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ZOZOTOWN壊滅(2020文字)

ゲームセンターとサーカスの配色はよく似ている。あの色は、人の知能を著しく低下させ、空間そのものを蠱惑的なものに見せる。私たちはこっそり騙されている。あの奇妙に居心地の悪い、甘さが充満した空間に。

空間といえば、高校時代に(空想)に熱中していた奴らは大人になってもその空間から抜け出せなくなってしまいがちだ。私も私で、空想から抜け出せないままだ。恐らくそこに成長が足を引きずった跡すら無い。大人になった私は今までに増して何も知らないままだ。

今日、ZOZOTOWNから服が届けられた。ZOZOTOWNの社長が気持ち悪くて嫌悪感を覚えているのに私のように店員から声をかけられるのが苦手な人間は、ZOZOTOWNでしか服を買うことができない。(ほんとは時々UNIQLOでも服を買う、UNIQLOといえばだけど無地だしもうちょい安くしてくれん?服ないから。)

ああなんという矛盾だろうか。矛盾?
矛盾ではないか。
世の中のシステムにおちょくられているだけだ。

ネットショッピングは賭け事だ。バーチャルで成し得るわずかな実感で商品を選び架空のカートにそれをブチ込む。顔の見えない相手に自分の情報を晒しあげ、その対価として商品がこちらへやってくる。その気持ちわるさを私は歯茎から血をダラダラと流しながら耐え抜いて、商品を家に招き入れる。

そして可もなく不可もないような服を手に入れた私はZOZOTOWNについて、空想する。

まだ人生のお試し期間のはずなので死ぬまで無料で空想ができるはずだが、途中で規約が代わり突然に空想料金を請求されたらどうしようもなくなってしまうくらいに私は空想してきたし、たぶんこれからもするだろう。

私はZOZOTOWNが文字通り滅びる空想をすることにした。

算段はこうだ。

アラブの大富豪がZOZOTOWNのすべての商品にチェックを入れ色違いもサイズ違いも全部カートにぶち込んで笑いながら支払いボタンを押す。ZOZOTOWNは一瞬で廃業に追い込まれる。服がないのだ、そこにはただの資本主義が生み出した紙切れ(もはや紙切れですらない)があるのみだ。ZOZOTOWNのかろうじて機能していた「街」としての様相が消え失せる。ZOZOTOWNに住んでいたゾゾピーポーは、ゾンビとなって虚無の空間を歩きさまよう。可哀想に、さっきまであんなにお洒落を楽しんでいたのに。皆ワイドパンツとか履いていたのに、今じゃ見る影もないや。

ところでゾンビ映画において、人間はゾンビを殺していいことになっている。ゾンビ映画とひと口にいっても多岐に渡るものの、おそらくこのルールだけは共通している。

なぜか? なぜ殺していいのか?

人間とゾンビでは"意思疎通できない”からだ、とひとまず言えるだろう。

"意思疎通できない”から、交渉の余地なく襲ってくるから、殺していいのだ、と。だから、さっきまで手を取り合っていた仲間ですらもゾンビ化するや否や殺してしまうし、ゾンビ化することが決定した人間にしても「自分がゾンビになったら殺してくれ」と尊厳死を乞う。

そして、このゾンビ映画の倫理観に従うことにしたアラブの大富豪もZOZOTOWNのあらゆる場所に純金でつくられた地雷を埋めていく。もちろん自ら手をくだすことはしない。あくまで、全てが金の力を使って行われるのだ。

至る所に仕掛けられた地雷によってゾゾピーポーは1人残らず吹っ飛んでしまった。住民票など存在しないZOZOTOWNにおいて、かつてゾゾピーポーがいたことを証明するものは何もなくなってしまった。彼らは(存在)そのもので自身の存在を証明していたのだ。彼らが互いの服を褒め合うのも、他者の存在を認めることで自己の存在をより明白に証明したかったからだ。

もはや失われた都市、つまり遺跡となったZOZOTOWNの中心で前澤友作が泣いている。もうシコシコと100万円などをばらまいてもゾゾピーポーは生き返ることはない、気づくには遅すぎた。金をばら撒くのは、個人単位ではなくではなく行政がするべきことだったのだ。そして金で得た力というのはさらに圧倒的な金の力によって、潰されるのだ。

前澤友作は泣きながら砂漠になった地面にカタカナで(スタート トゥ ディ)と指で書いた。その上をババババババババババという轟音と共にヘリコプターがやってきて空中から大量にチラシをばらまく。そのチラシは金色の薄くて美しい紙でできていて、洗練された筆記体で【This is the end.】という文字が印刷されているのだ。

これは、歴史に残る経済格差の残酷さをまざまざと見せつけられた事件となった。

私は脳内で【監督・脚本…私】というあっさりとしたエンドロールを流し終えると、最高な気分になった。このまま最高な気分で卒業論文にとりかかることにしようかとも思ったのだけど、なんとなく悪い気がして、「乾いてしわしわになったイルカ」のことを空想して少しだけ気持ちを落ち込ませた。私は心優しい人間だ。

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