お墓に建てられるアレ
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お墓に建てられるアレ

 皆さん、こんにちは。僧侶は字が上手いという印象を持たれる方が多いと思うのですが、私が当寺に入った当初は皆さんの期待に反して本当に汚い字を書いていました。

幸い、連日の稽古の末に多少見られる字になりましたが、あまりの字の汚さから、【そとば】に印刷する専用プリンターの購入を勧められたことを思い出します。高い買い物をせずに済んで本当に良かったです。

そとばの表記

 さて、この【そとば】ですが、皆さんはどのような漢字で書かれるでしょうか。と言いますのも、そとばは表記にバリエーションがあり、「卒塔婆」「窣堵波」などと表記されます。

どれが正しいのかと気になるところですが、【そとば】はサンスクリット語の「stūpa(ストゥーパ)」という語の音に漢字を当てたものなので、翻訳した僧侶によって当てる字が異なりました。それゆえ、いずれも正解なのです。

ストゥーパとは何か

 では、「ストゥーパ」とは一体何なのかという話になりますが、これはお釈迦様のご遺骨など聖遺物をお祀りする塔のことで、仏塔とも呼ばれます。聖遺物を納めていないものは「チャイトヤ」と呼んで区別する場合もありますが、その辺は部派※1※によって定義が曖昧のようです。

伝説によれば、お釈迦様のご遺骨を巡っては多くの部族による争奪戦が勃発し、最終的には八つの部族によって分けられました。お釈迦様のご遺骨は仏舎利といいますので、これを「舎利(しゃり)八分(はちぶん)」といいます。そして、仏舎利を得た部族はそれぞれの土地にストゥーパを建立したとされます。その後、仏舎利はアショーカ王によって掘り返され、更に細分化されて各地が建立されました。その数、八万四千と伝わりますが、真意は定かではありません。

今日ではインドのみならず、東南アジア各国、中国、日本にもストゥーパは建立されていますが、日本でストゥーパは、二つに分岐し、一つは墓地に建てる卒塔婆となり、もう一つは「五重塔」となりました。ちなみにストゥーパに祀られるものは、仏舎利だけでなく、お釈迦様の髪や爪、歯や、サーリプッタ尊者など仏弟子のご遺骨の場合もあります。


なぜ各所にストゥーパが建立されたのか

 お釈迦様亡き後、今日に至るまで、ストゥーパにはお釈迦様を感じられる場所として多くの巡礼者が訪れるようになり、大変な賑わいを創出し続けています。また、それだけでなく、ストゥーパを崇拝する者は心が浄らかになり、来世には天界に生まれ変わることが約束されるといわれ、建立や維持に携わることはもっと大きなご利益があるという「ストゥーパ信仰」が生まれました。

それを示すようにインドのサーンチーやアマラヴァ―ティーのストゥーパは信者に利益を与え続ける場として何度も改修され、多くの寄進者の名が遺されます。その信仰は日本でも生きており、薬師寺三重塔の復興工事などに携わった宮大工の小川三夫さんは「塔の仕事に携わると、三代にわたって良い事がつづく(引用:NHK美の壺五重塔)」と仰られています。

また、三重県の古刹、金剛證寺では人が亡くなると直ぐに遺族が費用を出し合って、角材を利用した大きな角塔婆が建立されます。山中他界観※2も影響していますが、これはストゥーパ信仰の原点に非常に近いのではないでしょうか。

 ここまで読んで頂ければ、もうほとんどお分かりかと思いますが、今日においても私たちがお墓に卒塔婆を建立するのは、「ストゥーパ(卒塔婆)を建立すると多大な利益がもたらされる」という信仰に則っているからです。そのためにも卒塔婆の建立に携わり、自らの手でお墓に持っていくことが欠かせません。ぜひ、これから卒塔婆をお墓に建立される際には拙稿を思い出して頂ければと思います。

三重県金剛證寺の角塔婆
撮影:柳田春雄(金剛證寺職員)

※1 仏滅後、仏教教団は分裂を繰り返し、二十以上のグループ(部派)が並立したと考えられている。
※2 人の死後その霊魂が山におもむくという信仰

#仏教 #ストゥーパ #お寺

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臨済宗妙心寺派長寿寺住職。仏教に興味がある方や初心の方に向けて「仏教のいろは」を発信していきます。