セーラー服と魔獣狩り

 まるで漫画みたいだな、思わず俺はそう思った。

 俺は再びあたりを見渡す。そんなに大きくない店内には、丸テーブルが4つ、それを囲むようにカラフルな椅子が置いてある。子供のころに連れられて行ったクレープ屋みたいだな、俺はそう思いながら、もう一度、目の前にいる怪物のほうを見た。そいつは四足歩行で何やら喚きながら、あたりを黒い泥のようなもので汚していた。

 流石にわけが分からなくなった俺は、隣にいる女の子のほうを見た。セーラー服に身を包んだその女の子は、状況に似つかわしくないほど落ち着いた表情で、椅子の上に両足を載せて立っていた。見た目は15歳ぐらいだろうか。その女の子は、腰に差したピストルを抜くと、そのまま怪物の顔面を撃ち抜いた。怪物は、そこら中に泥をまき散らしながら、なおもこちらへ迫ってくる。

 「ごめんね、落ち着いて聞いてね」

 女の子が、こっちに目を合わせることなく、話しかけてきた。

 「ここは、君の心の中。僕は、人の心の中に入れるんだ。」

 怪物の蹴飛ばした椅子が、目の前をかすめた。

 「あいつは。あいつは一体何なんだ」

 「僕も、詳しくは知らない。ただ、僕はあいつらのことを、『悪性思考』って呼んでる。一つだけ確かなのは、君があいつを倒さなけりゃいけないってこと」

 「どうやって」

 女の子は、再びピストルを体の正面に構えた。俺は、テーブルやいすの間をひたすら逃げ回っているだけだった。

 「まず、武器を見つけないといけない。君の心に住む『悪性思考』の倒し方は、君自身が一番知ってるはずなんだ。」

 再び、銃声。放たれた弾は、怪物の右足を貫く。少しよろける怪物。女の子の握りしめたピストルからは、白い煙が立ち上っている。光沢のあるテーブルに映る俺自身の姿は、見慣れた30代のひげ面ではなく、少年の姿であった。

 まったく、まるで漫画みたいだ、と俺は声を漏らした。

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