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第3回 「家族の絆」って言うな! (橋本嘉代)

少し前までは休まず出勤することが美徳とされていて、働き方改革もなかなか進まなかった日本。今は、家にいることが命を守るための最優先事項となりました。これまでの常識や価値観が根底から覆され、守ってきたものが崩れると、もうコロナ以前の時代には後戻りできない気がします。

この4月から「授業は遠隔で」と急に言われ、大学で働く私はあたふたしているのですが、授業開始が遅れて暇を持て余している学生には「プライムビデオ学生版」の6カ月トライアルがおすすめです。

プライムビデオ

さて、前回に続き、家庭を舞台とし社会的な問題を映し出す作品を紹介します。自宅で楽しめるものをセレクトしました。

まずは「ドン★キホーテ」。児童相談所に勤める気弱な若者(松田翔太)と極道の親分(高橋克実)が入れ替わってしまうお話です。

3_ドン・キホーテ

「ドン★キホーテ」
2011年放映
出演/松田翔太、高橋克実ほか

2011年のドラマですが、公式サイトはまだ残っています。ググる時は、★をつけないと驚安の殿堂が出てくるのでお気をつけください。Hulu、Amazonプライムなどで見られます(2020年4月現在)。

「ドン★キホーテ」には、ベランダに追い出された子ども、受験に失敗して引きこもる子ども、犯罪集団に利用される子ども、親からの暴力を受ける子どもなど、助けを必要とする子どもたちが登場します。現在、「家にいよう」キャンペーンが続いていますが、家庭が必ずしも安心できる場ではない子どもたちの日常が気になるところです。
とはいえ、気が弱く「なるほどですね~」が口癖の優等生的な若者と、腕っぷしは強いが頭の中身は小学生、と評される中年極道を演じ分ける松田翔太と高橋克実、そしてキャラ変した彼らと接する周囲の面々が爆笑を誘い、テーマの重さを感じさせません。児相の人々が力を合わせて子どもたちを救おうと奔走する場面も心が温かくなります(現実の児相には、ドラマほどの人的リソースや家庭に介入できる権限もなさそうで、ドラマの所長もやり過ぎを注意されていますが・・・)。極道の抗争もルパン三世風のコミカルなテイストで、親子で見ても安心です。私は当時小学生だった娘と一緒にハマり、サントラまで買ってしまいました。

ブレイク前の菅田将暉、内田有紀の極妻姿、小林聡美演じるカッコいい所長なども見どころです。

保護が必要な子どもたちが登場する作品としては「ドン★キホーテ」より先に「万引き家族」が思い浮かぶ方も多いかと思います。
「万引き家族」もYoutubeチャンネルやAmazonプライム、Google playでレンタルできます(2020年4月現在)。
ちょいエロシーンがあり、お茶の間での視聴は気まずくなる可能性もあるので、ご用心を。

(※以下、ネタバレにご注意ください)

万引き家族


「万引き家族」
2018年公開 監督/是枝裕和
出演/リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林ほか


リリー・フランキーが演じる男性は、子どもに「お店にある物はまだ誰の物でもない」という価値観を植え付け、学校に通わせず、生活のために万引きをさせていました。けしからん父ちゃんです。彼が寒い日に空腹に耐え、薄着で凍えている女の子を見かねて連れ帰りますが、安藤サクラが演じる女性は、家に帰すように言います。しかし、彼女自身もDV被害者で、暴力をふるう声や音が聞こえる家に女の子を戻さないと決意します。彼女も社会規範から逸脱した生き方をしていますが、ギュッとハグして愛情を伝えたり、いつかは別れることを覚悟しながらも子どもの将来をずっと考えていたことがわかる場面もあり、子どもにとっての幸せな成育環境とは?と考えさせられます。

子どもは親を選べませんが、彼らには血縁がなく親子ではありません。その関係性について「選ばれたのかな、私たち」「自分で選んだほうが(絆が)強いんじゃない?」と語られる場面があります。予告映像によると、「万引き家族」である彼らが盗んだのは「絆」だったそうです。
拙著の帯には「家族の絆って言うな!」と大書されていて、何のこっちゃ?と思われるかもしれません。突然の一斉休校など「あとは各家庭でなんとかしてね」という丸投げを「家族の絆」という言葉で隠蔽されちゃ、たまらんな!というモヤッと感を頂いた方には共感していただけるかも? 

カバー

「万引き家族」には、雪が降りそうな日にマンションの廊下に出されている女の子にコロッケを食べさせる場面があります。「ドン★キホーテ」へのオマージュ?などと思ったりもしました。ぜひ、観比べてみてください。


【著者プロフィール】
橋本嘉代 (はしもと・かよ)
筑紫女学園大学現代社会学部准教授。1969 年、長崎県佐世保市生まれ。
上智大学文学部新聞学科を卒業後、集英社に入社。女性誌編集に携わる。退職後、ウェブマガジンのプロデューサーやフリー編集者などを経て、2014 年から大学教員に。立教大学大学院で修士号(社会学)、お茶の水女子大学大学院で博士号(社会科学)を取得。専門はメディアとジェンダー。
共著に『雑誌メディアの文化史―変貌する戦後パラダイム』(森話社、2012)など。著書『なぜいま家族のストーリーが求められるのか』(書肆侃侃房)

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