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マツダの“執念とDNA”を乗り継ぐ夫婦

マツダ・サバンナRX-7 SE Limited(1981年型)


 2018年10月2日に、マツダはメディアと投資家たちを集めた新技術説明会を東京で開催し、野心的なプロジェクトが進行していることを明らかにした。
 それは、2019年にマツダ独自の開発によるEV(電気自動車)を発表するというものだった。マツダはその一方でトヨタと共同で次世代車を開発中だともすでに発表明していたが、独自開発のEVはそれとは別だというのだ。
 そして、そのマツダ独自開発のEVには発電用のロータリーエンジンが組み合わされるというセンセーショナルなものだった。
 筆者はその席にいて説明を聞いていたが、驚きと称賛の気持ちで一杯だった。5年前に横浜のマツダ技術研究所で、デミオのリアシート下に発電用ロータリーエンジンを搭載したEVのプロトタイプを試乗したことがあったが、その時は半信半疑で、こんなに早く本当に実現するとは思ってもみなかったからだ。
 ロータリーエンジンは、半世紀あまりに渡ってマツダが開発を続け、一時はファミリアやカペラ、ルーチェなどマツダの複数の代表的な車種に搭載され、小さな排気量から想像できないほどのハイパワーでファンを増やしていた。
 しかし、宿命的な燃費の悪さから、2012年のRX-8(4座スポーツカー)の製造中止とともに姿を消してしまった。燃費改善の努力は弛まず続けられていたが、その進化は微々たるもので、世の中の急激なエコ志向の高まりに応えるほどのものではなかったのだ。
 だが、マツダは“ロータリーエンジンはマツダのDNAである”と諦めなかった。でも、これまでと同じ方法では復活できない。そこで考え出されたのが、EVの発電に用いるという新しい活用方法だった。
 BMW i3のレンジエクステンダー付きや日産ノートe-Powerのように、エンジンからのパワーを駆動に用いず、発電用に限って搭載するクルマはすでに存在している。マツダのEVもそれらと同じ発想によるものだ。
 発電用とすると、ロータリーエンジンは長所がこれまで以上に生きて来る。繭型のローターが回転するので、発生するパワーに較べると、オーソドックスなレシプロエンジンよりも外形が小型で薄い。振動や騒音も少ない。燃費の悪さも克服できる見通しが立ったらしい。
「ロータリーエンジンは、ある一定の回転域内で回転させれば燃費はレシプロエンジン並みに落ち着きます」
 デミオEVプロトタイプの開発者はそう語っていた。


 ロータリーエンジンはドイツのフェリクス・ヴァンケル博士が1957年に発明した。かつてのNSU社が実用化に成功し、1964年に世界初のロータリーエンジン搭載車「ヴァンケルスパイダー」を発売。1968年には革新的な4ドアセダン「Ro 80」などもリリースしたが、その後が続かなかった。
 その一方で、当時まだ東洋工業と名乗っていた頃のマツダがNSUから巨額の特許料を支払って製造権を取得して最初に搭載したのが1967年の「コスモスポーツ」だった。
 その後、マツダは開発を精力的に続け、中心車種であるファミリアやカペラ、サバンナ、ルーチェやコスモなど中心車種にも搭載を広げていった。
 魅力は、ハイパワーによる圧倒的な加速だった。レシプロエンジンを搭載する同じカテゴリーの他メーカーのクルマではまったく歯が立たなかった。
 しかし、世界を襲った石油クライシスやアメリカのマスキー法による厳しい排ガス規制などによって、燃費の悪さと規制クリアの難しさからロータリーエンジンの存続は苦境に立たされた。
 だが、雌伏の期間を経た後に、マツダのロータリーエンジンは然るべきところに収まった。小型軽量でパワフルという長所を存分に生かせる新開発のスポーツカー「RX-7」への搭載だった。
 当時、筆者はまだ中学生で運転免許証を持っていなかったが、RX-7の登場そのものが大きなニュースだったように憶えている。
 それまでの厳しい排ガス規制をクリアすることにようやく目処が立ち、これからはスポーツカーをはじめとする楽しいクルマがたくさん登場してくるに違いない。
 クルマ好きたちは、そんな期待を持ち始めていた。RX-7は暗黒時代の終焉を告げるクルマとして諸手を挙げて歓迎されたのだった。


 RX-7を新車から37年26万6000km以上乗り続けている佐野 修さんもロータリーエンジンに魅せられ、スタイリングに惹かれて購入したひとりだった。佐野さんとは、今年で12回目の開催となる「トヨタ博物館クラシックカーフェスティバルin神宮外苑」で再会した。  
 同フェスティバルは、愛知県にあるトヨタ博物館の収蔵車と一般から公募したクルマが都心の神宮外苑に集まり、そこから銀座まで往復し、品評会を行なって表彰などを行うイベントだ。この日は、好天にも恵まれて2万人(主催者発表)の観客を集めた。
 実は、佐野さんは1978年に1台目のRX-7を購入している。それに3年乗って、今度は後期型に当たるRX-7をもう一度購入したのだ。
「とてもいいクルマで気にいっていましたが、ボディ剛性の低さとエンジンの低速域での細さが弱点でした」
 後期型に試乗してみたところ、それらがきれいに改善されていたので買い換えた。
「強く傾斜したフロント部分とキャノピー状のリア部分の造形が好きです」
 ヘッドライトが開閉するリトラクタブルヘッドライトは日本車としてはトヨタ2000GT以来で、当時はこれだけで“スーパーカーのようだ”と騒がれていたほどだ。
 リアのカタチもそれまでの日本車にはなかったもので、ここまで大きく飛躍したデザインに驚かされ、そして拍手喝采した。筆者を含めた当時の日本人は、来るべき日本のクルマの大きな飛躍をRX-7が先取りして象徴しているように無意識のうちに感じ取ったのかもしれない。
「ロータリーエンジンには、その前からハマッていたんです」
 佐野さんは1台目のRX-7に乗る前は、義兄から譲られたカペラ・ロータリークーペに乗っていた。つまり、ロータリーエンジン搭載のクルマばかりに3台乗り続け、レシプロエンジンのクルマを所有したことがなかった。
「ロータリーエンジンは加速の気持ち良さが魅力です。レシプロエンジンでは味わえません」
 筆者の知人にも、3代目RX-7にずっと乗っていて、他のクルマには一切見向きもしない人が二人いる。誰からでも好かれるというわけではないが、好きになった人からは熱烈に求められるというクルマなのだろう。


