声をかけられる男

友人とバスケットの試合を観戦し、
食事をしてそれぞれ帰宅した。

最寄りの駅で降りて繁華街を歩いていると、
UFOキャッチャーが沢山置いてあったゲーセンが工事中だった。
内装工事との事だが、看板もネオンも外されていたので、
工事後に同じオーナーでもどんな業態になるかはわからない。

そんな事を考えながら工事についての掲示を読んでいた。
すると、つなぎを着てマスクをした人が何やら話しかけてくる。
イヤホンで音楽を聴いていたので外して「現場の方ですか?」と尋ねた。
関係者と勘違いされたか、邪魔だからどけとでも言われるのかと思って。

するとそうではなく、「ここに通われてたんですか?」との世間話だった。
50代くらいであきらかに私より年長の方だったので、
この建物が何なのか知りたいのかなと思い、
そんなに利用した事はなかったけど話を合わせて、
「利用してましたよ。残念ですねえ」と答えた。

その男性も「昔からあったから本当に残念です」との事。
ゲーセンというのはご存知だったみたいだ。
いや、もしかしたらこの人も話を合わせてるだけかもしれないな。

その後、「このあたりで美味しい食事ができる店ありませんか」と、
話題も質問も代わり、知った店をいくつか挙げてみた。
非常に感謝されて、「最近は道を尋ねるだけでも走って逃げる人多いんですよ。」とのボヤきが。

確かに変な人もいるからリスクの回避は関わらないのが一番ですしね。
とはいえ自衛のためでも男ですら避けるというのは寂しい時代な感もある。

話が弾んで、下手したら一緒に飲もうという流れになりかねなかったので、
10分くらい話し込んだ後、失礼させてもらった。
特に不快な思いはない。
多少なりとも助けになったり気分が良くなってもらえたのならそれでいい。

実はこういう風に見知らぬ人に話しかけられる事が非常に多い。
それこそ道を尋ねられる事は数え切れないほどだ。
地元でも首都圏においてもそう。
たまたま降りた初めて訪れる駅の近くでも尋ねられるし、
旅行先でも地元民と思われて尋ねられる。

京都で道を尋ねられたのはさすがに参ったな。
自分も道を一本間違えたりしてたのだから。

また、今回のようにイヤホンをつけていても関係はないようだ。
以前東京駅で、案内板とにらめっこしているおばさんがいた。
その時もイヤホンで音楽を聴いており、
目が合ったわけでもない。
人波の中で止まっている人がいたから存在を認識しただけだ。

おばさんの近くを通り過ぎていくと、
なんとおばさんがわざわざ俺を追いかけてきて、
「横須賀線のホームはどこかわかりますか?」と聞いてきた。

その頃は自分も東京駅はあまり把握していなかったので、
おばさんと「ここでもない。うーむ。」と、
これも10分くらいだろうか、一緒に悩んだ。

当たり前だが駅員に見えるわけもない。
追いかけてまで俺に聞いたのは何故だったのだろう。
その質問をぶつければいいのだが、
生来のお人好しで真剣に悩んで「駅員さんに聞きましょう!」
で、締めた。
ちなみに横須賀線のホームは地下なのでその案内板だけじゃわからなかったのです。

困ってる人が助けを求めるのはできるだけ力になれたらと思う。
だから道案内などで話しかけられる事自体は何とも思わない。

わけがわからないのは、
進行方向から歩いて来た人に「おう!今日は仕事なの?」と、
誰かと間違えて話しかけられる事だ。

これは対処に困る。
「あの、人違いですよ」と言えばいいのだろうけど、
たいていの人はこちらが返答すると「やらかした」という顔をする。
なのでそこに追い打ちをかけるのも咄嗟には中々できないものなのだ。

「そうっす。今から入りなんですよ。」と、
そこの業界でもなんとか解釈できそうな事を述べる。
「あ。そうかあ。じゃあ頑張れよ(汗)」って感じで話しかけてくる人は離れていくのだ。お互いに気まずい。

誰かに似ているのならば、ある地域でのみ頻発するはずだ。
しかし、勘違いで話しかけられるのは中学生の頃からなので、
場所も年代もてんでバラバラ。
言ってくる会話もとにかくバラバラ。

読んでると「なんで断らないんだ?」と思われても仕方ないが、
お客様だとか友人知人のご家族という事もありえるので、
否定する前に「この人どのお客さんだっけ?」と考えてしまうのだ。

幸い人違いで喧嘩をふっかけられたり、
犯罪に巻き込まれたりはしてないのでそれは良しとしておこう。

確かにどこにでもある顔かもしれないが、
身長体重、髪型やメガネの有無、私服かスーツかなど、
判断できる材料はあると思うんですよ。

なのでね、もしかしたら見たら死期が近いと言われる、
ドッペルゲンガーがいるんじゃないかとすら思えてきます。

ドッペルゲンガー説には逆説的な裏付けもありまして、
妙齢の女性が人違いで声をかけてきたことはゼロです。
そう、一度もない。皆無。

つまり、ドッペルゲンガーの方が、
妙齢の女性との出会いだけを独占してるに違いないのである。

そうでも思わないとやってられないのだ。


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