えむのこと ~最後の一週間のこと 5/29~

5/29
しゃっくりのようなピクピクはお腹から始まったと思う。それが1日掛け右手、左足と次第に増え大きく強くなっていった。最初はえむも不思議な感じで驚いていたが慣れていったみたい。

今日だろうな、と思っていた。
決めつけていた、願っていた、望んでいた。
この言い方の方が正しいのかもしれない。えむの死期を決めてそれを察したえむが叶えてくれたのかもしれない。

自力で水が飲めない食べられなくなってからえむの体温は少しずつ下がっていたけれどこの日は寝ているえむのおなかの下に指をつっこんでも何の温かみもないくらいだった。まるでぬいぐるみのよう。
でも心拍数も鼓動も強く、まだまだ頑張るんだろうなと思った。心拍数は1分間に120-130回ほど。
呼吸数は普段よりは少し少なめで1分間に16-18回程度だった。
耳をおなかにあてて聴くのはえむに熱い思いをさせてしまうと思って、過剰輸液からの肺や心臓の負担を気にして買ってあった聴診器が役に立った。

呼吸音は15秒〇回×4
心拍数はBPMアプリをタップすると即出るので便利だった。


シリンジで飲める水の量も多いときは20mlも飲めていたのに、1.5mlが限界で嫌がり顔を背けどこにそんな力があるのかという力でわたしの手を手で押さえつけて拒否をした。それでも輸液をやらない決断は変わらなかった。

朝から何度も何度もおしっこに行った。
身体から全部出して旅立つ準備をしているのか、尿毒症を和らげるために毒素をだしているのか。わからない。
おしっこは元気なころは元気な音をだして勢い良くしていたけれど、次第に絞り出すような一滴一滴をゆっくり時間をかけて出すような感じだった。
トイレの段差が越えられずトイレの外にしてしまうこともあったけど飛び散る砂対策のために常にペットシートを引いていたので問題なかった。
トイレが終わったら倒れ込むように寝る。

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顔から倒れ込んで顎についたよだれと血に猫砂がついてしまって痛くないように取るのに苦労した。


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寝ているときだけ安堵した。

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手で顔を支えてあげれば痛いところに当たらないけど、わたしの手はどうしても暖かくえむにとってはやけどするように熱いのではないかと心配だった。自分の手を濡れタオルや保冷剤で冷やした。


窓の縁でよく寝ていたので目を離して仕事をしていたらドタという音がした。
えむは身体が大きいからはみ出ていて、足場のためにバスタオルを折りたたんで置いておいたのが幸いしてクッションになったみたい。

えむ的には大変な状況なんだろうけど、ふわふわのおなかとピンとした足が可愛くて可愛くて…。大丈夫だよ。お姉ちゃんもベッドから何回も落ちたことあるよと励ましながら手を握って写真を撮った。

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引っ張り出してあげようかと思ったけどもち上げようとしたら鳴いたので、ここにいたいのねとそっとしておいたら寝ていた。
本当にえむはかわいいね。


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最後に膝に乗ってもらったり、おなかに乗ってもらったり穏やかに過ごした。えむはなにをするにも黙って優しい顔で受け入れてくれた。


この日は空も青く、風は心地いい程度に冷たくて、過ごしやすかった。
日が少し落ちてきたとき最後にトイレでおしっこをしてから意を決したようにテーブルの下に戻った。外が暗くなる。もう明るい空はえむと一緒に見れないんだろうなと思うと悲しくなった。

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このとき明確に「えむが死を受け入れた」と思った。
これまでえむの死を望んでいた自分に猛烈に嫌気がさしてえむに謝った。えむはずっと回復を望んでいたのかもしれない、もっと生きたかったかもしれない。それなのにわたしは自分のために早々に諦めて回復する手助けをしなかった。「えむを早く楽にしたい」と聞こえはいいけど、全部きっと自分のためだった。でも本当はずっと一緒にいたいし、また一緒に何でもない日を楽しく暮らしたかった。感情がぐちゃぐちゃだったけど、えむは痙攣のせいだとは思うけどわたしの指をぎゅ、ぎゅと握ってくれた。

トイレに行きたいけどもういけないという鳴き方をした。鳴き声は小さく微かなものになった。
タオルの上でおしっこをした。何の問題もない。タオルを変えた。迷ったけれどペットシートを引いてその上に寝かせた。

