鹿の子

思いついたことを、気ままに書いています。詩だったり、エッセイだったり。最近は、本の感想…

鹿の子

思いついたことを、気ままに書いています。詩だったり、エッセイだったり。最近は、本の感想が中心です。

最近の記事

下着デザイナー鴨居羊子さんを知っていますか?(本の感想)

 鴨居羊子は昭和31年から下着デザイナー、人形や絵画などの創作兼会社経営といった多彩な活動をした女性である。今でいう、起業家だった。当時、下着は大半が白色、実用品としか見なされなかった。そこに、下着を実用性以上のものとして、カラフルでファッション性があるものを作った。そんな彼女の自伝エッセイ『わたしは驢馬(ろば)に乗って下着をうりにゆきたい(ちくま文庫)』(表紙に使われている人形は、鴨居羊子の創作したもの)について書きたいと思う。当時の社会状況等の補足をするため、彼女について

    • 『秘密の花園』を読んで、心の回復について考える

       バーネットの小説『秘密の花園』。作者はイギリス生まれだが、16歳の時家族でアメリカに移住し、のちに小説家として成功してからは、イギリスとアメリカを行ったり来たりしていた。秘密の花園は、バーネットが61歳の時に書き始めた作品。読む度にぼんやり思っていたことを言語化してみました。  主人公のメアリは、両親から全く愛されたことのない、体の弱い9歳の少女である。そのため、メアリは思いやりや愛すること、淋しいという気持ちが分からない。  父親は、当時インドを統治していたイギリスの軍

      • 『ぼくを探しに』を読んでみて

         シルヴァスタインの『ぼくを探しに』と『ビック・オーとの出会い』。最近は、『ビック・オー~』の方は、作家・村上春樹さんの訳が出ているよう。しかし、私は倉橋由美子さんの訳で親しんだので、今回は倉橋さんの訳をベースに、本の感想を書きたい。  『ぼくを探しに』は、欠けたところのある丸が自分にぴったり合うかけらを探す話である。丸は欠けているから速く転がることができない。その分、道中にあるものを味わいながら、ゆっくり進んでいくことができた。そして、とうとう自分にぴったりのかけらに会う

        • 『ちいさな ちいさな王様』

           表紙の絵に魅かれて、思わず手に取った本について書きたいと思う。  本のタイトルは『ちいさな ちいさな王様』(アクセル・ハッケ作 講談社)  挿絵はミヒャエル・ゾーヴァである。  あらずじは、ある日男性の部屋に、男性の人差し指ほどの大きさの王様が現れるようになった。  たとえば、男性がしょっちゅう気を滅入らせていた時期があった。そんなときに王様が、おまえが眠っているときにみた夢の話をきかせてくれという。男性は、ジェット戦闘機のパイロットの夢を見た、という。ジェット機の

        下着デザイナー鴨居羊子さんを知っていますか?(本の感想)

          今日の自分の気分に耳を傾けること

           江國香織さんのエッセイであることは確かなのだが、『泣く大人』だったように思うが、『いくつもの週末』だっただろうか。その中に、彼女は、普段の食事は主に果物などを食べ、小食である。しかし、誰かと外食に行く時には、その時に自分が食べたいものが何かを真剣に考える。たまに行く外食だから真剣に考えてしまう、というようなことが書いてあったと記憶している。 「野菜、野菜だ!」とか。そんなふうに体にきいて、今の自分が必要としているものを食べに行くのだという。だいぶ前に読んだから、記憶もあい

          今日の自分の気分に耳を傾けること

          ”母の日に菊を贈られた”という話から感性と社会常識について考えた

           ずいぶん前に知人女性から聞いた話です。知人女性のご子息(6、7歳くらい)が、母の日に花屋で花を買い、その知人女性にプレゼントしたのですが、その花は菊だったそうです。  知人女性は「小さな子供が母の日に花を買うなら、母親への贈り物なのでは? と想像ができそうなものだけどな。花屋さんが子供に一声かけて、菊を贈るのを止めてくれたら良かったのに。子供には、ただありがとうって言って花をもらったけど」というようなことでした。  ここで、知人女性が菊を贈ることを問題視しているのは、母

          ”母の日に菊を贈られた”という話から感性と社会常識について考えた

          自分にできることと評価されること

           自分にできることをしたら、評価されることは手放したらいいのではないかと思う。  例えば、ガーベラ。蕾の時は冴えない。筆の先のようでいて、花びらの一枚一枚がそれなりの大きさがあるから、繊細でもない。円盤のように開ききっている時が一番きれいだと思うのではないだろうか。  対して、チューリップ。蕾がほころび開きかけの時がふくよかで一番愛らしい。花びらが開ききるとだらしない印象を持つのではないだろうか。チューリップの花びらは縦に細長く薄いから、垂れ下がるとだらしなさが強調される

