コミュニケーションのプロとして
タクシーというのは、様々なお客様目的地にお送りします。そんな中で深夜に意外と重要な比重を占めている役割があります。仕事というのは、様々な仕事がある訳で、一般的なお仕事のほとんどは、朝から夕方までという時間帯ですが、電車が動いていないうちに出勤しなければいけない市場や空港関係者の方々もいます。特に東京には羽田空港という大きな空港がありますので、
夜明け前にたくさんのタクシーが空港関係者をお送りすることになります。
その多くが事前に予約をされています。私はいつも同じような地域を営業している人間なので、そうなると以前お送りした方をお送りするというケースも増えてきます。お客様にとって、ドライバーが失礼な人間でないとするならば、まったく知らない人間が送るよりも、顔なじみの人間が送る方が気持ちは楽になります。
そうするとお客様から会話をしてくださるケースが増えてくるわけです。
これはドライバーによって違いはあるのですが、私は積極的に自分からコミュニケーションを取ろうとはしません。お客様にとっては貴重な時間ですので、その空間で休みを取ったり仕事をしたりなど、自由に過ごしていただきたいからです。もちろんお客様から話しかけてくださった時には、
お客様を不快にさせないように充分注意を払って対応します。
お客様から話しかけてくださる場合、気をつけないといけないのは、お客様が気を使って話しかけてくれてることがあります。特にシーンとした状況が気まずいと考えている方は、意識的に話してくださいますので、それを鵜呑みにして、調子に乗って話すと、
それは逆に迷惑をおかけすることになりかねません。
そういう気配りをしながら日々業務をしてるわけですが、空港関係者の多くはサービス業ですので、こういう気配りをされている方が多い訳です。私ももちろん察知はするのですが、お客様も察知をしてくださると、お客様からこういう言葉をいただきます。
コミュニケーションのプロですね。
コミュニケーションを専門的に勉強してる私にとっては最高の褒め言葉になります。もちろんその言葉に対してお礼の言葉を述べるとともに、「実は勉強してまして」ということをお伝えすると、やはりお客様もプロですから、「それは興味ありますね。意識してることってあるんですか」と聞かれます。
その時にお伝えさせていただくのは、
「自分が主役ではなく、相手が主役である」というです。
どうしても会話の切り口として、自分が一生懸命話題を振って、間を作らないように質問したりして場をつなぐことをしてしまう人って多いんです。ひっきりなしに話して、それを相手が返すということを繰り返して、その場が盛り上がったりすると、自分はコミュニケーション上手と勘違いします。でもこれは相手が気を使って成り立ってるコミュニケーションであり、
実は相手に負担をかけていることになります。
大事なのは、相手が話しやすいように言葉ではなく、環境を整えること。相手が気を使うことなく、自然に言葉を発することが出来るよう促すこと。それは「自分が話す」ということではないんです。究極は、自分が少ししか話すことなく、相手が笑顔で話すことが出来ること。それが出来てはじめて自分はコミュニケーション上手となるわけです。
サービス業はコミュニケーションが主たる仕事ですから、業種は違っても突き詰めるところは一緒です。こういう話をさせてもらったあと、お客様から、「勉強させていただきました」という言葉をいただくのですが、その時は決まって、
「それはお客様がコミュニケーションのプロだからです。最高な時間をありがとうございます。」
とお伝えさせていただきます。