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会社のオフィスでは仕事したくない〜コワーキングに月500ドルを支払うワーカーたち

※この記事は、ニュースレター「ちょっと先行く海外コワーキング&コリビング最新情報 — Issue #22 」から、一部編集して転載しています。
※ Photo by CoWomen on Unsplash

今日の参考記事はこちら。

女性専用のコワーキングThe Wingが最初のスペースを開業したとき、Nik Aliyeはすぐさまメンバーになった。彼女は当時27歳でニューヨークのソーホーにあるオフィスで仕事をしていたが、「自然光が入ってこないし、ギューギュー詰めで蛍光灯に照らされてて、騒がしい人もいるし、女性用トイレには暖房もない」ので、気に入らなかった

コワーキングスペースはフリーランサーやスタートアップのためにあるように見えるが、実はこうした会社(従業)員たちにも使われだしていて、彼ら(彼女ら)はオフィスから逃れるために月に300ドル以上を支出している。

The Wingのプランは月額215ドルからスタートする。WeWorkのホットデスクはロケーションによって月額250ドル〜500ドル。ソーホーのThe Farmは最初の3ヶ月は月額199ドルで、その後299ドルになるプランがある。ロスのSandhouseでは月額250ドルでコワーキングスペースが利用できる。

「The Wingはゴージャスでアメニティもたくさんあり、もちろん温度調節もできる」(Aliye)。カフェやカンファレンス・ルーム、フリードリンク、ロッカー、ビューティールーム、それにシャワーまである。

Prosper Goworkは月額99ドルで利用できる。WeWorkやThe Wingに比べるとリーズナブルで無料のコーヒーもある。ただし、シャワーはない。BKLYN Commonsでは月額300ドルだが、400ドルで専用デスクが利用できる。

フレキシブル・ワークスペース(※適当な訳語がまだないが意味は通じるのでこのままにする。要するに特定のデスクを特定のメンバーと使用する従来のオフィスと違って、日によって違うメンバーが誰でも利用できる、いわばコワーキングスペースのような仕事環境のことを言う)業界全体は、2010年以来毎年約23%の割合で成長している。2030年までにアメリカの全オフィスの30%を占め、それは現在の5%アップになると予想される。

コワーキングスペースを利用する企業は、「社員が新しいアイデアを生み出すようスタートアップの近くにいることを望んでいる」。

また、落ち着いた静けさを提供するので利用するメンバーもいる。スタートアップではすばやく成長することが求められるが、スピードのあまりノイズが多いのは仕事の妨げになる。「それでコワーキングスペースを使うことにした」。

異業種や他の企業の人と一緒に仕事することを好む人たちもいる。「誰も肩越しに私の仕事を見る人もいないし」(Aliye)。

「オフィスにいたらなにか気の利いたこと言わなきゃとか、しっかり仕事しなきゃとか、いつもいろいろプレッシャーがある。でも、コワーキングスペースなら誰も人を値踏みしたりしない。ここでならオープンな気持ちになれるし、人に見られていない時にアイデアが流れ出てくる」(Jeff Leisawitz)。

「いつでもとてもプロダクティブで落ち着いた気分になれる。同じスタイルで仕事をしている人たちに囲まれてるとエネルギーが湧いてきて前へ進める」(Aliye)。

Brooklyn Creative Leagueの共同ファウンダーNeil Carlsonは、「コワーキングスペースはコミュニティであることを重視するが、それは従来のオフィスでは必ずしもうまく実現できなかったものだ」と言う。彼は、他のコミュニティ・スペースがどんどんなくなっていることが、コワーキングに人が集まる理由の一つと考えている。

「とりわけニューヨークのように、教会のような公共の施設が減っている地域では、コワーキングスペースに集まってきて、直接に仕事に関係しないリレーションシップを築いている」。

Gallopの調査によると、教会やシナゴーグ、モスクに属するアメリカ人は、1999年には70%だったのが、2018年には50%に減っている。

アイデアを巡ってブレインストーミングしたりディスカッションしたりできるのは、コワーキングスペースの魅力だ。一方で、リモートワーカーは目の届くところにいないことで、オフィスにいる同僚と同じパフォーマンスを発揮していても評価が低くなりがちという調査もある。

「人はより誰かのそばにいるときに、その人をより快適に感じ、彼らを信頼し、彼らを昇進させようとする。本社から離れていると昇進のスピードは遅い」。

こういう意見もある。

「全員が同じ部屋にいて会議する場合、アイデアが生まれクリエイティビティが発揮されイノベーションを起こす可能性もある。コワーカー同士の予期せぬ相互作用もまた重要だが、全員がリモートワークしているとなかなか起こりえない」。

あるいはこういう意見。

「オンラインでのコミュニケーションは予定されている場合にはうまく機能するが、協働することで得られる価値は得てして予定していない時に起こる」。

Liquid SpaceのCEO、Mark Gilbreathは「時々、オフィスを出ても大丈夫。コワーキングスペースはより生産性を感じられる環境だから」と言う。ぼくはこの意見に賛成だ。

さて。

企業に勤める社員が、会社からの指示にしろ自分の選択にしろ、コワーキングスペースを利用するようになってきているのは日本もその例外ではなくなってきた。大企業では、優秀な社員を保持する目的もあってリモートワークを制度として導入するところが徐々に増えてきている。スペースとすれば、これまでのフリーランサー一辺倒から、その利用者の属性を幅広く受け入れる体制も求められるのは言うまでもない。

この記事で注目したのはThe Farmの段階料金式プラン。試しに社員を(社員でなくてもいいのだが)コワーキングスペースに送り込むにはいいプランだ。

なお、これまでのビルのリース契約では通常、テナントは特定の床面積を複数年契約で借りることになる。しかし、変化の激しい現代のビジネスシーンにおいては、拠点を移動することで社員数が月ごとに増減することも(グローバルな企業ならなおさら)あり得る。そういう場合、必要のなくなったスペースにコストを掛けるのは経営上不都合だが、複数年契約で縛られている限り逃れることが出来ない。

ところが、コワーキングスペースは原則として一人あたりの一ヶ月料金でその利用料を計算する。テナント企業とすれば、フレキシブルに利用ボリュームを調整できるのは、固定費を節減する上で大変都合がいい。企業がコワーキングスペースを利用しだしたのにはこういう理由もある。

ところで、フレキシブル・ワークスペースが2030年にはアメリカのオフィスの30%を占めるというが、そのスピードに驚く。ちなみに、少々、趣が違うが、CBREの調査によると東京23区内の賃貸オフィスのうちコワーキングスペースの占める割合は2018年時点で7.9%。数字は小さいが、こちらも急速に拡大している。

もうひとつ、コワーキングスペースがコミュニティのための場として地域の人たちに活用されているというNeil Carlson氏の指摘は非常に重要。実はぼくもコワーキングツアーで地方のコワーキングスペースを回るうちに見えてきたのは、各地のコワーキングがただ仕事をする人のためだけにあるのではない、ということだった。

コワーキングはそこに集まる人たちがさまざまな形で交差するハブとなりインフラとなって、その地域で生きる人たちの目的の達成や、あるいは地域の課題の解決のために機能している、いわば公民館のような存在となっている。アメリカで言う教会がそれにあたるのかもしれない。

ぼくはそれを「コワーキング・マンダラ」と名付けて図説にしている。

このマンダラにある8つのテーマを何らかの形で実現するプログラムを動かすのが、ローカルコミュニティとしてのコワーキングだと考えている。そしてその前提となるのがリモートワークだが、この件はまた別の機会に書きたい。


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