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直島へ旅をした

2月の終わりに旅をした。

直島に行くのは2回目。

去年もちょうど、この時期だ。

初めて訪ねた去年は晴れた青空が美しい日。

一人自転車で回りながら、過去を振り返り未来に想いを馳せた。

一人で旅をしていると、こんなに素敵な景色なんだよと、誰かに知らせたくなる。

知らせたいとその時思いついた人は、本音で大切に想う人だと思う。

「今年も直島に行こう!」

そう計画した日の当日は雨だった。

おまけに、新幹線に乗る以前の、JRが遅れ、10分毎に着くはずのJRを1時間待った。


それでもあきらめずに出かけた。

どうせその日の18時までに、直島に行く船のある、岡山県に行かなくちゃ行けなかったし、

何となく、何年も会っていない友人も誘ったのだった。

岡山駅で朝の9時に待ち合わせた友人は、その1時間前の8時には到着した様だ。

私の方は最初からつまづき、10時前に到着。

数年ぶりの再会だったのに、2時間も待たせてしまった。

それでも、何食わぬ顔で待っていてくれた友人。

友人は私の中の記憶と変わっていない様に見えた。

私はその日寝不足だったから、疲れて見えたかもしれない。

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直島へは、岡山の宇野港から船で行く。

四国側からもルートがあるかもしれない。

小雨の中、震えながら瀬戸内海の島々を楽しみ、直島に着くと本降りの雨にこれからの道中を思うと、不安になった。

とても自転車を借りて回れそうな天気では無い。

港にバスがあるのを見つけ乗り込む。

これが案外スムーズに行き、快適だった。

無事、一番行きたかった場所、地中美術館にたどり着く。

地中美術館は時間予約制。行きの船の中でインターネットで予約した。

11:20に港に着き、11:25のバスに乗り、12:15には美術館の中にいた。

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地中美術館は、安藤忠雄の設計で、美術館自体が作品とも言える。

「右と左の壁の角度が違うね」

「本当だ!光の当たる量が右と左で違う」

「安藤さんは光を扱う建築家なんだよ」


…去年行った時には気づかなかった。

私は一人旅の時の方が多い。

一人だと、自分の感覚に敏感になれる。

だけど今日は友人が新しい気づきをくれる。

旅の道連れに、誘って良かったと思った。

地下に行くと、カフェがある。
まずは腹ごしらえ。
ベーグルサンドを頼む。

若い頃、カナダにホームステイをした。
ステイ先のおかあさんが毎日、ベーグルサンドをお弁当に作ってくれた。

その時と同じく、素朴で体に優しい味がした。

窓側のカウンター席に座ると、海が見える設計だ。
たけどその海までの前に、石を敷き詰めた空間がある。

端に、ローズマリー が小さな紫色の花を付けているのが見えた。
低木の向こうは、今日は灰色の空と海だ。

「普通は海を見せるなら、海の直ぐそばに設計するものだよ。
それなのにわざと空間を取っている。
安藤設計だね」

友人の解説を聞く。
そうなんだ。
確かに、風景に奥行きが出る。

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食べてお腹が満足したら、すでに今日の目的を果たした気分になったが、鑑賞はこれから。

まずは、ジェームズ・タレルの作品の部屋へ。


階段を上り、白い空間に立つと、次第にオレンジ色ともピンク色とも分からない色に包まれる。

宇宙船の中にいたらこんな気持ちだろうか?!と思いながら、奇妙な気持ちになった。


「どこにも照明器具が無い。

どうなっているんだろう?」

友人がキョロキョロと見渡す。

確かに!

どうなっているのだろう?

感覚的なものに包まれてその感覚を味わっていたが、冷静に考えると不思議だ。


案内してくれるスタッフの方に聞くと

「作家の秘密です」

との事だった。


途中、天井がくり抜かれた四角い部屋にも寄った。

灰色の空から、雨粒の一つ一つが光って、はっきり見えた。

雨粒を意識して見たのは、子供の頃以来かもしれない。

***

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いよいよ、モネの睡蓮の絵のある部屋だ。

私はこの美術館の一番大きな睡蓮の絵が好きだ。

大理石のチップが敷かれた白い空間に柔らかな光を受け、正面で待ち構えている睡蓮を見た去年は、見たら涙が出た。

特別に感動する様な何かがある訳でも無いのに。

その話を、絵を描く知人に話したら

「本物を見たんだね」

と言われた。


本物と偽物の違いは上手く言えないけれど、エネルギーみたいなものが違う。

2回目に見る今年は、ふと思いついて心の中で絵に話しかけてみた。

とても気になった絵には話しかけてみる。

時に心の中で答えてくれる。

すると

「私はクロード・モネ。

毎日、何時間池を見ていても見飽きない。

毎日、池にあたる光の色が違う。

時間によっても、季節によっても。

鳥や虫の鳴き声も聞こえる。


美しい。

人生は美しい。

私はその、美しい光を描いていたい」

同時に、深い緑色に輝く太陽の光があたる池が、脳裏に映画の様に見える。

心に聞こえる声は、目の前の深く暗い色合いの絵とは裏腹に、穏やかで幸せそうな気がした。

光を描こうとするなんて、素敵なアイデアだ。

絵を描かない私は、新発見をした気分だ。

「君は何をする人なの?

