寒竹泉美

京都在住の小説家です。医学博士(京都大学)です。理系ライターもやっています。 お仕事や活動履歴などはHPにあります。 https://kanchikuizumi.amebaownd.com/

考えていること

日々、考えたことを少し長い文章で。まだまだ人として未熟だからきっと考えは変わっていくのだろうけれど、その途中過程を書いておきたい。

  • 70本

わたし今日から25歳になるわ、と思ってみたら、たくさんのことに気が付いた

『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』という本を読んだ。日本では2020年に発行された比較的新しい本。脳関係は結構チェックしているので、知っていることも多かったけど(知っていても面白かった)、初めて見たのが、20代のころの思い出に浸ると脳が健康になるという研究成果。当時の思い出の写真や20代のころに流行していた音楽やテレビなどに囲まれて、昔を思い出して、心や五感を動かす時間を定期的に過ごした人たちは、寝たきりだったのが動けるようになったり、好奇心が旺盛になったりと、

スキ
31

呪いに満ちたこの世界で、希望をもって世界を想像し創造する、比較的簡単な方法について

明けましておめでとうございます。新年1発目のnoteのタイトルが「呪い」ってどうよ(笑)希望を持つことについての話を書こうとしているので、まあ、目をつむってください。呪いを祓って希望をもたないと、正しく願うことはできないから。 ずっと気になっていた本『小説家になって億を稼ごう』松岡圭佑・著(新潮新書)を読了して元気が出た。この本にはまったく小説を書いたことがない人が小説を書いてデビューして大ヒットしてそのあとも失敗しないようにするためにはどうすればいいかのノウハウが書いてあ

スキ
56

「自分の心で感じ自分の頭で考える子どもを育てる学習プログラム」を考えてみた話

ある日、とてもパワフルなある人に、あなたは何かやりたいことはないのか、あるなら企画書を書いてみろ、出してくれたら何かにつなげてあげる(要約)みたいなことを言われた。 (うーん、わたしは自分がのんびり幸せに生きられたらそれでいいから、企画とか大変すぎるかも) と、内心ちょっと思いつつ、でもそろそろ自分のことばかり考えず、社会に恩を返していかなくてはいけないという気持ちも湧いて、なきにしもあらずなやってみたいことを、えいやーと企画書を書いてその人に出した。相手は、ほんまに書い

スキ
23

2021年の仕事と創作を振り返る

あっという間に師走で、なのに仕事は全然終わっていなくて、心がすさんでいる日々です。1つの原稿に取り組んでいるときはそのことばかり考えているけれど、終わったら、全部頭から振り払わないと、次の原稿に取り掛かれない。だから、いつも手ぶらで、身一つでいる。気を抜くと虚無感のようなものに襲われてしまう。 過去に書いたものも、いったい誰が書いたのだろうと不思議に感じる。でも、スケジュール帳や写真を見て振り返れば、確かにそれを自分がやったという記憶の痕跡がわたしの中に残っていて、わたしは

スキ
53

【連載小説】ちょうどよいふたり

日本リフレクソロジスト認定機構会報誌「Holos」で連載中の連作短編小説です。1年に3話更新されます。作中の人物も4カ月ごとに成長していきます。

  • 27本

第1話 ぜんざいと風花 |2013年1月

 サービスエリアにありがちなファミリー向けのレストランで、大味の甘ったるいぜんざいをすすりながら、いったい俺は何をしているのだろう、と幸彦は考えていた。一か月後に人生を左右する大学入試を控えているのに、のんきにドライブなどしている場合ではない。目の前では、叔母の果穂が、幸せそうに餅を頬張っている。幸彦を連れ出した当本人だが、ぜんざいを食べるのに夢中で、幸彦が疑問を抱いていることにも気づいてなさそうだ。暖房が効きすぎているせいで、果穂のほおは小さな子供みたいに赤い。ただでさ

スキ
16

第2話 唐揚げと人生 |2013年5月

 ほら、地縛霊がいる、と幸彦に言ったのは、最近予備校で言葉を交わすようになった佐々木という図体のでかい男だった。 「そんなものいるわけないだろ、真昼間から」   と、幸彦は言い返した。でも、内心、ちょっとびびっていた。 「それがいるんだな。朝から晩まで、ずっとあそこに」  佐々木があごで示した先は、自習室だった。  窓際の一番奥の席に、一人の男の丸まった背中が見えた。チェックの半袖シャツで覆われた背中が、もぞもぞ動く。毛深いけれど生白い腕がせっせと何かを書

スキ
12

第3話 お弁当とリフレクソロジー|2013年9月

 ようやく日常が戻ってきた、と思いながら幸彦は予備校の教室の中を見回した。昼時は休憩室として解放されているこの部屋の中は、九月も半ばを過ぎたというのに、クーラーが効きすぎるほど効いている。食べ物のにおいが混じり合い、ときどき笑い声も聞こえるが、ほとんどの受講生はひとりで飯を食べている。佐々木はカップラーメンをすすり、甲本さんはシュークリームにかぶりついている。十浪中の通称「地縛霊」は、窓際で菓子パンを食べている。 「今日も愛ママ弁当か」  佐々木のからかいに、幸彦は仏頂

