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【試し読み】加藤就一『ごめんなさい、ずっと嘘をついてきました。―福島第一原発 ほか原発一同』Part4

0211原発書影

東日本大震災から10年。本書は、福島第一原発が「私」という一人称で読者に語りかけてくるノンフィクション小説です。

こちらの試し読みでは、本書からの一部抜粋を2週にわたり連載してきました(第一回:3月2日、第二回:3月4日、第三回:3月9日、第四回:3月11日)。

最終回となる本日は、「二つ目のごめんなさい 私が事故ると被害額が国家予算を超える!?」より抜粋します。

~以下、試し読み~


次に原発が事故を起こしたら20兆円を超える損害額は皆さんが払うって知ってる?

 私は福島第一原発1号機です。さてさて皆さん、次は私の原発事故でどれほどの賠償額や除染費用がかかったか、ってお話をしましょう。政府の試算では22兆円。日本の国家予算が100兆円ほどだから国家予算の5分の1。ある民間シンクタンクは81兆~35兆円になると2019年に試算しています。事故から10年、損害額は日々膨(ふく)れ上がっています。福島(わたし)の排気筒の中ほどに亀裂が見つかり、建屋の上に倒れたら一巻の終わりだと切断が決まったり、私たちの内部がいつまでも高線量でさまざまなスケジュールが遅れたり、後から後から問題が出てくるからです。先日も2号機の格納容器のフタの上が溶け落ちたデブリ並みにヒドく汚染されているとわかり、デブリを上から取り出せなくなった。これも根本からやり方を見直すことに。今後もさらに費用が膨らむのは確実です。原発が事故を起こすと20兆円超え、ご存知の方は国民のどれほどでしょうかね。ではここで私から皆さんへクイズです。
 問題! 私の事故後すでに再稼働している原発が、今後もし私のように事故を起こしたら、「20兆円超えの損害賠償額」は誰が払うでしょうか?
 「私は関係ない」って今あなたは、思いました? ブ――。それは大間違い。払うのは「皆さん」と決まっているのです。話せばちょっと長くなるけど聞いていただかなければなりません。
 茨城で原発事故が起きたら被害額は国家予算の倍以上、っていうあの「試算」を思い出してください。日本で国策原発を走り始めさせるためにはまず「原発が事故を起こしたときの損害賠償の法律」を作らないといけなかった。だけど損害額が巨大すぎて、どの保険会社も損害保険を引き受けてくれない。そこで国は苦肉の策を繰り出した。「原発が事故を起こすと賠償額の上限は1200億円。足りない額は国が補(ほてん)塡(ほてん)する。「原子力損害賠償法7条1項」でそう決めるしかなかった。だけどね、ここにまた「トリック」が。それは「国が補塡する」って部分。「国が補塡する」といえば皆さんとは関係ないって聞こえますよね。国の狙いはソコ! だまされてはいけません。「国が補塡する」の裏にどす黒いものが潜んでいることにあなたは気づきましたか?「国が補塡する」って法律に書かれてるから「国が払う。だから自分たちは関係ない」と思う。ところがそうは問屋がおろさない。税金やら電気代やらに上乗せされて、結局知らないうちに払うのは皆さん、あなたたちなのです。国民みんなに払わせるのです。なのに「国が補塡」しますって。滅茶苦茶ずるくない? 「原発が事故を起こしたら被害額は国民が払う」というこの構造は、私の事故の後も何も変わってきません。
 今もルールで、原発事故のために1200億円積み立ててはあるけれど、福島の廃炉・賠償費22兆円と比べたら象とアリ、ケタ違いに足りない。だから引き上げるべきだという意見が渦巻いた。そこで2018年、国は検討会を作って議論はした。でも、ふたを開けてみれば形だけ。結局1200億のまま据え置いた。「次の事故がすぐ起こるわけでもないし、事故が起きても福島と同じ方式で結局は知らないうちに国民が払うんだから、当面この問題はそのままにしておこう」ってことね。それっぽっちじゃ屁の足しにもならないって火を見るより明らかだけどね。私の父、国も母、電力会社もその答申を黙って、いや、ニヤッと笑って受け入れたわ。電力会社は「どれだけ被害が出たってOK! 国民が払うっていう国のお墨付きがある!」って思ってるからね。だから安心してじゃんじゃん私たちを再稼働させていくぞって気、満々ね。このカラクリを知って、穏やかな皆さんもさすがに「こんなペテンを許していいわけがない!」と怒りを覚えたのではないですか?


私は原発、学校で教えてあげてほしい!(その③)
 とっても大切なことだから復習しましょう。私が事故ってかかる廃炉・賠償費の試算額は22兆円超。その巨額を結局のところ払うのは皆さんだということ。次の事故が起きても同じ、払うのは皆さんだということ。そのカラクリに皆さんがきちんと気づいていないこと。税金だったり、電気代や送電線利用料に上乗せされること。2020年度から一般家庭で年に252円を向こう40年払うと決まっていること。電気の検針票にはなぜか内訳が書かれてなくて皆さんの目には入らないこと。東京の民間シンクタンクが、「溶け落ちた燃料を取り出す」or「封じ込める」、そして「トリチウム汚染水を薄めて海に捨てる」or「完全に浄化して海には捨てない」と場合を分けて試算すると経産省の試算の4倍、80兆円にもなったこと。さらにドイツのシンクタンクの試算では580兆円とはじき出していること。80兆円になろうが580兆円になろうが、払うのは「皆さん」だということ。たとえコロナ不況を乗り越えられたとしても、次の原発事故が起きたら「おしまいDEATH」ってこと。

学校で教えてあげてほしい20ヵ条

試し読み配信はこれで終わりです。


【書誌情報】

『ごめんなさい、ずっと嘘をついてきました。―福島第一原発 ほか原発一同』加藤就一

四六、並製、304ページ
定価:本体1,600円+税
ISBN978-4-86385-451-2 C0093



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