チェロを弾くのかい。

音楽は素敵だ。君も光を感じて、それを音にしたら良い。

それから、この池を見に行くと良い」

…絵の場所は、現実にある場所なのか?!

それは思いつかなかった。

ぜひ見てみたいと思った。

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「もうひとつ部屋があったはずだよ」

ぐるぐる、何度も同じところを回る。

「この建物はわざと、迷子にさせているみたい」

ようやく、斜めに下る道を見つけた。

ウォルター・デ・マリアの作品。

こちらも部屋自体が作品だ。

目の前にある階段の中央に、大きな球体がある。

壁には、金箔を施したオブジェが飾られている。

何を意味しているのかは分からない。

しいて言えば、パイプオルガンのパイプみたいだと思う。

この部屋は、よく響くのだ。

歩く靴音が響く。

現代的だけど、教会みたいだと思う。

一番上まで階段を上り、天井を見上げた。

ここにも天然の光がある。

来た道を振り返る。

この部屋では、階段の一番上から見る眺めが好きだった。

ショップで本を3冊も買った。

一冊は、モネの庭について書かれた本。

モネの睡蓮は、モネの自宅の庭なのだと知った。

脳裏に見えた池の景色が同じなのか…

それは行けるものなら、いつか実際に見てみたい。

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美術館を出ると13:30を回っていた。

帰りの船を宮浦港から16:02に決める。

逆算すると、バスを待っている時間ももどかしい。

だから歩く事にした。

目的地は家プロジェクトのある木村港近く。

つつじ荘近くまで歩けば、バスもあるはず。

去年自転車で綺麗だと思った、ベネッセ美術館に向かう道を歩く。

風が強くて、さした傘がひっくり返るから、傘もささずに歩いた。

人工的に植えられたのだとしか思えない、低木の色の違いが美しい。

空は灰色だが、海は灰色の中にうっすらエメラルドグリーンが見える。

途中のオブジェを飛ばして、草間彌生の黄色のかぼちゃまでたどり着いた。

歩いている途中に横を走るバスを何台か見送ったが、歩いて良かった。

バスでは気づかない、美しい景色を目前にしながら歩いたのだから。

かぼちゃをバックに記念写真を撮る。

撮れた写真は、髪はぐしゃぐしゃ、雨に濡れてヨレヨレの中笑っている。

「まるで都落ちみたいだよ」

と言うと笑われる。

女子旅中の若い二人に頼まれて、友人が写真を撮った。

二人の笑顔やポーズを見ていると、私も笑いたくなった。

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先日見た映画、「パラサイト」の話をする。

「名セリフがあるんだよ。

窮地迫った大ピンチで、お父さん役の人が『完璧な計画がある』と言うんだ。

息子と娘は、父の計画が知りたい。

父親が息子に打ち明けた完璧な計画は、

『完璧な計画は無計画な事だよ』と言うの」

それから、流れに任せて歩き、バスに乗りながら「完璧な計画」と言い合い、笑い合った。

単に行き当たりばったりなのだけど。

行き当たりばったりでなければ、美しい景色にも出会えなかった。

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バスに乗り、農協前で降りる。


観光案内らしきところでパスを買い、一番行きたかった…去年も行った「南寺」に行く。

ここも安藤建築らしい。

入場時間制限があり、待ち時間に案内人さんと話す。

「雨は雨で良いものですよ。

雨の日でも、海に色がある」

そう話す案内人さんに、さっき歩いた美しい海岸を思う。

南寺は、真っ暗な空間に案内され、座って待っていると何か見えてくるのだ。

初めて見た去年は、とても驚いた。

今年は、ただ暗闇の中に安心して座っている時間が良かった。

16:02の船に間に合うバスは15:22。

南寺を出るとあと10分しか無い。

案内人さんに勧められて、近くの「角屋」を覗く。

ダッシュでバスに乗り込み、間に合った!

家プロジェクトでは、見逃したところが色々。

去年も、また行くことがあれば今度こそ、と思ったのに、今回も「また行かなきゃ」と思ってしまった。

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宮浦港から本州の宇野港に到着。

宇野港から岡山駅に着いたのは17:29。

もういくつか乗った駅で別の用事があった私は、そのまま接続列車に乗る。

乗って振り返ると、友人がホームで手を振っていた。

しまった、挨拶をし忘れた!

ホームに戻りたいと思ったが、そのうち列車の扉が閉まった。

階段を上る友人を窓越しに見ながら、私も次の場所へ。

少し後ろ髪を引かれながら、夜も他の集まりで楽しく過ごし、新幹線で帰宅。

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次の日の仕事は、ぼんやりして要領を得なかった。

しょっちゅう、直島の海岸沿いの景色が脳裏をよぎる。

歩いていた瞬間より、振り返った時に

「楽しかった!」

という感情が湧き起こる。

そして、楽しい時間を共にしてくれた、滅多に会うことの無いはずの他県の友人に、直接「ありがとう」と言えなかったのが心残りだ。

直島へは、また行きたい。

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