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神と、人と、天才と


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(全文)

教会で、がっつりモーツァルト漬けの3日間を送ったのは
ちょうど先週のこと。

そういえば、モーツァルトと教会で面白い逸話があった。


旅の途中、父と共にシスティーナ礼拝堂を訪れた幼いモーツァルトは、アレグリの合唱曲『ミゼレーレ』を耳にする。

それは年に3日、この礼拝堂でのみ歌われる秘曲であり、楽譜の持ち出しも固く禁じられていたものであったが、

宿に帰ったモーツァルトは、一度だけ聞いたその曲を楽譜に書き起こしてしまった。


それをふと思い出したのは、アンコールを演奏していたときだ。

神の為に生み、そして秘曲として特別なものとされていた自曲を、
無邪気さと気まぐれによって容易に楽譜におこされたアレグリ。

もちろん、彼はその時すでに逝去していたが、知っていたらどう思ったのだろう。


私の思案の外、教会に鳴り響いていたのは『Ave Verum Corpus』だった
恩人への謝意によって生み出され、合唱団は神への感謝をうたっている。

この作曲のひと月後、謎に包まれたレクイエムの作曲依頼を受け、モーツァルトはまるで転がり落ちるように、たった半年で死へと向かった。

天才であるが故に、人を幸福にも不幸にもした彼の生涯だったが、
それを見ていた神は、なにを思っていたのか。

そんなことが気になった。


2019年8月30日
モーツァルト戴冠ミサ曲演奏会を終えて。


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上原ありす
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