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神様に会いにいく vol.20 物語と現実がつながる場所(平安神宮)

※この記事は2017年2月に書きました。

月に一度は平安神宮の大鳥居を見ている気がする。ときどき乗るバスが鳥居をくぐりぬけていくし、この場所には府立図書館や美術館や動物園もあるし、イベントが開催される大きな会館もある。

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平安神宮といえば時代まつりで有名で、しかもメジャーな観光地。わたしも何度かお参りしたことあるし、平安神宮で行われた結婚式にも出席したことがある。それなのに、どんな神様が祀られているのか知らなかった。

調べてみると、平安神宮のご祭神は、桓武天皇と孝明天皇。

……ん?

と、思わず二度見。
都を平城京から長岡京、そして平安京に移した桓武天皇と、幕末を生きた明治天皇の父・孝明天皇。平安神宮には神話の物語の中の神様ではなく実在の人物が神様として祀られていました。

神社には、神話がもとになっている神様だけでなく、実在の人物も神様として祀られている。ずっと神話を追いかけてきたから、実在の人物を神様としてお祀りすることは何だか不思議な気持ちがするけれども、今のわたしたちもお墓に手を合わせたりして、祖先の霊のようなものをなんとなく信じていて、見守っていてくださいとか、助けてくださいとか祈ったりすることを思えば、実在の人物を祀る感覚もわからなくもない。

それどころか、よく考えたら、物語の中の登場人物…もとい登場神様にお社を用意し祀る行為のほうが不思議な気がしてきた。

天皇は神の子孫だと言われていた時代は、神話と現実が地続きでつながっていただろう。身分制度がなくなった今は、人間と神様は別物としてきっぱり切り離されているけれど、「生まれ」という本人に関係ない理由で無条件に誰かを敬ったりする時代の感覚は今と全然違うはずだ。「生まれ」の最上級に神がいて、段階的につながっている。そんな感じだったのかもしれない。当時の人たちは、神様の子孫だから天皇を敬っていたのか、それとも天皇の祖先だから神様を祀っていたのか、どちらだったのだろう。

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平安神宮の入り口である慶天門。ザ・平安という感じがする。それもそのはず。平安神宮は明治時代に行われた博覧会の計画で平安京の大内裏(天皇在所地)の復元として建てられたのだそうです。

門をくぐると、

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広い。とにかく広い。

西側に白虎楼。

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東側にも同様の建物があってそちらは蒼龍楼。

平安神宮にいるのは狛犬ではなく、白虎と、

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蒼龍。

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そして、外拝殿。

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中は撮影禁止なので写真はここまでにして、2柱にご挨拶してきました。

今までの神様は輪郭のないほわっとしたエネルギーのかたまりようなイメージだったのですが、今回は、実在の人物で彼らがかかわった歴史上の出来事を知っているせいか、神社にお参りというよりは、神殿にあがって謁見してきたというイメージでした。

策略と陰謀がうずまく時代の変わり目の中心にいた、ふたりの天皇。
次々と訪れる観光客たちをどんな気持ちで眺めているのだろう。

ところで、作家・谷崎潤一郎が『細雪』という小説には桜の名所として平安神宮の神苑が登場する。

神苑に入った瞬間に枝垂桜の桜色の雲に迎えられ、登場人物たちは「あー」と声をあげるのは有名なシーンだ。

今は、桜は咲いていないけれど、その代わり、人がいないので庭をゆっくり見ることができる。人のいない庭も風流でいいものだ…と思って入ったものの、そこかしこに枝垂れ桜の枝がいっぱいあって、ああ、桜が咲いていれば…と20回くらい思った。

まあでも、桜が咲いている時期は人がいっぱいでこんなに悠長に自分撮りしている場合ではないので、これはこれで。

『細雪』の登場人物たちが、鯉に餌をやっていた楼閣の橋。

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三姉妹が歩いて渡って、姉の夫がライカで写真を撮った「蒼竜池の臥竜橋の石の上」。

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よくアニメや映画の舞台になったところを訪れて「聖地巡礼」と称したりするけれども、わたしにとってこの神苑はまさに聖地巡礼。もちろん作者の谷崎はここを訪れたのだろうけれど、谷崎が訪れたかどうかよりも、登場人物たちがここで時間を過ごしたということのほうが心を惹かれる。

架空の人物なのに。不思議だな。
実在したかどうかって、はたしてそんなに重要なことだろうか。
物語の中の人物も、神様も、空想上の生き物も、現実の人々も、わたしの心を動かす力は変わらない。

神様とわたしたちをつなぐ場として神社があるように、物語とわたしたちをつなぐものとして現実の場所や作者の存在があるのかもしれない。だからわたしたちは、ときどき、つながりを確かめに、聖地へ足を運ぶのだと思う。

平安神宮(へいあんじんぐう) 公式HP
京都市左京区岡崎西天王町
075-761-0221


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