箱根選手でも無いから、無名のノーチェック選手なのだ。
無名というのは、逆に言えばいくらでも冒険出来る。

その間に、無事卒論も仕上がり、大学の成績も出て「卒業決定」通知が届いた。

「嬉しいな。僕が大学卒業出来るなんて」
素直に口にして喜ぶ息子を見て、私も嬉しい。

我が子が大学卒業だなんて、それもびっくりで嬉しいことだ。
そもそも陸上を始めたきっかけは、進学の手段としてだった。

内心、本当はきっと賢い子に違いないとは思って育ててきたが、小中学時代、とにかくペーパーテストが苦手だった。

「口頭でテストをすると満点なんですが」
学校の先生も首をかしげる。
しかし、入試で口頭試験なんてないだろう。

「走って進学しよう。スポーツはスカウトで進学出来るんだって」

ペーパーテストが出来なくても、知能に見合う学力をつけさせてやりたかった。

そんなわけで、スタートは親子で独学で走り始め、道を切り拓いてきた。
走ることを選んだのは、たった一人でも練習出来るからだ。

今思えば無謀だ。

そもそも、毎日熱ばかり出して学校にもまともに通えない体力だったのだから。

それなのに、夕方熱が下がると散歩に行かせ、部活だけ行かせ、週末は自転車で追いかけて走る練習をした。

高校生や大学生になってからは、解禁になったスマホやパソコンを使いこなし、立派な論文を書くまでになった。
便利な時代に育って良かった。

おまけに、一度も休まなくなった。

マラソン数日前。
「タンパク質を採らせたい」
と、うちの人がステーキ肉を買ってきた。
私も勤めている飲食店のイベントでもらったトロの刺身を出した。
お陰で、誕生日並の豪華さだ。

スペシャルドリンクの話題が出る。
「100均で容器を買うつもりだよ。だけど、朝の7時までに持って行かなくちゃいけないんだって」
選手は専用のドリンクを置いてもらえるというわけだ。

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マラソン前々日。
仕事から帰ると、大きなスーツケースがリビングにある。
海外旅行にでも行くのか?
一泊二日の旅なのに。

マラソン前日。
この日は私も、息子の高校時代の保護者OB会で、他県に行く用事があった。

朝早く、最寄りの駅に行くと、なんとJRが止まっている。
一つ前の駅で、誰かが非常ボタンを押し、信号機が壊れたとのことだ。

息子も朝9時過ぎの新幹線に乗るはず。
大丈夫か?!

まだ出発していないはずの息子にLINEをしても、開く気配がない。
まさか寝坊していたらどうしよう??

家に一旦帰ろうかと気も焦りつつ、自宅に電話すると、元気な声で息子が電話口に珍しく出た。
「急いで!JRが止まってる」
連絡している間に、一時間遅れでJRがやってきた。
後からのLINEで、その一本後に乗り、無事東京へ出発したようだ。

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以降、連絡が途絶える。

私の方は、東京には行けなかった。

応援に行きたかったが
「旅費はどうする?」
とうちの人に怖い顔で言われると、それ以上「行きたい」とは言えなかった。

今回は、息子の旅費を出すだけで精一杯だ。
旅費以外に、出場費が16200円要った。
選手でも、我が家はスポンサーがついていないから自腹だ。

マラソン当日は、私の方は仕事をしていた。
仕事をしていても、気がかりで仕方がない。
無事完走出来ただろうか?

高校、大学と陸上を本格的に始めたものの、元々はそんなに体の丈夫な子とはいえない。倒れて救急車で運ばれた事は何度かあった。

そんな子がなぜ陸上の世界に足を踏み入れる運命なのかと不思議に思うことがあるが、たぶん強くなるためだろう。
体も心も。

実際、強くなりつつある。

仕事が終わり、インターネットを検索しまくる。

無事、完走したことを知った。
ベストタイムより数分遅い。
けれど、100番以内には入った。
タイムはもう一歩だったけれど、無事で良かった!

5キロ毎のラップタイムを調べる。
ハーフまでは中盤で走っている。
オリンピック選考をかけたレースだけあって、さすがに全体的に速い流れ。
その中で、自分の実力通りのペースでいくわけには行かず、ついて行くしかなかったのだろう。

ハーフの21キロ以降は、かなりペースダウンしていた。
それでもベストより数分遅れでゴールなら、悪くないか。

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夜の7時、高揚した顔で帰ってきた。

最近の家で見る、息子の顔つきではなく、選手の時の顔つきだった。
頬がしまり、目がキラキラというより、野性味とオーラのある雰囲気でギラギラしている。そんな時は、親の私でもなんだか近づき難い。

マラソンの後の晩ご飯は魚料理にした。
あまり腸に負担をかけないものが良いだろう。

食べていると、家にいる時のいつもの息子の顔つきに戻ってきた。

「大迫傑が間近にいたんだ。
背丈も体格の見た目も僕くらいだったよ」
驚いた顔で教えてくれる。

「神野大地選手?
目の前の見えるところで走っていたよ」

「僕は川内優輝選手の弟さんと並んで走っていたんだ」

・・・ビック選手の中にいて、一緒に走るなんてドラマかマンガの世界みたいだ。

結果はベストでは無かったものの、トップ選手のスピードに混じり自分なりのチャレンジをしたと、満足そうな表情。

私の知らない世界を教えてくれ、連れて行ってくれる。

基準では、来年もエリート選手で出場出来るはずだ。

「大迫選手みたいに、一人で走れそうな凄い人だって家族が応援に行っているんだもの。
来年こそは母さんも応援に行く!
だから、来年も絶対走ってよ」

「大迫選手の家族は東京にいるんだから」
と、旅費がかからないんだから応援に行けるのは当たり前だという調子で答える息子。

親としては、全国どこでも応援に駆けつけたい。

録画したテレビを見ながら、うちの人が指さして我が子を教えてくれる。
テレビ画面の中で走っている我が子を見るのは誇らしい。

テレビ画面をiPhoneで録画し、仲良しの知人に送り自慢する。
他人からしたら、ほとんど豆粒にしか見えない画像に苦笑された。

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