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電車で倒れた話。

高校生の時、電車に乗っていたら目の前の女の子が倒れたことがある。

フラフラして普通の様子じゃないその子に声をかけた。
「大丈夫ですか?」と聞いた時、ゆっくりと振り返り、その子は倒れた。
私の目を見ているようで、もっと遠くを見ているような目をしていた。

人が目の前で倒れた経験は無かったのでかなりテンパってしまったけど、とりあえず、その子のそばを離れないようにした。

駅につき電車が止まったので、その子を運び出そうとした。
ほぼ満員に近い状態だったが、周りの人は動こうとせず、道を開けてくれなかった。
少し大きめの声で
「通してください」というと、
近くにいた優しそうなおじさんが、一緒にその子を抱えてくれ、私よりも大きい声で、
「通してください!体調不良者がいます!」
と周りに伝えてくれた。
無事に駅に降りれた。

ホームのベンチに座らせ、急いでポカリを買った。
その子に飲すと、おじさんが駅員さんを呼んで来てくれて
もう大丈夫だねと言って去っていった。

女の子に怪我はなさそうだし、ちゃんと喋れるくらいまで回復したので
私は仕事に向かった。

家に帰った私は愚痴をこぼした。
私は稽古に遅刻してまでその子を助けたのに
率先して助けてくれたのが、おじさんだけだった。
なかなか道を開けてもらえなかった。
みんな自分のことばっかり。
何のために義務教育を受け、道徳を学んで来たのやら。
この国は本当に優しくない。


今日、電車で倒れた。
倒れたというには大袈裟かもしれない。
目の前が真っ暗になったと思うと、気づけばしゃがみ込んでいた。

頭が重くて、上げられない。気持ち悪い。
何も前が見えなかった。
身体中から汗が吹き出ていて、サーッと血の気が引くように体から熱が逃げていくのがわかった。

言ってしまえば、ただの熱中症である。

世界からフェードアウトする間にいる感じが心地よく感じるまであったが
ここで倒れてしまったら、電車止まるよな。
信じられないくらい、人に迷惑かけてしまう。
と思うと、すごく怖かった。

自分のことより、他人への迷惑を恐怖に思うあたり、
自分自身に余裕を感じるが
ひとりで朦朧とする意識と戦うのは寂しかったし、苦しかった。

そうしていると、近くに立っていた女性が声をかけてくれた。
「次で降りれますか?」
「駅までもう直ぐです。」
「あともう少し、頑張れますか?」
と、私の横にしゃがんで声をかけ続けてくれた。

駅に着いた時、通り道を開けてくれない乗客に、
「通してください!」
と言い、私のことを気にかけながら電車から下ろしてホームのベンチに座らせてくれた。
しゃがんでいるうちに復活してきていたので、その女性は、少しここで休んでくださいね。というと消えてしまった。

確かに、手を差し伸べてくれたのは女性1人だけだった。
私がその近くにいたら席譲ってるな。とか
自分も降りて駅員さん呼ぶとかするな。とか
後々思ったが
当時はその声をかけ続けてくれた女性に本当に支えられた。
その人がいなかったら、確実にぶっ倒れて、電車を止めていたと思う。

女の子が倒れてポカリをあげた時、
本当にありがとうございました。
と言われた時のことを思い出した。

2024.07.19


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