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神様に会いにいく vol.13 ヒコホホデミ尊(火尊天満宮)

※この記事は2016年12月に書いたものです。

本日の主役は、ニニギノミコトとコノハナサクヤヒメの息子「彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)」です。

vol.11で紹介したこの夫婦は後に天皇の系譜につながっていくためエピソードもなかなか豊富です。

ニニギと結婚したコノハナサクヤヒメは子を宿すのですが、一夜でみごもったため、「本当に俺の子か? 他の神の子じゃないのか」とニニギに疑われてしまいます。

神様のくせに、妙に人間的なこだわりを見せるニニギ。一夜で身ごもって何が悪い。あなたのお祖母さまのアマテラスは、イザナギが目を洗った瞬間に生まれた神様ですよ! と申し上げたい。

疑われたコノハナサクヤヒメはどうしたかというと、産屋に火を放ち、これで無事に産まれたら貴方の子だと証明されるわと宣言し、燃え盛る炎の中で無事三人の御子を出産したのでした。

激しい。コノハナサクヤヒメは可愛いだけの神様ではなかった。

そうして生まれたのが、

火照命(ホデリノミコト)
火須勢理命(ホスセリノミコト)
彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)

という三柱神(別名が他にもいろいろあります)。

長男の火照命はのちに海幸彦、三男の彦火火出見尊は山幸彦と呼ばれるようになるのですが、次男は影が薄く記述がないので、ここで物語の舞台から退場してもらいます。アマテラスとスサノオはキャラが濃いのに間のツキヨミの影が薄いのと同じ構造ですね。

海幸彦と山幸彦の話って、どのくらい有名なんだろうか。わたしはたぶん幼い頃に絵本かアニメで知ったのだと思う。詳細は忘れていても、海で釣りをして生計をたてている海幸彦と、山で狩りをして生計をたてている山幸彦という兄弟の話だということは覚えていて、その設定が無性に好きだった。たぶん、今でも、そんな話を自分で書いてみたいくらい好きなのです。名前もいい。得意分野が違う対照的な兄弟というのもいい。萌える。

でも、この海幸彦・山幸彦が、もとは日本神話の話だったなんて、連載を始めるまで知らなかった。

では、どんな話か見てみましょう。

ある日、弟の山幸彦は、たまには違うことをやってみたいと思いつき、嫌がる兄ちゃんを説得して、お互いの仕事を交換することを提案します。そして、海幸彦は山へ、山幸彦は海へ、お互いの道具を交換して出かけますが、慣れぬことをしてもうまくいくはずはなく、ふたりとも成果があがらず帰ってくるのでした。しかも、山幸彦は兄ちゃんの大事な商売道具の釣り針をなくしてしまったのでした。

海幸彦は怒りました。

うん、そりゃ怒る。だから言わんこっちゃないって感じだもんね…。

怒った海幸彦は、山幸彦が必死に謝っても許さない。猛反省した山幸彦が自分の大事な刀をつぶして新しい釣り針を百個も作っても許さず、同じものじゃないと駄目だと山幸彦を責め続けるのでした。

途方に暮れた山幸彦は、海神のところへ力を借りに行くわけですが、そこで海神の娘にひとめぼれされてしまい、結婚し、3年ほど兄ちゃんのことを忘れて楽しく暮らしました。

…って、こらこら、山幸彦!!!貴方様はあまりにも天然すぎます…!

でもまあきっと、山幸彦は海幸彦に責められすぎて疲れたんだろう。何かがプチンと切れて、現実逃避してしまったのかもしれない。責めすぎるの、よくない。許すことも大事。

というわけで、3年経ってようやく海幸彦のことを思い出した山幸彦は、海神に事情を話して釣り針を探してもらうことに。すると、釣り針を飲みこんでしまった魚が見つかって、無事針を取り戻すことができ、地上に帰れることになったのです。

海神たちは、山幸彦に、兄ちゃんに負けるなよと、いろいろな入れ知恵やアイテムを授けます。地上に戻った山幸彦は、針に呪いをかけたり、田を干上がらせたり、攻撃してきた海幸彦を溺れさせたりして海幸彦を降参させ、服従させるのでした。

…えっ?
なんかひどくない?
もともと悪いの、山幸彦なのに。
いつまでも相手を許さないとこうなる、という教訓でしょうか…。
モヤモヤする。
まあ、山幸彦は、あのニニギさまの息子だからしょうがないか…。

この山幸彦と海神の娘の子の、さらに子どもが、最初の天皇「神武天皇」になります。
そこにつなげたいがための政治的なあれこれが、このエピソードの背景にあるという解説もありますが、そのへんはこの連載では触れないとして、今回は山幸彦ことヒコホホデミ尊に会いにきましたよ。

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一度通り過ぎて、見つけました。

こちらです。右奥。建物に囲まれた小さな社。

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火尊天満宮(かそんてんまんぐう)。天満宮と名付けられているとおり、ヒコホホデミ尊だけでなく、菅原道真さまも一緒に祀られています。

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町の人が守っている小さな神社。祇園祭のときには油天神山を出す町。よく通る場所なのに、ここに神社があるなんて知らなかった。

あの(わたしの中で)有名な山幸彦が、こんなところにいらっしゃったなんて。

今回の連載で、街の中に当たり前のように神社があって、風景に溶けこんでいるように、わたしの体には自覚はなくても神話の物語が溶けこんでいることがわかった。物語ってなんだか神様のようだ。

神社をつくって神を祀って拝むように、心の中に流れている物語も文章や劇や絵のような芸術という形にして、いろんな人に見てもらうことで何かが生まれていくのだと思う。それが何なのかはまだわからないけれど、人間にとって、よいものだという確信だけはある。だからわたしは、物語を書き続けるのだと思う。

火尊天満宮(かそんてんまんぐう)
京都市下京区風早町559-1
京都市バス 「四条堀川」下車。徒歩すぐ。

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