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一方通行風呂【毎週ショートショートnote】

実家で「一方通行風呂」という銭湯を経営していた父が急死し、僕は葬儀のために帰郷した。

小学生の頃「お父さんの背中には絵が描いてあります」という作文を書いたら先生がドン引きした。
「書いたらダメだった?」と母親に聞くと
「先生は知らなかったかも。でも大丈夫、この辺の人はみんな知ってるから」と肩を軽く叩かれた。
そう、父の背中には派手な獅子の入れ墨があった。昔の名残りだ。

銭湯での葬儀が終わり、参列者を見送り、僕はふと思った。
「どうしてうちは『一方通行風呂』っていうの?うちの前の道、別に一方通行イッツウじゃないじゃん」
「それはね」母は遠くを見る眼をした。「母ちゃんのお腹にお前ができた時、父ちゃんは決めたんだよ。この子のために、もう悪さはしないって。まともな人生への一方通行って意味よ」
そうだったのか……
父の写真は笑っている。

僕は上司に電話をかけた。
「すみませんが、家業を継ぎたいと思います。できるだけ早く退職を……」

(408字)

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#毎週ショートショートnote に参加しました。

久しぶりの参加です。
こちらの創作大賞応募作を書いていたので、お休みしていました(宣伝)↓

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【今日の写真】みんなのフォトギャラリーから。
「銭湯」で検索。
昔からありそうな懐かしい感じ(でも暖簾は新しくした?)。


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