
「つみたて投資」って何だ?
お金について劇的なことは起こったりしません。あなたの給与も、来月いきなり2倍になったりはしません。暮らしの中で付き合うお金ですが、毎日毎日「お金」をどう扱うか、地味な練習を重ねるようなものです。
「お金をきちんとコントロールして、手元にお金を残したい」。
誰もがそう願いますが、これといった秘策があるわけではありません。ありていに言えば、常識的かつ平凡な方法があるだけです。その一つが「つみたて」でしょう。
「つみたて」という習慣は、意外と古くから根付いています。会社員の人なら財形(ざいけい)制度という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。
また都市銀行、地方銀行をはじめ、たいていの銀行は「つみたて定期」という商品を持ちます。毎月決まった日に、決まった金額があなたの口座から引落とされ、自動的に別口座に振り替えられる。単純明快なしくみです。
上記「つみたて定期」は、初期設定さえ行えば、あとは自動的に給与振込口座から掛金が引落とされるため、「最初からないお金」と思いやすいのです(自分をうまく騙す方法でもあります)。これを自動引落としと呼びますが、これは自分(人間)を信用しない方法論なのです。
自分の意思で任意にお金を貯めることは想像より高いハードルを有します。なぜなら、人はお金があると、あるだけ使ってしまう生き物であるためです(これはパーキンソンの法則:支出の額は、収入の額に達するまで膨張する。として有名です)。
さて、よい仕組みである「つみたて定期(貯蓄)」ですが、実践する人が意外と少ないのです。
「あんまり利息付かないし」
「月5000円位では意味ないし」
「もっと手っ取り早くお金が増える方法、他にあるかもしれないし」
たしかに「つみたて貯蓄」はタイパがよい=手っ取り早く成果が見える方法ではなさそうです。コツコツ「つみたて」を続けるなんて、地味で目立たない行為。「砂粒」を毎月集めて、それが「大きな山」になるなんてあり得ないと感じてしまいます。
しかし、日常生活の中では、「砂粒」から「山」を積み上げる行為が意外とあります。
・草木に水をあげること
・毎日散歩をすること
・外国語を習うこと
・ストレッチを続けること
・(食事は)腹八分を心がけること
・ピアノを毎日練習すること
ストレッチは何かのスポーツに、ピアノは別の楽器に置き換えても構いません。
いずれも毎日、少しずつ、続けるという「共通点」を持ちます(そして成果はすぐには現れません)。外国語なんて、2日や3日習っても埒が明きません。3ヶ月、半年続けても、まるで霧の中にいるようです。何十回、何百回と同じタスクを繰り返すことで、ようやく成果の切れ端みたいなものが見えてくる・・。それは「つみたて貯蓄」も同じでしょう。
毎月、息を吐いて吸うように、お金を手元に残していく。ほかの継続行為も同じですが、最初がもっとも肝要です(要はスタートを切れるかどうか)。次は、4回5回と続けると「飽き」が襲ってくるので、それをいかにやり過ごせるか。
つみたて貯蓄を続けるメリットは、あなたのお金が増えることだけではありません。ひとつの物事を長く続ける効用を、暮らしの他の場面に生かせることなのです。「習慣」とは、手数料ゼロで手に入れられる、目に見えない武器です。この武器は長年使っても劣化しません。むしろ、月日が経てば経つほど威力を増します。
つみたては、日常の習慣のひとつといえるでしょう。
この「つみたて」という習慣を(もしもあなたが望めば)、次のステップに変換することも可能です。それが「つみたて投資」です。
整理しておきましょう。
「つみたて貯蓄」の「つみたて」は、少しの金額でも、長くコツコツお金を積み続ける行為(その本質は地味で目立たない行いです)。
その「つみたて」に「投資」という行いをプラスしたのが「つみたて投資」。しかし、投資という言葉を聞いただけで「それはご遠慮願いたい!」という人もたくさんおられることでしょう。
投資はその価値が不規則に上下し、危なっかしく、とても自分の手には負えない。そう感じるのも無理はないでしょう。わたしも最初はそうでした。
たとえば株式という資産があります。毎日「株式市場」というマーケットが開いて、売ったり買ったり、めまぐるしく株式の価格(株価)は動きます。派手な暴れ馬のように上下する対象が「株式」の典型イメージでしょう。
この、派手な暴れ馬を、地味で目立たない、継続的な行い(つみたて)に落とし込む。それが「つみたて投資」です。
清水の舞台から飛び降りる覚悟で、虎の子の200万円を一挙に「株」に注ぎ込むなんて、それは単なるアドベンチャーです。そんな波乱万丈感とは真逆にあるのが「つみたて投資」といえます。
毎月少額で(例えば月5000円とか1万円程度)で、規則的にリスク資産(株式など)を買っていきます。もちろん「ひとつの株」を買うのではなく、何百、何千という株をパッケージ化した「株式ファンド」を積み立てます。
※ここでは詳述しませんが、株式を半分・債券を半分組入れた「バランス型ファンド」も候補に上ります。
「少額で」というのがポイントで、無理のない金額ベースであれば「特別なことをしている」という意識が芽生えにくいため、平常心を保って投資を続けやすくなります。
「しくみ」そのものは冒頭で述べた通りです。初期設定さえ行えば、毎月決まった日に、決まった金額が、あなたの口座から引落とされ、自動的にファンド(投資信託)が買付けられます。
あなたが「いつ」
「いくらぐらい」← 金額ベース
「どれくらいの頻度」で株式ファンドを買うべきかと、悩む必要は一切ありません。
「つみたて投資」を実行するのはあなたではなく、仕組みそのものなのです。
積立投資は毎月定額で同じ投資信託を買付けますが、これは即ち、高いときも、安いときも、変わらず同じ商品を購入し続けるということ。
10回も20回もつみたてを続けていると、「えーっと、今月はいくらでこのファンドを買ったっけ?」と、良い意味でファンド価格を忘却するようになります(これも自分をうまく騙す方法です)。
ファンド価格が上がっても下がっても変わらず「定額」で購入し続けるため、「マーケットがいつ下がるか」「マーケットがいつ上がるか」を予想しても、意味がないことに気付かされます。
そして、同じ掛金でも、ファンド価格が下がるとたくさん「量」を仕込むことになり、ファンド価格が上がれば少なく「量」を購入することになります。つまり、つみたて投資では、高いときは少なく、安くなれば多く買うという仕組みが内包されているのです。
最後に、つみたて投資最大のメリットは、「投資に慣れるプロセスと、元本が積み上がるプロセスが同時進行すること」。つみたて投資では、リスク資産は少しずつ積み上がります(いきなりゼロ円から500万円になったりはしません)。
投資の元本が積み上がる「スピード」が、初心者のあなたが投資に慣れていく「スピード」とシンクロするわけです。投資そのものとあなた自身が、少しずつ親密になっていくイメージでしょうか。
わたしは昔「積立て投資術」という本を上梓しました。その中で強調したことは、暴れ馬のような投資という行いを、日本人に馴染みのある、少額でコツコツ続ける「つみたて」という所作に落し込めば、どんな人でも投資が続けやすくなるよ、ストレスが生じにくくなるよ。というものでした。
古代バビロニアの格言に次のようなものがあります。
―「砂粒」だってたくさん集めれば「山」になります。―
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