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カッタ〜

正月休みは無い。

家電量販店で働いているから。

死んだ心で生きた顔をしていると肩をポンポンと叩かれた。

「いらっしゃいませ!」

振り返ると黒い糸?がふわふわと漂っていて、その先端には紙コップが付いている!?

「え!?」

 「   !」

「ん?」

 「      !!」

なにかうっすら蚊の鳴くような声が聞こえる。

浮遊している黒い糸に繋がる紙コップ。

黒い糸はこの階の入り口までずーーーーーーっと続いており突き当たりをクッと右に曲がってエスカレーターを下る方向へピンと伸びている。

 「      !!!!」

まさかと思い、恐る恐る紙コップを手に取り耳に当てる。

 「紙コップです!!!!」

「うるさ!!!!!!!!」

反射的に紙コップを投げ捨てるが、ふわ〜〜〜っと黒い糸がしなってまた手元付近に戻ってきた。

もう一度、紙コップを耳に当ててみる。

 「先ほどはすいませーん、聞こえたら返事してくださーい」

今度は普通の声量が聞こえる。

女性の声。

返事…?

「あ、もしもし〜?聞こえますか〜?」

紙コップを口に当てて返事をしてみる。

また耳に当てる。

 「聞こえます〜」

やはり糸電話。

糸電話?

 「あの〜、探してるものがありまして〜」

客?

「あ、え、お客様ですか…?」

 「もちろん客です〜、じゃないと話しかけませんよ〜」

「はぁ」

 「あの〜、鼻毛カッタ〜ってどこにありますかね〜?」

「鼻毛カッターですか、鼻毛カッターはですね、この階じゃなくて、3階ですね」

 「そうなんですね〜、ありがとうございます〜」

すると急に耳に当てていた紙コップがすごい力で黒い糸に引っ張られ手から離れしゅるるるるるるるるると掃除機のアレのようにエスカレーター下り方向へ飲み込まれていった。

思わずそれを追いかけて3階へ下り、レジに入るとすぐに鼻毛カッターの入った紙コップが目の前にポンと置かれた。

 「     !」

鼻毛カッターを取り出し紙コップを耳に当てる。

 「ありました!」

「よかったです」

紙コップを口に当てて返事をし、鼻毛カッターのお会計に移る。

「当店のポイントカードはお持ち…」

紙コップが口元から落ちる。

手を離してしまった。

まっすぐ10mほど先。

黒い糸の起点に。

ショートヘアーの若い女が立っている。

黒い糸は鼻の左の穴から出ている。

ということは鼻毛…?

10m先の女が右の鼻を人差し指で押してスッと鼻息を吸う動きをすると同時に落とした紙コップがしゅるるるると女の元へ行き、財布から出した何かを紙コップに入れてまた鼻を指で押さえてフンッと鼻息を噴射すると一瞬で紙コップが手元に帰ってきた。

そこから取り出したポイントカードをスキャンして値段を鼻毛電話で伝えると同様にスッとまた紙コップが女の元へしゅるると行き、同様にフンッと今度はクレジットカードが来たので紙コップから取り出しタッチ決済をしてレシートと一緒に入れるとまたしゅるると回収されて女はちょうどきた背後のエレベーターに乗って1階へ降りていった。

「あっ」

 「      !!」

 「鼻毛カッタ〜!!」

「申し訳ございません!」

 「馬鹿よねお金だけ払って〜(笑)」

「そうですね(笑)」

しゅるるるるるるるるるるる

「ありがとうございました!」

下りのエスカレーターへ消えていく鼻毛と鼻毛カッターの入った紙コップを頭を下げて見送りながら、鼻に繋がっているのにこちらからの声がどうやって聞こえて、あちらからの声がどうやってこちらに伝達しているのかを聞けばよかったと思った。

『発話を命令する神経』と『音波を言葉に変換する神経』が鼻毛に繋がっているのかもしれない。

でもまぁなんであろうと本人的には『不要』だと判断したのだから、それを聞くのは野暮だと反省までしたお正月でした。

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