 37年前のクルマなので、乗り続ける上での苦労も多い。経年変化によって、あちこち修理を余儀なくされている。エンジンもトランスミッションもデフも載せ替えた。マツダのディーラーを通じてはパーツを確保することは難しくなって久しいので、もっぱらインターネットオークションを活用している。
「エンジンはローターではなく、ハウジングから劣化してきます」
 ハウジングを交換しようとしたが、吸気ポートが4つある前期型が入手できず、仕方なく6ポートの後期型をインターネットオークションで入手し、それを研磨して適合させて使用している。
 他にも、入手が困難なフロントとリアのサイドガラスや5速マニュアルのトランスミッションなども将来に備えて入手してある。
 1台目のRX-7ではジムカーナに出場したりしていたが、2台目では行なっていない。長年、変わらず取り組んでいるのがトンボの観察だ。
「ムカシトンボが好きで、山の中の生息地に出掛けて行って、その生態を撮影しています」
 トンボ!?
 思わず訊き直してしまった。あまりにRX-7のイメージと掛け離れているからだ。
 時には、国際トンボ学会の採取会に参加し、遠くスロベニアやドイツ、インド、香港などへも遠征しているというから驚いた。採取したトンボは標本にして、日本の学者に研究用に提供している。


「フロントグラス下のルーバーを修理するのに、トンボの標本を製作するためのピンセットと虫眼鏡が役立ちましたよ。ハハハハハハッ」
 RX-7のボディ下部に見える擦り傷や凹みなどは、日本国内でトンボ撮影に山奥に出掛けて行く時にできたものだった。
「河原の斜度45度くらいの崖に落ちて、登ることも降ることもできずに困っていたら、偶然に通り掛かった地元の材木店のクレーン車に引っ張り上げてもらって助かったことがありますよ」
 そのクレーン車はRX-7を引き上げると、何も言わずに走り去ってしまい、佐野さんは呆気に取られた。遠く、三重県でのことだった。
「今までに二度、このクルマを手放そうかと迷ったことがありましたが、二度とも妻に反対されて思い留まりました」
 RX-7は、3代目まで造られ、それぞれをコードナンバーで呼ぶ人が多い。初代をSA、2代目をFC、3代目がFDだ。
 FCは丸みを帯びたカタチが妻の好みとは違い、FDは試乗の結果、車内が狭く反対された。
「FDへの買い替えを止めた時点で、SAにずっと乗り続ける決意が固まりました」
 それ以降は、必要に応じてもう1台を付け足すことにして、ホンダ・モビリオを入手して乗っている。トンボ探しにも、最近ではモビリオで行くことが増えた。
 この日のようなクラシックカーのイベントには夫婦で良く出掛けている。妻の由美子さんもクラシックカーが好きなのだ。それも、僕が修さんと話している間も、ひとりで会場を歩いて、クルマを観て回っていたほどの熱心さだった。本当に好きなのだ。
「クラシックカーを見ていると、人間が造ったものでこんなに美しいものは他にないと思えてきます。古いクルマを乗り続ける尊さを感じますね」
 昔のクルマを乗り続ける場合に、家族の理解が得られないと嘆く人もいるけれども、佐野さんにはその心配は要らない。
「RX-7はスポーティなのだけれどもエレガント。シートの色やオムスビ型のホイールも好きですよ。今日ここに並んでいるような素晴らしいクルマはたくさんありますけれども、RX-7からは何かが違う。私たち夫婦には一番しっくりと来ます」
 由美子さんは、助手席に乗っていると安心して眠ってしまうと言うが、それは修さんへの信頼感の最大限の表現だろう。


「ABSやエアバッグも付いていませんが、横にしたドラム缶が載るほど実は実用性が高いんですよ。990kgと軽いから山道にはピッタリです」
 今では珍しくなってしまった初代RX-7を見せてもらいにクラシックカーイベントに来たら、夫婦それぞれから深く愛されている様子がとても良くわかった。修さんにマツダのEVの話をしたら、「ロータリーエンジンは発電機ですか……」と残念そうな口ぶりだったが、そのEVが発表されたら改めて一緒に乗って感想を聞かせてもらいたい。

文・金子浩久、text/KANEKO Hirohisa
写真・田丸瑞穂 photo/TAMARU Mizuho

(このテキストノートはイギリス『TopGear』誌の香港版と台湾版と中国版に寄稿し、それぞれの中国語に翻訳された記事の日本語オリジナル原稿と画像です)
文・金子浩久、text/KANEKO Hirohisa
写真・田丸瑞穂 photo/TAMARU Mizuho (STUDIO VERTICAL)
Special thanks for TopGear Hong Kong http://www.topgearhk.com


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