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唾液と口からの出血が止まって顎がカピカピになった。脱水しているからだと思う。体もぺたんこになった。
それでもまだ心拍数も鼓動の強さも呼吸数も変わらない。
水を含ませたコットンで口を拭えば喉の渇きは潤せると教えてもらったけれどえむは嫌がったのでそれもできなかった。



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えむの肉球は茶黒にかわいらしいピンクがランダムに混ざっている。場所を覚えたかったけど手足を触られるのは嫌いなのでなかなか観察できなかった。いまのうちにとiPadでメモをした。まじまじと手足を見ているとやめてと足で手を遠ざけるように踏んだり、尻尾をぺしぺしと動かしたり、いつも通りだった。

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「やめてよ」の顔


この日はHIROSHI WATANABEさんのDJ配信のある日だった。

先の見えない不安の中でわたしはこれがとても楽しみでえむにも「今日はワタナベさんのDJが聴けるよ。楽しみだね。」と話していた。

寝不足から痙攣で時折ピクッと動くえむの手を握りながらぼーっとしていたけれど、ワタナベさんのDJが始まる5分前くらいにふと気が付いて再生させた。


23時を過ぎたころだと思う。えむの呼吸数が変わった。速く浅くなった。
鼓動も少し弱くなっていった。
ああもうそろそろだ、えむとお別れなんだ、でも苦しみから解放されるんだ。悲しい、不安、でも音楽が鳴っていて励まされた気がする。
苦しそうに息を吐く→沈黙。でも耳をお腹にあてると微かに秒針よりも遅い鼓動音が聴こえるということが5回ほど続いた。体はピンと伸びていた。もう少しで楽になれる。もう少し。どうか苦しめないでと願った。
あーっと絞り出すような声を上げ、それが最後。目はまん丸に瞳孔が開いてかわいいかわいいお顔。苦しみの表情ではない。そっと目を閉じさせた。

まだ音楽は鳴っていた。でも終わりに向かっていた。

えむが腎不全で長くないと分かったときから、えむにはたくさんいい音楽をしってもらおうと思って明確に「えむと一緒に聴く」という感覚で音楽を聴いてきた。きっとこれはただの飼い主の自己満足でえむにとっては「うるさいなー静かに寝たいのに」だろうなと思ってたけど、えむはえむなりに音楽を受け取ってくれていたのかもしれないと思った。わたしの子らしいなと思った。

保護してすぐにわたしの匂いが付いているからとえむに貸してあげたコットンのレースが可愛いブランケットを半分に切って包んでから白の籠ベッドに寝かせた。くてんくてんの体で抱っこするのが大変だった。

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看取り方なんて全員が違うし、いざとなったら役に立たないな!と思っていた本だったけど、見送りの準備のページだけは役に立って見ながら硬直が始まる前に身体の形を整えたりした。いつも通りきえーるをふくませたコットンで手足を拭いた。ハンカチに包んだ保冷剤をお腹にあてた。

えむはここにいるけどもういない。
身体は冷たく固くなってしまった。

でも苦しみからは解放されてきっといまごろ黒缶食べているんだろうなーと思いながら眠った。




これがえむの最後でした。

自分の気持ちの整理の為に書き起こしたのもあるけれど、えむが腎不全と分かってからいろんな腎不全猫ちゃんの闘病ブログを見て学んでいました。特に最後の瞬間の記事は何度も何度も読んで覚悟を決めていました。
治療法もなく、薬はサプリの種類は多いけどなにが本当に効果があるのかは分からない。輸液をやめるタイミングも強制給餌も辞め時が分からない。腎不全猫ちゃんの飼い主さん共通の悩みだと思います。
えむに対しても正解はありませんでした。でもたくさん悩んでだした結論なのでこれが正解だったんだと思います。後悔はあるけれどそれは仕方がないことだし、えむのためにめちゃくちゃ考えて出した結論ならえむはきっと許してくれてると思っています。
えむのことが同じ病気を持った猫ちゃんの飼い主さんの一例として役に立つことを心から願います。

また腎不全猫ちゃんを看取ったたくさんの飼い主さん。記事にして残してくれてありがとうございました。救われ、学び、覚悟を持つことができました。本当に何度も何度も読ませていただきました。



最後に最終的に買ってよかったものをまとめたらえむのnotoはおしまいとします。


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