          自分にできることと評価されること

          心の距離感の感覚について思うこと

          心の距離感の感覚は外国語に似ている。理解するのが難しい。 最初から近距離を好む人。 ずっと遠距離でいたい人。 徐々に近づきたい人。 厳密には、グラデーションのように人それぞれ少しずつ、距離感の感覚は異なる。 似た感覚の人同士は、スムーズに会話が進む。お互いの負担にならないから。違う感覚の人同士は、片方が一歩近づくと、片方が一歩遠のくを繰り返す。 近づきたい人と近づかれたくない人。 踏み込みたい人と踏み込まれたくない人。 どちらにとっても不満足で、かみ合わない会

          心の距離感の感覚について思うこと

          花を生ける

          花を生ける時には 中心になる花を まず選ぶ 中心になる花を立て 周りを囲む花の 長さや角度を選んでゆく 一つの花瓶に花を集めるなら それぞれの最適な立ち位置を探す必要がある 花の組み合わせが変われば 中心になる花も変わる たとえ一輪で生けたとしても 花の角度や花瓶との組み合わせで 美しく見えないこともある 花は花そのものだけである時には どれもその花だけで美しい 生けようとすると 花の美しさだけで美しくはならない 美しく見える最適な立ち位置は

          花を生ける

          散歩をしてみれば

          窓から見える空が狭く見える時ほど 広がりを求めてる 外を散歩してみれば すぐにわかる どこまでも続いている空を見て ほっとするはず 窓から見えるのは 固定された位置からの ほんの一部 閉め切った窓が息苦しくなる時ほど 体の感覚を取り戻したがってる 外を散歩してみれば すぐにわかる 風の流れ 太陽の光 雨のにおい 五感に訴えるものが あふれていることに ほっとするはず 窓の内側は寒くも暑くもない代わりに 限られた広さの中で一定に保たれてる 窓からの眺め

          散歩をしてみれば

          さざ波

          笑顔が 小さなさざ波の 最初の波になる 心の中に抱える 哀しみも 不安も 緊張も 恐れも わかりやすく外側にあふれ出てはくれない 自分の周りにぼんやりと 薄い膜を張り 微弱なふるえを発するだけ 普段 そんなに人と人とは近づかない 近づいてもほしがらない お互いに だから 薄い膜は 周りを拒絶しているかのように感じさせる 本当は もう精一杯で苦しい の合図でも なぜか負の感情の波は 相手を緊張させ 頑なにさせ 時に、敵愾心を煽る でも 根底にあるのは

          おやすみ

          月がわたしを追いかけ 風がわたしを追い抜いていった 影がわたしの前を歩き 信号機の青がわたしを手招きする 今夜はとても月が明るい 前を歩く影が薄くなった 振り仰ぐと月が雲に隠れている 月の隠れているところだけが 雲が浮き上がって白い 早く帰れと 風が顔を撫でてわたしを急かす おやすみ おやすみ また明日 雲の切れ間から 月が覗いて 隠れた ちょうど おやすみを言うように おやすみ おやすみ また明日

          しっかりと 鍵のかかった箱がある 鍵のない 開け閉めの容易な箱もある 鍵のかかった箱は 誰でも中身を見ることができるわけではない 鍵が開かれている時だけ あるいは  鍵を見つけた人だけが  中身を見ることができる 鍵のない箱は 誰でも中身を見ることができる いつでも開いている でも そんな箱の中もよく見れば 大きな何かの影に隠すように ひっそりと 鍵のかかった小さな箱が しまわれている そんな心の箱を持っている人もある

          泣いている

          泣いている 涙がにじむ程度に 指先でひとぬぐいする程度に うつむき加減にして 教室や職場の席で バックの中身を探すフリして 駅のホームで 緑に目を向けて 公園の片隅で せき止めようとして 止められず あふれ出た 哀しみの片鱗を 知っているのは 自分の指先だけ 細く息を吐き出して ゆっくりと まばたきをした

          泣いている

          降り積もってゆく

          些細な会話でくくられるものもの 小さな思いやり ささやかな励まし ほんの少しのユーモア ちょっとした感謝 他愛のないと片づけられるものもの  小さなからかい ささやかな噂話 ほんの少しのキツい言葉 ちょっとした皮肉 こぼれ落ちるものは小さくても 受ける側の印象が小さいとは限らない こぼれ落ちるものは小さくても 繰り返されれば降り積もり 大きな塊になる こぼれ落ちたものは 消えてなくならない こぼれ落ちたものは 拾い上げることもできない ただ 降り積

          降り積もってゆく

          小さな 小さな

          小さな街の 小さな家に 小さなお皿があって りんごが二切れ 乗っていたり ゼリービーンズが 散っていたり カップケーキが ちょこんと おすまししていたりする 小さな街の 小さな家には 小さな器があって 寒天とみかんが 黒蜜の中を泳いでみたり プリンが つやっと 鎮座してみたり アイスクリームのバニラとチョコが 並んでポーズを とってみたりする 小さな街の 小さな家には 小さなテーブルがあって 向かい合って 二つの椅子が置かれている 今日も椅子の前には

          小さな 小さな