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巫蠱(ふこ)第二十一巻【小説】



赤泉院せきせんいん

 いや、みずたまりでなくちいさないずみだろうか。
 というのも、水面すいめんからひとのあたまがあらわれたから。

 すくなくともくびからした胴体どうたいかく程度ていどふかさはあるらしい。

 かおくちてん全開ぜんかいにして過呼吸かこきゅうおとかえした。
 かぼそくれに「瞑想めいそう記録きろく……更新こうしん」ともこえた。

赤泉院せきせんいんめどぎ桃西社ももにしゃ睡眠すいみん

 うまでもなく、いずみはいっていたその人物じんぶつ筆頭ひっとう巫女ふじょ赤泉院せきせんいんめどぎである。

 彼女かのじょ睡眠すいみんされ、シズカたちの部屋へや隣室りんしつれていかれた。

 ややあって、衣装いしょうなどをととのえためどぎ縁側えんがわをとおってかおす。
わるいね。緊張きんちょうしておもわずげた」

 まだいきみだれている。

茶々利ささりシズカと桃西社ももにしゃ睡眠すいみん

 ついでめどぎのあとから睡眠すいみん姿すがたせる。

茶々利ささりシズカ」
 睡眠すいみんめどぎかたせてそのうごきをせいしながらシズカのた。

十我とがによると、あなたが人質ひとじちとか。脅迫きょうはく拘束こうそくはしません。筆頭巫女ひっとうふじょとは一定いってい距離きょりたもち、言葉ことば最低限さいていげん返答へんとうのみでおねがいします」
「はい」

茶々利ささりシズカと桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

 座布団ざぶとんからがり後退こうたいするシズカ。

 ここで、部屋へやぐちひかえていた鯨歯げいはがその座布団ざぶとんひろう。

 ある程度ていどうしろにさがったシズカがたたみうえ正座せいざしようとした瞬間しゅんかんかれたたみとのあいだに座布団ざぶとんをすべりこませる鯨歯げいはであった。

 シズカは座布団ざぶとんうえき、黙礼もくれいした。

赤泉院せきせんいんめどぎ桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

「で、鯨歯げいは
 睡眠すいみん片腕かたうでにもたれかかり、めどぎこえす。
「おまえも人質ひとじちになるらしいけど、どうすんの」

大丈夫だいじょうぶです筆頭ひっとう
 鯨歯げいはおおきくむねをそらした。
客人きゃくじんがたがあぶなくなったら、わたしがわたしを始末しまつします」

「それをどうしんじさせる」
「シズカさんならかるとおもいます」

茶々利ささりシズカと桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

 鯨歯げいははしゃがんでシズカとわせた。
 口角こうかくをあげずに笑顔えがおつくる。そのわっている。

「シズカさんってこちらのったことをあっさりれすぎなんですよ。
信用しんようできない相手あいてたいして。

「でもこれ無警戒むけいかいのせいじゃなくて……ひとはらそこかるからでしょ」

茶々利ささりシズカと桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

うそをついたか推測すいそくできる程度ていどだ」

「すごいですよ。てずっぽうのわたしとちがって。あなたならこちらの本気ほんき見抜みぬいてくれますね」

「ああ」

「ありがとうございます。……シズカさんはわたしのうえばなしうたがわずいてくれました。
「いのちをけるには充分じゅうぶんすぎますよね」

茶々利ささりシズカと桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

 つめられつつもシズカは鯨歯げいは分析ぶんせきする。

不充分ふじゅうぶん不充分ふじゅうぶんなんだよ、それは。
(たかがはなしみみかたむけてもらっただけで、いのちをけようなんておもうものか。

彼女かのじょ覚悟かくご最初さいしょからうたがいなかった。おれたちを特別視とくべつしする理由りゆうもない。

(つまり鯨歯げいはだれたいしても、こうなんだ)

