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第1回 なぜいま「家族」の映画、ドラマが熱い?(橋本嘉代)

『万引き家族』『パラサイト 半地下の家族』や朝ドラなど、家庭を舞台に家族のありようを描く映画やドラマが注目されています。その理由を考察してみました。

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このコラムは、『なぜいま家族のストーリーが求められるのか』(書肆侃侃房)の刊行に先立ち、始めることになりました。メディア分析を中心に、現代の社会のなかで「家族」にどのような意味づけが行われているかを考察していく予定です。本の内容については、この場を借りて少しずつご紹介していきたいと思っていますが、よろしければカバーや目次をご参照いただけたら幸いです。

私はメディアや家族を中心に社会学を研究していますが、これまでは「家族の映画やドラマ、人気だよね?」と言っても「そうだっけ?」「気のせいじゃね?」などと反論されることもありました。しかし『パラサイト』のアカデミー賞での4部門受賞で「社会のリアリティーを描く映画の多くで昨今、「家族的なつながり」にスポットがあたっています」(ハン・トンヒョンさん/日本映画大准教授)というコメントも出されるようになり、やはり気のせいではなかった!と感じているところです。
「前から私は言ってたけど~」とドヤりたい心境を抑え、冷静かつ客観的な記述を心がけてみます。どうぞよろしくお願いします。

邦題に「家族」をつけたがる日本の映画業界

『パラサイト 半地下の家族』というタイトルは、日本公開用に副題が添えられたもので、原題は『パラサイト』のみです。ポスターのタイトルには筑紫アンティーク明朝っぽいクセの強いフォントが用いられていますが、「パ」の字の半濁点(=マル)がグルグル・・・・・・という時計回り(!)になっているのは、ぜひとも注目したいところ。

また、『パラサイト』と同年のカンヌ国際映画祭に出品された映画『家族を想うとき』(2019年12月公開)も、原題は“Sorry We Missed You”でした。原題に“Family”という単語は含まれていません。“Sorry We Missed You”というタイトルは宅配便の不在通知の定型文(お届けしましたが、残念ながらご不在でした)だそうです。
個人事業主として宅配便の配達を請け負うドライバーが主人公で、過酷な労働条件で家を不在にせざるを得ない彼と家族の悲惨な状況が描かれた映画なので、不在通知の表現が用いられていますが、主人公の妻も介護士として働いており家を空けがちなので、タイトルには 「パパ・ママが家にいない」「子どもに会えない」という親子の愛しさと切なさと心細さも反映されているようです。

これらの例以外にも、最近、映画やドラマのタイトルや宣伝の文章に「家族」という表現が使われる機会が目立ちます。たとえば、

「壊れた家族は、つながれますか。」
「もう一度、家族に。」

いずれも2019年の邦画の予告編の締めのメッセージやポスターに使われている言葉です。
ちなみに「スカーレット」の第20週も「もういちど家族に」でした。
家族のあり方やつながりに関心を持つ人が増え、コンテンツとして「家族」が持つ力が強まっているのかもしれません。

家族にまつわる映画&ドラマの7系統

なぜいま家族のストーリーが求められるのか』では、冒頭で「家族を描く&家族がわかる ドラマ&映画30」として、2010年から2019年までの30作品を紹介しています。
朝ドラ人気を再燃させた「ゲゲゲの女房」やマルモリ体操(ダンス?)がブームになった「マルモのおきて」あたりから『パラサイト』や「俺の話は長い」あたりまでのヒット作品をセレクトしましたが、それらのほとんどは以下の系統のいずれか(あるいは複数)にあてはまるようです。

1 家族になる(家族ではない人々が家族になろうとする)
2 家族の再生(他者の介入や事件を機に家族関係の再構築が図られる)
3 若者の自立(親に寄生する成人の子どもが自立を目指す)
4 社会問題の提起(家庭を舞台に格差拡大や新自由主義などの問題を描く)
5 家族の多様化(LGBTやひとり親、義理の親子など非典型家族を描く)
6 家族の意味を問う(結婚制度や家事労働、血縁関係について問題提起)
7 脱・恋愛(男女の結婚でなく姉妹愛や非血縁者同士の情愛などに主題が変化)

次回以降は、各系統にあてはまる映画とドラマについて、具体例を挙げながらレビューする予定です。

参考ページ:
「山田昌弘さん「パラサイト」語る じくじたる思い20年」朝日新聞デジタル(2020年2月27日 8時00分)


【著者プロフィール】
橋本嘉代 (はしもと・かよ)
筑紫女学園大学現代社会学部准教授。1969 年、長崎県佐世保市生まれ。
上智大学文学部新聞学科を卒業後、集英社に入社。女性誌編集に携わる。退職後、ウェブマガジンのプロデューサーやフリー編集者などを経て、2014 年から大学教員に。立教大学大学院で修士号(社会学)、お茶の水女子大学大学院で博士号(社会科学)を取得。専門はメディアとジェンダー。
共著に『雑誌メディアの文化史―変貌する戦後パラダイム』(森話社、2012)など。著書『なぜいま家族のストーリーが求められるのか』(書肆侃侃房)

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