スキ
10

第4話 ハーブティーと告白|2014年1月

 窓際で自習していた幸彦がノートから顔を上げると、甲本さんが目の前にいた。 「今回は雪じゃなきゃいいね」  幸彦はそっと周りを見回した。佐々木の姿はない。ひとりでいるときに甲本さんから話しかけてくるのは、初めてだった。 「センター試験?」 「そう」 「もう一回あんな雪が降ったら、去年経験している俺たちが有利になるかもよ」 「確かに、それ言える」  唇の間から白い歯をのぞかせて甲本さんは笑った。いつもと違う雰囲気なのは髪をおろしているせいだろうか。窓から差し込む光に髪が透け

スキ
10

【期間限定で無料公開】月野さんのギター

版権を所持しているデビュー作を期間限定で無料で掲載してみます。無料公開なので面白かったら広めてくれると嬉しいです。全部で12章あります。 表紙絵は漫画家の黒谷知也さんに描いてもらいました。

  • 12本

小説「月野さんのギター」第1章

 今、俺のななめ前のテーブル席に、ナナミと西山が並んで座っている。後ろ姿しか見えないが、見間違えようがない。西山の腕はナナミの腰に回されていた。それから、二人は見つめあって笑うと濃厚なキスをした。  あれだあれ、そっくりさん。なんだっけ。そう、ドッペルゲンガーと、つぶやいてみる。少しだけ愉快な気分になった。いや、嘘だ。まったく嘘だ。愉快な気分になんかなれるわけがなかった。  俺は携帯電話を握りしめたまま、こんなメールを送る妄想をする。今さ、俺、お前にそっくりなやつ見たよ。する

スキ
65

小説「月野さんのギター」第2章

 数日間は体中が重くて、何をする気も起きなかった。いつまでもベッドの上でだらだらと寝ていた。せっかくの休みだったが、ナナミと会うために空けた時間だと思うと、東京での出来事が思い出されて、気力が根こそぎ奪われた。  携帯がときどき鳴った。メロディーでナナミからだと分かった。体を起こして手に取ったのに、液晶の画面に現れた七海という文字を眺めるばかりで、ボタンを押す気になれなかった。なんて言えばいいのだろう。俺はまだ、何の決心もできていなかった。ナナミを問い詰めるのかどうか、そし

スキ
16

小説「月野さんのギター」第3章

 月野さんのギターを初めて聞いたのは、去年の秋だった。  長い夏休みが明けて、試験が始まり、それが終わると、大学は再び休みとなった。ナナミの大学は私立だからスケジュールが違っていて、俺が休みになったとたん、試験が始まってしまった。することもないし、じゃあ、バイトでもしようかと、俺は重い腰を上げた。夏の暑さがピークに達するまでは、不定期に引越し屋のバイトをしていたが、京都の暑さに耐えきれず休んでいた。もっと楽で、もうかる仕事はないかと探して、家庭教師や塾講師の登録をしたが、い

スキ
13

小説「月野さんのギター」第4章

   ナナミとのことをどうするか。一人でいくら考えたところで、結論は出そうになかった。そういえばナナミが何日に来るのか聞いていない。本当なら、明日までは東京で過ごしているはずだったから引越しのバイトは入れてないし、塾も休みだった。だから、いつでもいいよと答えたことは覚えている。  まあいいや、どうするかは顔を見てから決めよう。俺は、またしても問題を先延ばしにして、そのまま眠った。  チャイムの音で目が覚めた。どうせ新聞の勧誘かNHKか宗教団体かのどれかだろう、と思って、俺は

スキ
13

短い小説いろいろ

公開OKの短い小説をいろいろ集めました。また発掘したら随時アップします。

  • 9本

【小説】スピカ

 目が覚めたとき、自分が何者で、今どこにいるのかを思い出せなかった。よほど深く眠っていたのだろう。足のつかない水の中にいるような不安な気持で、辺りを見回す。ここは列車の中だった。窓の外には、まだ水の張られていない田んぼが広がり、空は透明な水色で、日差しがきらきらとまぶしかった。それらが通り過ぎて、あっという間にわたしの視界から消えた。トンネルに入ると、窓はわたしの顔を映した。美しくも醜くもない。どこにでもいそうな容姿の、特徴のない一人の若い女。間もなく岡山です、というアナウン

