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「珈琲屋に通ってみた」〜夜の仕事の人


ここんとこ、休みが週に一度の日が続いている。
数週間ぶりにフリーの休みの今朝は雨だった。

「雨かぁ」と思いながら犬の散歩をしていると、雨が降っているのに青空が広がってきた。雨雲の合間の空は久しぶりに霞のないクリアな青色。
空ばかり見て歩いた。

「まだ間に合うかも」
モーニングに出かけることにした。
珈琲屋のモーニングは朝11時半まで。
トーストのパンが抜群に美味しい。
ワンコインの贅沢だ。

「おはようございます」
と店に入ると、いつもの常連客の中に一人、一見見慣れない・・・
だけど、何ヶ月も見かけなくなって気がかりだった人がカウンターにいた。

目が合うと、笑って手を挙げてくれたくれたから、やっぱりそうだ。
ホスト君だ。
内心勝手に、ホスト君とあだ名をつけている。

「変わるもんだね」
感心して、素直に驚く。
「横に座っちゃおうかな。席空いてる?」

久しぶりに会うホスト君は、黒縁眼鏡に黒髪から、ワンレンの金髪になっていて、ばっちりメイクをしていた。
メイクには一時間かけるという。
顔に塗りたくるのが苦手で、メイク時間は5分もかからず、すっぴんに近い時の方が多い私とは大違いだ。
メイクの仕方を教えてもらった方が良いかもしれない。
目には、ブルーのカラーコンタクトが入れられている。

仕事から朝帰りの今日は、今年初めて珈琲屋に寄ってみたのだとか。
「変わらない。何時間もここに座っていたくなる」
「分かる-。私もそう。ぼーっとするのは大事な事だよ、たぶん」

初めて会った時は、カウンターに座っていても、座っている自分の空間の中に誰も入れたく無いような雰囲気があった。
まだ若いのに、人の裏をたくさん見てきて、人を信じられず自分を守るのが精一杯な雰囲気と言ったら良いだろうか。

その日は、世間的には人の道を外れた付き合いの話を店主としていて、たまたま聞いてしまい話を振られ、返事に困ったけれど
「そういうのは私は否定しませんよ」
とだけ答えた覚えがある。

恋は意図せず落ちるもの。
真面目に生きていても、人生何が起こるかは分からないだろう。

以来、数ヶ月に一度くらい、たまたま会って相席をした。
誰とも話したくなさそうな日もあり、全く喋らなかった日もある。
それでも顔見知りになり、ぽつぽつと話をしてくれるようになった。

その間に彼女も変わり、夜の仕事に変わり、今日は新しい店で一ヶ月過ぎたとのことだった。

髪色が明るくなったのと同じように、性格も明るくなっていた。
ずっと喋ってくれたから、その間に珈琲をお代わりした。
二杯目は店主の薦めで、あえて酸味の強い強い珈琲。

「うん。ほんとだ。酸味があって香り高い。いいね」
一緒に同じ珈琲を入れてもらい、感想を言い合う。

「一応、真面目な主婦なんだよ。
夜のお店には縁が無いな」
それでも好奇心旺盛な私は、
「ここで仕事の話は・・・」
と言われながらも色々と教えてもらった。

ホストとボーイズバーの違い、料金、ナンパの仕方や営業、彼女と客との違い。
聞いた内容は私の中の秘密だ。

ただ、
「どんなに綺麗な人と接しても、彼女に会うとほっとする」
という話に、そうなんだと私もほっとする。

「最近、本も読んでるんだ。もっと勉強しなくちゃ」
「そうだね。やっぱりトークかな。たくさんの知識が無いと」

若くてイケメンの方が有利かなと話すホスト君だけど、長く残ろうと思えば人としての魅力だろう。

ブルー色のカラーコンタクトは便利かもしれない。
本来の表情や動揺が見えにくいから、作ったキャラクターで仕事が出来る。
ただ、前回会った時に思った。
あ、この人、目が綺麗な人なんだ、本当は優しい人なのかもしれないと。

お店の名刺を見せてくれたけれど、
「申し訳ないけど夜中に行ける気がしないな」
と言うと名刺を引っ込めたから受け取りそびれた。
受け取れば良かったかな。

もう当分、珈琲屋には来れそうにないと言う。
「お喋り楽しかったよ。貴重な時をありがとう」
と挨拶してお別れ。

私の知らない世界だけど、頑張っている人は応援したい。

文章が誰かの心に響いて、それが対価になって、それを元手にさらに経験を積んで文章など色々な表現で還元出来たらと思い続けています。 サポートお待ちしております♪