
仏教を学び始めたアナタに捧ぐお経のトリセツ
皆さん、こんにちは。突然ですが、NHK教育テレビで放送中の「チコちゃんに叱られる」という番組をご存知でしょうか。
「ボーっと生きてんじゃねーよ!」
のフレーズでお馴染みのあの番組です。昨年12月4日放送分では、「お経とは何か」をテーマに当寺でも講演された仏教学者の佐々木閑先生がご出演されました。
知っている人がテレビに出るというだけでも胸が高鳴るのですが、それに加えてお世話になっている佐々木先生がご出演されるということでリアタイ視聴のみならず録画をした上で、テレビの前で正座をして拝見しました。そこで佐々木先生は次のように語られました。
「お経とは生きている人に対するお釈迦様からのアドバイスである。」
このように聞いて意外に思われるかもしれませんが、実際にお経にはお釈迦様がポッチャリ体型の王様にダイエットを勧めて見事成功するなんて話も載っています。もちろん、全てがこの調子なわけではなくインド思想をはらんだ難しいものもありますが、いずれも先達であるお釈迦様が道半ばの者に説かれたものですからアドバイスに他なりません。
壮大な伝言ゲーム
ただ、お釈迦様の時代は文字が未だ発達していなかったことに加え、学習というものは「記憶するもの」というインドの伝統に基づいて「アドバイス」は弟子から弟子へと口伝されていきました。数百年の間、壮大な伝言ゲームが行われてきたと考えられていますが、そうなると当然、齟齬が生じる可能性もあります。
画像引用:六月書房http://www.butuji.co.jp/syu/bukyo/index.htm
お釈迦様のアドバイスは大まかに以下の二つのルートで伝わりました。
・北伝 シルクロードを通って中国や日本へ
・南伝 スリランカやミャンマーへ
それぞれ異なるルート・グループで伝えらえたアドバイスは北伝では漢訳した「阿含経」となり、南伝ではパーリ語の「パーリ五部」となりますが、両者を比較すると驚くほどの一致を示すものも少なくありません。つまり、精度の高い伝言ゲームが行われてきたということです。
最古のお経写本
では、いつから今のようにお経が文字として残されるようになったのか。これは正直わかっていません。なぜなら、歴史は覆されるからです。例えば、現在34歳である私以前の世代の方々なら日本最古の通貨は問われれば、
「和同開珎」
と答えられると思います。しかし、現在の学校でこの答えを書くと不正解となります。現在では、「富本銭」という更に古い通貨が見つかっているので、そちらが正解です。それと同じようにお経の写本も新たに古いものが発見されては最古が更新されるのを繰り返しています。その中でも、現在見つかっている最古のお経の写本は紀元一世紀ごろのものと推定されるガンダーラ語で書かれた写本となります。
佛教大学仏教学部教授の松田和信氏が発見された写本をオスロ大学で復元作業する様子。 画像引用:佛教大学研究活動報 https://bukkyo-u-research.jp/research/research01/
お経とお経でないもの
お釈迦様の遺言は、
「自分が亡くなった後は『法』と『律』を師としなさい。」
というものです。
・「法」はお釈迦様の説いたアドバイスで、それをまとめたものがお経
・「律」は仏教教団における法律集
さらに、後世になると法と律を研究する人々が現れ、そうして研究されたものを論といいます。この経・律・論の三つをまとめて三蔵といい、このうち、厳密にお経と呼べるものは、
法をまとめた「経」のみ
となります。ちなみに三蔵に詳しい人を三蔵法師と呼び、その中でも一番有名な三蔵法師が西遊記のモデルになった玄奘三蔵です。
お釈迦さまが話した言語
インドにはサンスクリット語という今もなお公用語として使われている言葉がありますが、お釈迦さまはマガダ語という俗語を話されていたと推定されています。弟子から教えをサンスクリット語に統一しようと提案されたこともありましたが、
「仏の教えはそれぞれの国の言葉で語れ」
と一蹴されたと伝わります。考えてみるとそれは当然でサンスクリット語に統一するとサンスクリット語を話せる人しか仏教を理解できないので人に伝えることを考えるとデメリットでしかありません。おかげで現在では様々な言語のお経があり、多くの国や地域に仏教は広がっています。
最後に
今日でこそ、その気になれば誰だってお経を読めますが、スリランカでは飢饉で次々に僧侶が亡くなっていく際に、一人でも生き残れば仏教の教えが遺ると僧侶らが頭を突き合わせてお経を暗記しあったと言われます。今日、私たちが手にしているお経はそのような先人たちの辛苦のもとに紡がれています。真摯な気持ちで学んでいきたいものです。
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