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

 シズカと鯨歯げいはのやりとりにうなずいて、めどぎたたみにひざをつく。
「あいさつがおくれてもうわけない。わたしが赤泉院せきせんいんめどぎだ」

 彼女かのじょはシズカでなく草笠くがさクシロをた。

 クシロは姿勢しせいただしてあいさつをかえしたあと、あたまをさげた。
「このたびは我々われわれれてくださり感謝かんしゃします」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

薄暗うすぐらくなってきたし」
 くびまわし、めどぎはそとの景色けしき確認かくにんする。

はなすのはあしたにしようか。
「きょうはふたりともうちでやすんで。それぞれ個室こしつすから」

かさねておれいを」

「クシロ、客人きゃくじんならもっと図々ずうずうしく。
「それとひとついとくけど、おまえら善知鳥うとうわれてたの?」

草笠くがさクシロ⑤

 めどぎにたずねられたクシロは一瞬いっしゅんシズカのほうにけた。

 シズカはくびすこたてる。

 その合図あいずけ、こたえるクシロ。

「あなたの人物じんぶつかはかりませんが善知鳥うとう我々われわれ上司じょうしです。
「ここをおとずれるまえ一緒いっしょはないました。

訪問ほうもん提案ていあんしたのはシズカさんですが」

赤泉院せきせんいんめどぎ

「なるほどな……

善知鳥うとう指示しじじゃないなら御天みあめ戦争せんそう巫蠱ふこわりかけているとまでは気付きづかれていない。
くもなきあめすべら同日どうじつたとシズカがうったえたってところか。

(そしてわたしと面識めんしきがあることをすくなくとも善知鳥うとうはクシロにはなさなかったな)

「……ありがと」

茶々利ささりシズカと草笠くがさクシロ⑭

 あくびを二三回にさんかい連続れんぞくさせるめどぎ鯨歯げいはのこし、客人きゃくじんふたりはその部屋へやる。

 個室こしつ案内あんないされる途中とちゅう廊下ろうかでシズカはクシロに一言ひとことだけつたえた。

 クシロはそれをこころ復唱ふくしょうする。
おれ顔色かおいろをうかがうな)

