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小説マガジン(含黒歴史)

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幼いあの頃に書いた小説や、たまに書く戯れ言。
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太陽と月と地球(3)

太陽と月と地球(3)

 ←はじめから

 ←(2)

 寺山と改札で別れてからずっと頭の中で同じ言葉がぐるぐるしていた。

「日比野くんね、ヤバイよ。君、幼なじみなんでしょ? 助けてあげたら?」

「僕じゃ何もできなかったから」

 
 次の日、学校に着くと自然と日比野を探している自分がいた。そして教室に日比野は居なかった。別に日比野が居ないことくらいよくあることだ。それに、日比野とはただ幼なじみだというだけで、家の電

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太陽と月と地球(2)

太陽と月と地球(2)

 そろそろ高校1年も終わりに近づいていた。

 残るイベントは学年末試験くらいだ。部活を辞めた日比野と寺山は暇を持て余していた。

「なぁなぁ、お前ずっと帰宅部だったじゃん。放課後って何やってる訳? まっすぐ帰宅?」
 昼休みに日比野が尋ねてきた。俺は食べ終わった弁当を片付けながら、
「まぁ、そうだな。本屋による事もあるけど、基本そのまままっすぐ帰宅かな」と答えた。
「本屋……。ゲーセンとかカラオ

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太陽と月と地球(1)

太陽と月と地球(1)

 俺と日比野は幼なじみだった。
 社交的な日比野にはいつだって周りに人が集まってきた。見た目は派手な奴だが本当はすごく気遣い屋だって事を俺は知っている。

 俺は自分から遊びの輪に入れないタイプだった。それを、さりげなくグループに入れてくれたのは日比野だった。

 日比野とはそれ以来の付き合いだ。

 日比野は勉強よりはどちらかというとスポーツが得意なタイプだったが、小学校ではそういう奴の方が人気

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かつて好きだったものたちへ

かつて好きだったものたちへ

出会いがあれば別れもあるって、言葉では聞いたことがあっても、なかなかその時が来るまで実感をともなわない。

出会うこと。
好きになること。

これは本当に簡単だ。

そしてずっと同じ熱で好きでい続けること。

これは少し難しい。

でも。

しかし。

同じ熱ではないものの。

少し熱が冷めただけで、静かな遠火のとろ火のように、ずっと好きでい続けることはある。

よくある。

かつて愛した絵本やお

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【ブロマンス風】焼きそばにマヨネーズ

【ブロマンス風】焼きそばにマヨネーズ

ここはとある大学の学生食堂。家から持ってきたカップ麺に学食でお湯を入れて食べようとするA太と、学食の親子丼を食べるC之介が向かい合って座っている。

C之介「あれ? マヨネーズかけた後混ぜないの?」

A太「いや混ぜない。一様になってしまったら1つの味しか楽しめなくなるからな」

C「なるほど。え? じゃあ卵かけご飯は?」

A「いやほんのり混ぜる。でもやはり一様には混ぜない。白いご飯のとこ

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永遠の片想い

永遠の片想い

私と世界の境界線がまだ曖昧だったころ、わたしはあの子が好きで、あの子もわたしを好きなのだと思っていた。

おはよう、と言われて嬉しくておはようと返す。

詠子ちゃんの持ってる消しゴムかわいいね、と言われて美衣子ちゃんの鉛筆もキラキラしててかわいい!と返す。

初めて一緒に買い物に行ったのは、初めてのブラジャーで、お互いに勇気が出なかったので、一緒なら買えるかも……と行くことにしたんだった。

その

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CALLING

CALLING

僕が彼女のことを知ったのは、ネットの動画投稿サイトで偶然その歌声を聴いたのがきっかけだった。どんよりとした梅雨空が続いていた。動画の方も曇天模様のいつかの休日の昼下がり......夕暮れ前といった感じか。どこかの公園にある円形劇場のような所で彼女は歌っていた。投稿者はその会場の観客の一人だったようだ。遠目だったので、彼女の容姿についてははっきりとは分からないが、静かな佇まいで、その歌声は美し

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のようなもの

のようなもの

権力を持った者には、虫が甘い蜜に吸い寄せられるように色んな輩が群がってくる。思わぬ事から時の人になった彼の元には、そんな人間が溢れた。頼み事をする者、悩みを相談する者、良き提案があると持ち掛ける者、あなたが好き……とうっとりとした目で見つめ口説いて来る者。そうして毎日毎日何十人、何百人という人が彼の元を訪れた。だが彼は孤独だった。そうやって彼が力を持てば持つほど、それに群がる人間が増えれば増えるほ

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雪童子(ゆきわらし)

雪童子(ゆきわらし)

 台風もいくつか過ぎ、辺りはすっかり秋らしい装いになった十月の半ば過ぎ、あの人からのメールが七ヶ月半ぶりに来た。仕事の依頼だ。季節労働者のような働き方をしている私の所には、秋口に仕事が舞い込むことが多い。すぐに返信をする。

「お久しぶりです。メール読みました。すぐにその子の詳しいプロフィールを添付して送って下さい。私の方はいつでも動けます」

その晩遅く、少女のプロフィールは送られてきた。

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百物語『見える』

百物語『見える』

 いつの頃からか私には不思議な力が宿っていることに物心ついてから気がついた。両目でものを見ている時には見えないものも、右目をつぶって左目だけで見ると、あらぬものが見えてしまうのだ。

「だからさぁー、翔ちゃん」

「……」

「翔ちゃんてば!」「あ、何、ごめん」

「聞いてなかったね。もういいよ!」

 子どもの頃、そんなことがよくあった。

 偶然何かが目の端を横切ったような気がして、まばたきし

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僕の彼女

僕の彼女

 僕の彼女はちょっと変わっている。彼女は7代前までの自分の前世を覚えているらしく、僕に会った時「やっと会えたね」と言った。
 「え?僕たち知り合いだったの?何代前の前世で?」
と僕が尋ねると、
 「キッカリ7代前よ。あなたは何にも覚えてないようね」
と言って、目が悪い人が遠くの文字を見る時みたいに眉間に皺を寄せて目を細めた。
 彼女の7代前に何があったのか、僕らがどんな関係だったのかは、何度聞いて

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わたしのAI(中編)

 翌朝、いつもより早く目が覚めた才蔵は、もてあました時間で部屋の片付けと料理の下ごしらえをしていた。午前11時、やっとレンタルAIが届くと、部屋の真ん中で才蔵は静かに箱を開けた。

 中から現れたAIはふんわりとした黒髪ショートボブで、東洋人の肌色をしており、箱の中で体育座りをしていた。服装は普通の女子高生の私服のようなパーカーと膝上のデニムのスカートだ。バーチャルショップで見た以上に精巧に作られ

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