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ゆみちゃん

高校時代の同級生にゆみちゃんという子がいた。

ゆみちゃんは私と同じクラスで、同じ柔道部に所属していた。

彼女は、私の人間関係に対する気難しさをよく理解してくれていたと思う。

底抜けに明るくて、ポジティブで、面白くて、流行りに敏感で、私とは両極の存在。

でも一緒にいて苦に感じたことは一度もなかった。

部活中にふざけあって笑っていたら、一緒に顧問にシバかれて二時間近く説教を受けたこともある。

ある夏の日、その日は一日練習だった。

午前練習が終わったあとにお弁当を食べて休憩をとっていた。

私が畳の上に仰向けに寝転がっていると、
ゆみちゃんが私のお腹の上に頭を乗せてスマホをいじり始めた。

「くすぐったいな〜」と言いながらも、枕としてそこにいると、

「え!なんかお腹の中からポコポコって音してるよ〜」と彼女は楽しそうに私のお腹に耳を当て始めた。

それが面白くて面白くて。

お腹の音を聞かれている恥ずかしさと、
お腹の中で鳴る音が『ポコポコ』という滑稽さと、
必死に私のお腹に耳を当てるゆみちゃんの無邪気さに笑いを堪えられず身を捩るが、彼女は諦めず耳を当て続けていた。

私のお腹の音を直に聞いた人間はこれまでもこれからも、ゆみちゃんただ一人かもしれない。

高校を卒業してしばらくたってからは、ゆみちゃんと連絡をとっていない。

でも時々、また彼女にお腹の音を聞いてほしいと思う時がある。

私のお腹はまだポコポコと音が鳴るんだろうか。

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