スキ
35

【小説】土のうつわ

 帯に書かれたそのキャッチフレーズを、わたしは小さな声で読み上げる。『米谷瑞穂のおいしい家庭料理』というタイトルの下で、瑞穂は、両手で鍋を持って立ち、カメラに向かって笑っている。白を基調にしたカントリー調の台所。この写真を見た人は、瑞穂の料理を楽しみに待っている幸福な家族を思い浮かべるだろう。 ――おいしい料理はひとを幸せにする。  ひととおりぱらぱらとめくってから、本を飾り棚に戻す。視線を店内にめぐらせる。  隣のテーブルでは、女ふたりが向かいあって瑞穂の料理を食べていた。

スキ
19

【小説】最後のガンジス

 朝靄に包まれた川をボートが進んでいく。ガイドがボートをこぎながら、ガンジス川で沐浴すると、全ての罪が洗い流されるのだと説明してくれる。  川岸には色とりどりのサリーをまとった女性たちが、まるでお風呂につかるように川の水を体にかけている。別の場所には上半身裸の青年たちが川の水で頭を洗ったり歯をみがいたりしている。座禅の姿勢で祈っている僧もいるし、洗濯している女性たちもいる。  小春は、開けた口を閉めるのも忘れて、目の前の光景に圧倒されていた。インドというのは様々な人たちが住ん

スキ
16

【短編】嘔吐

 一、  その日は、ひどく疲れていた。頭が痛くて、眼球の奥に穴が空いたように目が乾いていた。一晩眠れば戻るというような健康的な疲れじゃない。僕がそのとき抱えていたのは、もうこれ以上何かを体に入れると破裂してしまいそうな暴力的な疲労だった。息を吐くと自分がばらばらになってしまいそうだった。  誓って言うけど、アルコールなんて一滴も飲んでなかったんだ。  とにかく家に帰りつかなくてはと、僕はタクシーを探した。道路に出るとヘッドライトが目を突き刺した。赤いテールランプが次々と僕の

スキ
10

【文学エッセイ】古都の影

2008年から2009年の間に「京の発言」で連載していたエッセイです。京都を舞台にした文学作品をとりあげ、実際にその場所に行って想いをつづります。作家デビューできたのが2009年11月なので、ちょうどデビュー直前のエッセイになります。 ※写真や現地の情報は当時のものなので、訪れる際は最新情報をお確かめください。

  • 4本

【文学エッセイ】古都の影 vol.1 みすぼらしくて美しいもの―「檸檬」梶井基次郎

(※2008年11月に書いたエッセイです)  京都の町には艶やかで美しい影が潜んでいると、わたしは思う。その影は、完璧な闇というよりは、流れに洗われてぬらぬらと光る川の石のような、どこか愛嬌のある黒をしている。  古い黒ずんだ木造の家には必ず影がある。庇の裏。柱の側面。窓枠の下。少し裏に回って家と家の狭い隙間を覗き見れば、そこにも必ず影がある。見つけ出すと、何だかほっとする。  この町で長年生活を営み年を重ねた人たちの中にも、古い家並みと同じように美しい影を見つけること

スキ
14

【文学エッセイ】古都の影 vol.2 盆栽の美しさ―「古都」川端康成

(このエッセイは2009年1月に書いたものです)  川端康成の長編小説「古都」には、京都の美しい四季や祭りの様子、京都弁で話す人々の暮らしが、観光ガイドのように並べられ、描写されている。そして、そんな京都を舞台に、生き別れの双子の姉妹が偶然出会うというドラマティックなストーリーが繰り広げられる。だけど、わたしが、この小説を読んでいて特に魅力を感じたのは、京都の描写でも双子の運命でもなく、登場人物が漏らす京都や自然についての個人的な感想だった。  たとえば、主人公の千重子と

スキ
6

【文学エッセイ】古都の影 vol.3 第一義の活動―「虞美人草」夏目漱石

 洛北を走る叡山電車からケーブルカーに乗り継いで、さらにロープウェイに乗り換える。ロープウェイが地を離れ、約百年ほど前、「虞美人草」の主人公である宗近君と甲野さんが(そして、作者である漱石も)せっせと徒歩で登った険しい勾配が、窓の下に広がり始める。わたしは、それを上から眺めながら、汗もかかずに、ぐんぐん登っていく。乗車賃はそれなりだが、金さえ払えば、あっという間に比叡山の山頂である。 「虞美人草」の舞台のほとんどは東京だけど、冒頭は何ともお気楽な京都観光から始まっている。東

スキ
6

【文学エッセイ】古都の影 京都の桜―「細雪」谷崎潤一郎

(※このエッセイは2009年11月に書いたものです) 「細雪」を読むのは二回目で、以前は関西に住んでいなかったからぴんとこなかった地名も、今読み返してみると、訪れたことがある場所が次々出てくるし、やわらかな関西弁は耳に馴染んで、イントネーションも思い浮かぶから、文字から声が聞こえてくる。  谷崎がこの作品を書き始めたのは、一九四二年だそうで、その頃から、もう六十七年も経っているのに、時を越えて、わたしの知っている現在の土地に、姉妹たちが現れてどたばたやっているような気持に

スキ
14