T.Q.B.ファイターズ!

 白く光る飛行機雲が、少年の視界を横切った。
 それを眼下に眺めながら、少年は操縦桿に少し力を込めた。少しだけ下を向いたコックピットが、向かい風に揺れた。シャツに包まれた、少年の乳首にひんやりした感覚が走る。少し顔を赤らめつつ、少年は操縦桿を左に傾ける、まるで最初からそこに上昇気流が吹いていることをわかっていたように、彼の乗る戦闘機はふわりと浮かんだ。


 男性の乳首が、単なる痕跡器官ではないことが判明してから、12年が経っていた。世界中で、思春期前後の男性の乳首が「覚醒」し始めたのだ。第六の感覚器官として、周囲の風や水温を知覚することのできる人間は、現在までに数百人となっていた。少年も、その一人であった。

 最初は少し恥ずかしかったけれど、だんだんこの力の使い方も分かってきた。この力で、みんなと一緒にこうやって飛んでいられる。そのことが少年にとっては嬉しかった。
 「前方2000mに反応あり、みんな気を付けて」
 無線からは、松本隊長の声。昨年の空戦競技会でも、日本代表を準優勝へと導いた、名パイロットである。憧れの人と一緒に飛べることは、少年にとっては大きな喜びだった。この人の期待に応えないと。少年の表情は一層引き締まった。少し力の入った乳首に、再び感覚が走る。その感覚に、高揚感と少しの恥ずかしさを覚えながら、頬を赤らめた少年は操縦桿を握りしめた。

 チームメイトの機体が、少年の視界の脇に映った。下を見ると、青々とした海がどこまでも広がっている。前方には、ごくかすかな黒い点がいくつか見え始めた。もうすぐ試合開始だ。少年はコックピットに吹き付ける風を、今や全身で感じ取っていた。
 「見えてきたね、そろそろ始めようか」
 「了解!」
 再び、松本隊長の声。それに答えるように、少年と、そのチームメイトは、一斉に機首を上へと向けた。コックピットが、再び心地よく揺れた。

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