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『Rabbit In Your Headlights』トンネルを歩くホモ・サケル(聖なる人)

トンネルの中を黙々と歩く一人の男がいる。彼は何かを呟いている。異国の言葉のようでもあり、祈りの一節のようでもあり。ただ男が少しヤバい人間であるには違いない。
トンネル内は車が行き交う。やがて後方から走ってきた一台の車が彼と激突した。

まあその後何度も何度も何度も何度も車に轢かれては立ち上がる男に対して、観ているこっちも痛みが薄れ、滑稽にすら思えてくるのが、作り手の仕掛けなんだろう。
正直初めてこの映像を観たとき、何この男、最強っと笑っていた。
男にしてみれば、轢かれる前の数秒前にタイムリープして延々と歩き続けなければならない、救いのない世界だ。

アガンベンの哲学は詳しく知らないのだけど、ホモ・サケルというのは聞いたことがある。
聖なる人って意味らしいけどそれは建前。ローマ法の例外規定の中に登場する存在らしい。
要は「聖なる人」ならば特別枠だから、殺害しても罪にならないと。

排他的な存在を作ることで秩序を守ろうとするのはよくある話。日本の差別の歴史とか、迫害とか、私はネットで悪者を仕立て正義感かざして炎上させて自殺に追い込むのも同じだと思っている。コイツが悪いんだから何書き込んでもいいだろ? と。気持ち悪い。


ラスト、男は自ら服を脱ぎ捨て、十字架に磷付されたポーズを取る。
美しく胸のすくような場面だが、やはり男はホモ・サケル(聖なる人)だったのかと虚しくもなる。


like a rabbit caught in the headlightsで
非常に激しい恐怖を感じている
という意味になるらしいので、theをyourに置き換えることで、世界まるみえ仰天映像なんかで轢かれそうなウサギをハラハラと傍観しているお前らが、ウサギを恐怖におとしめているんだよっ
といったメタ構造にも受け取れるし、トムヨークあったまいいからね。そのくらい裏を読んでいかないとかなあって。

ラビット・イン・ユア・ヘッドライツ feat. トム・ヨーク。いいわあ。





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