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ドイツで 三島由紀夫作品の新訳が出版


2020年は音楽家として注目の年。
なぜならば、偉大なる作曲家・ベートーヴェンの生誕250周年というアニバーサリーイヤーだからだ。

私もそれに先立ち、先日12月16日の彼の生誕日にエッセイを執筆した。


しかし、2020年は更に、文学好きとしても欠かせない年となる。

作家・三島由紀夫の生誕95周年であり、没後50年にあたるという
二重の意味での記念すべき年なのだ。


プロフィール画像に彼の作品「金閣寺」を用いたり、愛を込めたエッセイを執筆したりと、私の三島好きは知人にとどまらず、SNSやサイトをご覧になって下さっている方々など、そこそこの広範囲へと広まっている。


その三島由紀夫が、来年、節目となる年を迎える。

そして、先日。
記念年への花向けに、ドイツでは彼の独語新訳が出版された。


2019年11月25日。彼の忌日に合わせ、ベルリンの森鴎外記念館にて、新訳出版イベントは行われた。

残念ながら、私自身はそのイベントへの参加は叶わなかったが
仕事仲間であり、友人である緒方綾子さんが会に出席され、その詳細なレポートを自身のサイトにて投稿されている。

私もそれを拝読した。


この記事を執筆された緒方綾子さんは、独語・英語を中心に通訳や司会で世界を飛び回るかたわら、ドイツ国内では舞台やテレビドラマへの出演をされている。
( 詳しいプロフィールは彼女のオフィシャルサイト「Office Ayako Web」のプロフィールをぜひご覧になってください→https://officeayako.com/about/ )


今回、新訳が出版された作品は二つ。
『仮面の告白』と、私が三島に惚れ込むきっかけとなった『金閣寺』である。

緒方さんの書かれた記事から、お言葉をお借りすると

『仮面の告白』は、大江健三郎など哲学的テーマをはらんだ日本文学群を翻訳されてきた、ノラ・ビーリッヒさん

『金閣寺』は、これまでにも村上春樹や小川洋子、川上弘美、東野圭吾など
日本のベストセラー小説を数々翻訳されてきた、ウルズラ・グレーフェさん

そのお二方によって、それぞれ手掛けられた。

緒方さんの記事には、イベント当日の様子だけでなく、新訳化にあたっての翻訳家お二人のインタビュー内容も詳しく記載されているので、興味のある方はぜひこの記事を一読していただきたい。


三島由紀夫作品の翻訳化は、1956年の8月『潮騒』における英訳出版が初となり、ドイツ語での翻訳本が出版されたのは1960年代。

『仮面の告白』においては、その翻訳は英訳本を底本としたために、原文の持つニュアンスが損なわれている箇所もあるとのこと。
それを踏まえた上での、実に60年ぶりとなる独語新訳の出版が叶ったのだ。

また『金閣寺』は、1961年にユネスコの翻訳プロジェクト
(UNESCO Collection of Representative Works)として、日本学者 Walter Donatの手によってドイツ語翻訳された。

この時の題名は『Der Tempelbrand』(寺院の火災)
「金閣寺」という本体ではなく、その破壊に焦点を当てる意味での、あえての名付けだったようだ。

今回の新訳では、本来の題名通り『Der Goldene Pavillon』(金閣寺)
と題されている。

このタイトルの違いは、本文の翻訳ニュアンスにも微かな差異を与えているのだろうか。沸々と湧く好奇心を抑えることができない。

今まさに、ドイツ語勉強への意欲を新たにしている。


つい先日のこと。Twitter上のドイツ人フォロワーさんが、この新訳出版本の発売を喜び、投稿されていたのを偶然に見つけた。
返信欄には、同じ心情を綴るドイツ人たちが並んでいる。

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この記念すべき出来事は、三島由紀夫という人物と作品の、
ひいてはドイツにおける日本文学の知名度とその在り方へと、確実にその余波を広げている。

それを自身の目で知覚できたことが、本当にうれしかった。


執筆したエッセイの結びでも触れたが、三島由紀夫は日本文学者として名高いドナルド・キーン氏との交流を深める中で、最後となる手紙の中にこんな言葉を残している。

「ただ一つの心残りは「豊饒の海」のことで〔中略〕なんとかこの四巻全巻を出してくれるやう、御査察いただきたく存じます。さうすれば世界のどこかから、きつと小生といふものをわかってくれる讀者が現はれると信じます」


三島の願いが実現したのは1974年。
そして現代においては、彼の作品たちが更なる新装をかさね、世界に出版されている。

前述した投稿の返信者の中には、この『豊饒の海』のドイツ語新訳を望む声もあった。

三島の思いは、世界に届いている。

その確かな体感を、この一連のニュースは私に与え
そしてドイツにいる今、出会うことのできた幸せを噛みしめている。



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