 こえ案内役あんないやく睡眠すいみんにもこえたはずだが、とがめられることはなかった。

赤泉院せきせんいん身身乎みみこ

 ところで、いまめどぎ鯨歯げいはのいるその部屋へやにはふたつの隣室りんしつがあった。

 ひとつはめどぎ衣装いしょうなどをととのえた場所ばしょ

 そして、もうひとつの空間くうかん。そこにひとがひとりひそんでいた。

 めどぎたちと客人きゃくじんらの様子ようす隙間すきまからずっと観察かんさつしていた彼女かのじょが、仕切しきりをうごかしいきをつく。

「さて、めどぎ姉様ねえさま

赤泉院せきせんいんめどぎ身身乎みみこ

「おまえはあのふたりをどうおもう」

 そんなめどぎいにたいし、見解けんかいべる身身乎みみこ

茶々利ささりシズカは厄介やっかいです。かれひとぬほどてきた人間にんげんですね。
「おそらく鯨歯げいは本質ほんしつ見抜みぬかれています」

「もうひとりは」
善良ぜんりょうですがおろかではありません」

「わたしも好感こうかんった」

赤泉院せきせんいん身身乎みみこ桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

問題もんだい鯨歯げいはのいのちと彼等かれら脅威度きょういど、どちらがおもいか」

 身身乎みみこ一瞥いちべつした。
 座布団ざぶとん二枚にまい下敷したじきによこたわる長身ちょうしん彼女かのじょを。

 自分じぶん話題わだいうつったのに気付きづいた当人とうにんは、そのままの姿勢しせい意見いけんする。

三女さんじょさん、わたしも利用価値りようかち計量けいりょうしてください。
「いのちはくらべられません」

赤泉院せきせんいん身身乎みみこ

たしかに、ずるい表現ひょうげんでした。

問題もんだい人質ひとじちのあなたを代償だいしょう客人きゃくじんふたりを始末しまつする必要ひつようがあるか。

「たとえばこうが『いま巫蠱ふこ安泰あんたいか』と質問する。めどぎ姉様ねえさまは『安泰あんたいだ』とこたえる。

「しかし茶々利ささりうそ看破かんぱするでしょう。
「そのときは犠牲ぎせいいとわず、彼等かれらかしてかえさない」

巫女ふじょたち⑧

 客人きゃくじんへの対応たいおうについてはなしめる三人さんにん

「シズカさんを別室べっしつ待機たいきさせるのは」と鯨歯げいは
「それだと重大じゅうだいなことをかくしていると勘付かんづかれる」とめどぎ
「なにごともなくかえってもらうのが一番いちばんです」と身身乎みみこ

 結果けっか危険きけん話題わだいんでこないようめどぎ会話かいわ誘導ゆうどうすることになった。

草笠くがさクシロと桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

 ……またける。

 目元めもとあさひかりたり、かれ目覚めざめる。
 シズカとはべつ個室こしつねむっていたことをおもしながらクシロは自身じしん手足てあしばした。

 ここで部屋へやがたたかれる。
 かれはゆっくりそれをあける。

 ると、廊下ろうか鯨歯げいはっていた。

「おはようございます」

桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

 クシロは鯨歯げいはについていく。
 案内あんないされた部屋へやは、きのうめどぎはなした場所ばしょ

空気くうきえは大切たいせつです」
 そとにつづ鯨歯げいはがあける。いずみが、みえる。

 そして彼女かのじょ両手りょうて自分じぶんくびをつかんだ。
 右手みぎてまえを、左手ひだりてはうなじをさえている。

「よし、これなら大丈夫だいじょうぶでしょう」

赤泉院せきせんいんめどぎ桃西社ももにしゃ鯨歯げいは

 そのとき、あくびをしつつめどぎ部屋へやはいってきた。
「おはようクシロ。鯨歯げいはも」

 こえをかけられたふたりは、あいさつをかえす。

 めどぎほそめる。
 自分自身じぶんじしんくび両手りょうてさえる鯨歯げいは気付きづいたからだ。

「そうでもしなきゃ自分じぶん始末しまつしようとしても睡眠すいみんにとめられるってわけか」

茶々利ささりシズカと桃西社ももにしゃ睡眠すいみん

「さすがに、とめられないね」
 そういながら姿すがたせたのはとう睡眠すいみんであった。

 うしろにはシズカがっている。
 彼女かのじょれてられたらしい。

茶々利ささりシズカ、部屋へやのすみに」という言葉ことばかれしたがい、指示しじどおりの場所ばしょ移動いどうする。

 となりには睡眠すいみんがぴたりとくっついている。

之墓のはかかんざし

 各自かくじ座布団ざぶとんこしをおろしたところで部屋へや食事しょくじはこばれてきた。

 それをってきたのも巫蠱ふこのひとり。
 のふさがった鯨歯げいは口元くちもとはしっていきながら彼女かのじょう。

「おきゃくさんたちはむろつみったの。ほら、をかくのがきな。

「わたしはかんざし。あののおねえちゃんだね」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

 食事しょくじ合間あいまめどぎがたずねる。

「クシロは熟睡じゅくすいできた? 昨晩さくばんかぎらず十我とがいえでも」
「おかげさまで」

「メシは」
「ありがたくいただいています」

「マジか」
「どういう意味いみです」

「わたしたち、得体えたいれないだろ。どくられるとか寝込ねこみをおそわれるとか警戒けいかいするのが普通ふつうでは」

草笠くがさクシロ⑥

(シズカさんが警戒けいかいするそぶりをせなかったので)とクシロはこたえようとした。

 が、やめた。
 きのう本人ほんにんに、おれ顔色かおいろをうかがうなとわれたからだ。

 他人たにんがどうこうではない。
 自分じぶんおもいをつたえるべきだ。

「みずからたずねた客人きゃくじんが、先方せんぽう信頼しんらいするのは当然とうぜん礼儀れいぎです」

(つづく)

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