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階段から落ちたら、友達が消えた話


以前、階段から落ちてみたことがある。

最寄りの駅の大きな階段から。


毎日どう歩けば良いか分からなかった。

前にこの道を歩いていたとき、
私は何を考えていたのだろう。
どうして前に足を出すことができたのだろう。

そんなことばかり考えていた。


嫌なことがたくさん起きた。

その時の私は、不幸だった。
その不幸が、他の人にとってどれくらいの不幸かは分からない。

だが、間違いなく私の人生で一番に不幸だった。

周りの環境全てが苦しかった。

泣いて、喚いて、当たり散らしても、
何も発散されないばかりか、
私の話を聞いてくれる人にでさえ、攻撃的になって傷付けた。

きっと、いろいろもう駄目だったんだと思う。

私の人生が、もう駄目だった。

なにも無くなってしまったような気がしていた。


で、落ちた。


一回落ちて、踊り場で止まった。

まだ立てる。


もう一回落ちた。


下まで転げ落ちると、
幸か不幸か、人に見つかってしまった。

(助けてくれてお水買ってきてくれたお兄さん達、
ご迷惑おかけしました。
その節はありがとうございました。)


大きな怪我は特になかった。

一週間くらい、体の青あざが滅茶苦茶痛かっただけだった。


今同じ階段を見ると、何故落ちることができたのか、
何故なんのためらいもなく前に倒れることができたのか、
全く分からない。

人に見つからないように、
フワッと、階段の一番上から前に倒れた。

あのとき「怖い」という感情は全くなかった。

(思い立った時の人って恐ろしいですよね、怖い怖い。)



家に帰って私は考えた。


死にたかったわけではない。

ただ、ちょっと消えたかった。

今の自分を、ナシにしたかった。

結果的には、大きな怪我をしなかった私だが、
あのとき、打ち所が悪ければ、死んでいた可能性もある。

(誰かの死はとても怖いのに、
自分の死になるとそうはいかなくなってしまった。)

でも死ななかった。



じゃあ、私、一回死んだことにしようかと。

一回消えちゃったことにしようかと。


で、私は生まれ変わることにした。


今までの”自分のことを好きになれない自分”をやめた。

自分のことを好きになるために、
自分が無理していたことをやめた。

相性が悪い人と無理に仲良くするのをやめた。

自分のことを雑に扱う人から離れた。

自分が正しいと思うことだけすることにした。

周りの人たちに好かれようとすることをやめた。

自分が本当に一緒に居たい人とだけ居ることにした。


そうしたら、

自分のことが凄く好きになった。

自分の見た目も、性格も、考え方も、
他の人に劣っていたって構わない。

私は私で、私は素敵だ。

他の誰を蹴落とすこともしない。

ただ、私は生きているだけで十分素敵だと思った。


生まれ変わったタイミングで、
コロナが襲ってきた。


私たちの生活は変わった。


とても長い時間を、考え事に使った。


色んなものをみて、色んなことを考えた。


そのころ、今まで好きだったたくさんの人たちが、
途端に好きではなくなった。

私が変わったからなのか、
彼らが変わったからなのか、
どちらかは分からない。

ただ、「合わないな」と感じることが増えた。


合わないなと感じてしまったら最後、
その人たちとの間にあるシャッターをガラガラと閉めた。

たくさん閉めた。

とても大好きだった人にさえ、
容赦無く閉めた。


気がついたら、
友達が消えていた。


ちょっとやそっとの人数じゃない。

凄くたくさんの友達が消えた。


でも、仕方が無かった。

少しでも無理をするような人生は、
もう階段の途中に置いてきてしまったのだから。

私はもう、こうやって生きていくと決めたのだから。


幸い、今でも仲良くしていきたい大好きな人は、数人いる。

彼らが私のことをどう思っているかは、
正確には分からない。

だが、私は彼らが好きだ。
それだけで、私にとっては十分だと思う。


だから、これでいい。

これでいいけど、少し怖い。


少しくらい合わないところがあったって、
素敵な人たちがたくさん居た。

その人たちの良いところに目を向けず、
私はシャッターを下ろしてしまった。

下ろしすぎてしまった。


もう、これから先、彼らに会ったとしても、
以前のようには話せないだろう。

私が悪い。

私がやってしまったことは、酷い。


だから、少し怖い。


これから、私は生きていけるのだろうか。

何処に向かうのだろうか。

今、大好きだと感じている人たちにも、
いつかシャッターを下ろしてしまうのだろうか。


そうなったときに私は、

私は一体、どんな人間になっているのだろうか。


私は、その時の私を、好きでいられるのだろうか。




あわよくば、少し助けてほしい。
きっと、間違った方向に進んでいる私を、
助けてほしい。

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