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パラグライダーは晴れてるだけじゃダメ!?ー「良い風」を捕まえよう

「3連休はお天気が良かったね。たくさんパラグライダーできた?」

晴天に恵まれた3連休が明けた月曜に、こんなメッセージが届いた。

「風が強すぎて、ほとんど飛べなかった……(T_T)」

3連休は、晴れ渡って気持ちの良いお散歩日和だった。そして、春の嵐が吹き荒れていた。風が強いと、パラグライダーは飛べない。強風に吹かれて窓がガタガタと音を立てたり、道を歩いている最中に突風に背中を押されて驚いたり、そんな日は、どんなに晴れていても、パラグライダーには不向きだ。グライダー(羽)を広げた瞬間に吹き飛ばされてしまう危険性がある。

晴れているだけでは、ダメなのだ。

「パラグライダーは風のスポーツ」といっても過言ではないほど、風に左右される。安全に地面を飛び立ち、楽しく空を飛び、安全に地面に降りるためには、適切な「風」が必要になる。

風が弱いぶんには、走って風を作り出すこともできる。しかし、強すぎる風は防ぎようがない。飛んでいる最中に向かい風に当たってしまうと行きたい方向にうまく進めなくなるし、着陸するときは狙った場所に降りにくくなる。グライダーをコントロールしようとしても、風で煽られて、怖い。風が強すぎる日は、どんなに天気が良くても(まともなひとなら)パラグライダーをしない。少なくてもアマチュアは飛ばない。

でも、風は移り気だ。

変化しやすいものの形容として「乙女心と秋の空」という言葉があるが、秋の空よりも乙女心よりも、風のほうがずっと移ろいやすい。

穏やかな風が吹く日でも、風は刻一刻と変化する。パラグライダーを練習していると「良い風が入るまで、待とう」と、風待ちをするタイミングが結構ある。いや、むしろ、気持ちよく飛んでいる時間よりも、風待ちをするタイミングのほうが多いかもしれない……。「パラグライダーは風待ちのスポーツ(para-gliding is para-waiting)」と表現する人もいた。

パラグライダーを始めてから一番変わったのは、風に対する意識だと思う。かっこよくいえば、風という視点を得て、世界の解像度が上がったと思う。

どこから吹くか、どれくらいの強さか、どう変化していきそうか。おでこやほっぺた、鼻先や首筋に触れる空気の流れを通して、感じ取る。草や木の葉っぱの動き、鳥の動き、空中を飛んでいる他のパラグライダーなど、視覚情報も総動員する。パラグライダーがよく行われるエリアには、「吹き流し」という風向きを計るための旗のような目印が置かれていて、これも大切な情報源だ。

日常生活を送っていると、特に私のように都会に住んでオフィスワークをしていると、風向きや風の強さを意識する機会は、ほとんどない。家の窓がガタガタと音を立てて「今日は風が強いな」と思うことがある、せいぜいその程度だろう。今日は風向きが安定してるなとか、風速5メートル超えだなとか、そんなことはふつうに日常生活を送っていると考えない。(気象予報士や漁業をする人なら、気にするのだろうか……?)

山の上でパラグライダーをやっている人たちが集まっていると、

「今は風が良くない」
「ちょっと待とうか」

という会話がよく聞こえてくる。

この「良い風」というのが何か? というのが、初心者にとっては難題のひとつだ。

「良い風が吹いてきましたね〜」と言われても、風は目に見えない。それに、風は流動的だ。

「良い風……吹いてますか?」と、首を傾げて、草や木の動きに目を凝らしている間に、風向きは刻々と変化する。乙女心や秋の空どころの騒ぎではない。サッカーの試合の流れはよく「あっという間に」変化するが、風向きが変わる速度はもっと早い。運動神経の鈍い私にとって「よい風」を逃さないのは、それだけで一仕事だ。

そして、風は、とても局所的。

「良い風が吹いてきた」と言うインストラクターが立っている場所と、私が立っている場所、5メートル立ち位置が変わるだけでも、風の流れは異なる。とりわけ風が弱いときは、インストラクターが「吹いてきた」と言っても、自分が立っている場所で空気が動いていない……ということもある。

でも、サッカーの試合と同じで、風には「その日のだいたいの流れ」というのがある。毎日飛ぶエリアを観察しているインストラクターや、10年以上飛んでいる熟練パイロットの見立ては、おおむね正しい。初心者の私は彼らの言葉を聞いて、自分のアンテナを研ぎ澄まして、「風に対する感受性」を少しずつ磨いている。

パラグライダーを習いはじめたばかりの時は「今日の風は、パラグライダーできる風か?」も分からなかった。今は、それは、だいたいわかる。前よりも世界の解像度が少し上がった気がして、楽しい。もちろん、まだ分からないことも沢山あるけれど……。

焦る必要はない。少しずつ、自分なりの「良い風」アンテナを磨こう。そうすれば、世界がもっとよく見えるようになるはず。

そうすれば、もっと良い風を捕まえられるようになるはず。

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