第17回 佐藤直子さん(東京大学生協本郷書籍部)
夕映えのせかいでひとりぽっちでもうどんをいとおしくゆがくんだ 『永遠でないほうの火』井上法子
小学生のころ、下校の道でふと気付くと、見渡す限り人っ子一人いないということが時々あった。そんな時は、ああ大変だ、人類がとうとう滅亡してしまった、なぜか私一人を残して、と想像が止まらなくなった。
ひとりぽっちはとても怖いのに、どこかうっとりするような心持もする。
おなかがすいたらうどんもひとりぽっちでゆがく。ひとりぽっちなのだから、ただゆがくのではだめだ、いとおしくでなければ。夕映え、ガスのほのお、もくもくとあがるゆげ、まっしろなうどん。
そのうち小路から誰かが飛び出してきたり、どこかの家のカレーのにおいが流れてきたりして、想像は強制終了。けれど、うっとりとした感覚はしばらくのあいだ、湯気のようにただよい続ける。
(「ほんのひとさじ」vol.12より)
佐藤直子(東京大学生協本郷書籍部)
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