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煮ハマグリを柔らかく煮るには

「煮ハマグリ」は江戸前において代表的な寿司ネタの1つだ。しかし現代の東京でこのネタを出す寿司屋はかなり少ない。回転寿司ではほぼ皆無だ。やらない、やれない理由は資源の減少や、ホッキ貝(ウバガイ)の台頭など複数想定されるが、主たる原因は「仕込みがめんどい!」「食中毒が怖い!」この2点だと考える。
ハマグリを柔らかく煮る。握る。
ただそれだけなのに。
実際には注意すべきポイントがとても多い。

そんな、先人たちの技術と知恵が詰まった調理法を、リスクを把握しながら段階を追って見ていこう。

【材料】
ハマグリ 100-140g位
※大きいと握りやすいが、やや大味になり火入れも難しくなる。
水 400ml
砂糖(又はトレハロース)30-40g
みりん 100ml
醤油 100ml

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※今回は千葉県産のチョウセンハマグリ(サイズ100-120g位)を使用した。

1.殻剥き

鮮度の良いハマグリほどピタリと口を閉じているが、コツさえ分かれば簡単。
洋ナイフか「貝剥き(薄いもの推奨)」を隙間にあてたら手で握るようにして力を加えればうまくいく。

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貝を握る手だけでも軍手をしておけば、ナイフで手を痛める心配も無く力も入る。
次にナイフを殻に沿うようにして滑らせ、付け根部分にある貝柱2つを切る。
※貝の舌先を切らないよう、力の入れ過ぎとナイフの角度に注意。

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2.水洗い

ハマグリの水管に、竹串を吸い込ませるように刺していき、優しく流水で水洗いをし、よく水を切る。

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これは口や腸管に残った砂や汚れを除去するために行う。
しかし近年ハマグリにおいては「活かし込み」呼ばれる、産地の水槽でしばらく活かしておいたものが多いため、砂を含んでないこともある。
状態を確認しながら、真水で身がボヤけないよう手早く行おう。

3.お湯で煮る

最も重要な工程。ここで煮ハマグリの固さが決まる。
ただ、リスクがある。以下にポイントを整理した。

・貝類のタンパク質は65℃以上で収縮し、固くなる
・60-65℃、30分の加熱で人体に有害な細菌、保存に支障が出る雑菌は死滅する。
・ノロウイルスは60℃30分の加熱では殺菌出来ない。(85℃以上、1分の加熱が必要)
・ノロウイルスは主に内臓へ蓄積され、その多さは生息する海域によって決まる。

つまり、衛生的に安全な煮ハマグリは85℃以上で1分の加熱が必要だが、それだとタンパク質が変性するので身が固くなる。
リスクを下げるには、以下方法もある。
①仕入れる産地を絞る
②滅菌海水で活かし込みしてるかものを選ぶ
③この後の内臓除去を丁寧に行う
ただゼロにはならない。
寿司屋さんでは、ある程度のリスクを許容した以下工程が一般的だ。

水400mlを60-68℃に温め、砂糖又はトレハロースを3%溶かし、ハマグリの身を入れる。

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温度を60-68℃に保ったまま30分間煮続ける。
※家庭用のガスコンロは弱火でも80度を超えるので、適宜火を止める必要があるので注意。

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ゆで汁はそのまま、ザルにハマグリだけをうつして冷ます。

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【補足:トレハロースとは?】
自然界にも存在する、砂糖の半分程度の甘さの糖です。保水力が強く、タンパク質の変性や、団子や餅が固くなることを防ぐ効果があり、近年幅広く食材に使われています。煮ハマグリにも砂糖の代用で使うことにより、固さの低減、ふっくらとした仕上がりを狙うことが出来ます。

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4.ワタをとる(内臓を除去する)

舌先の先端から包丁を付け根が数ミリ残るまで入れていき、2つに開く。
下の写真でピンクの丸がついている茶色いワタと、その周辺にある白いワタを包丁でしごいてとる。
※ワタは、ウイルスが多い部位である他、水域由来の臭みを含んでおり保管時に臭いも出やすいなど、煮ハマグリを作る時に残すと単純に美味しくないので除去をする。

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5.味をしみこませる

ハマグリのゆで汁に、みりん100ml、醤油100mlを加えて一度煮立てて火を切る。トレハロースを味を見ながら大匙1程度溶かし、65℃まで冷ましたらハマグリを入れる。

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このまま半日から1日漬け込んで味をしみこませる。
その後、ハマグリを取り出し水気をふきとってネタケースに入れる。
煮汁にはハチミツを少量(5%程度)加え、味と粘度を見ながら煮詰めてタレにする。

6.握る

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ごちそうさまでした。

後記

いかがでしたでしょうか。
手間がよくわかったかと思います。
煮ハマグリを実際に出しているお寿司屋は、こんな素人仕事では無く、もっとうまく調理されています。
江戸前の仕事を今もなお続けている料理のプロは、本当に大変な仕込み仕事を継続されていて尊敬して止みません。

魚介を扱う料理人たちが、また生き生きと生活できる日常が戻ることを切に願います。

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