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【読書エッセイ】読んだり語ったり

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読書して語ります。
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時間の欠乏のアリジゴクから抜け出す方法を思いついた|『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(早川書房)

時間の欠乏のアリジゴクから抜け出す方法を思いついた|『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(早川書房)

前々から締切に追われまくる生活は、借金取りに追われまくる生活によく似ているなと思っていた。実際に借金取りに追われたことはないので小説やドラマから想像するイメージでしかないけれど。

締切が近づいてくると心臓の鼓動が早くなり、ドキドキして何をしていても上の空になる。ガンガンとドアをノックされて脅迫されているような気がする。複数の借金取りに追われているから、期日の早いものから必死で返していく。借金を返

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じゃあ、わたし、女じゃなくていいやって言ってみたい。|『〈トラブル〉としてのフェミニズム「取り乱させない抑圧」に抗して』 藤高和輝・著(青土社)

じゃあ、わたし、女じゃなくていいやって言ってみたい。|『〈トラブル〉としてのフェミニズム「取り乱させない抑圧」に抗して』 藤高和輝・著(青土社)

ノンバイナリーという言葉がある。自分の性は男でも女でもないと認識していることだ。初めてその言葉を聞いたとき、何を言っているのだ? と思った。さっぱり意味が分からなかった。自分の体の性と心の性が不一致なトランスジェンダーとはまた違う。ノンバイナリーを自認する人にもいろいろなパターンがあるだろうけれど、たとえば、女の体に生まれたけれど、女の特徴は受け入れたくなくて、かといって男になりたいわけではない、

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8年後わたしは何をしているだろうかー『2020年6月30日にまたここで会おう』瀧本哲史(星海社新書)

8年後わたしは何をしているだろうかー『2020年6月30日にまたここで会おう』瀧本哲史(星海社新書)

瀧本哲史というひとをわたしは知らなかった。ライターの先輩である大越裕さんがライティングを担当し、今とても売れまくっているので興味をもって読んだ。

この本は2012年6月30日に29歳以下の若者300人以下に向けて東京大学のホールで行われた講義録。文字で読んでいるのにその場にいるようなライブ感があって一気に読んだ。

瀧本哲史氏は、創業間もない企業に投資をして応援するエンジェル投資家であり、これか

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文芸とは何か―『吃音 伝えられないもどかしさ』(近藤雄生・著)を読んで

今日はわたしが非常勤講師をしている大学の入学者説明会と、読書会。チーム・パスカルの一員としてお仕事を一緒にしている先輩ライターの近藤雄生さんのノンフィクション本『吃音 伝えられないもどかしさ』を取り上げさせていただくのです。

『吃音 伝えられないもどかしさ』近藤雄生(新潮社)

文章を書きたいと思って文芸コースの戸をたたく人の多くは、小説やエッセイを念頭に置いてて、ノンフィクションやルポタージュ

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魂をなくして生きられないすべての人へ―「私」のための現代思想(光文社新書)

電子書籍Kindleのいいところはいつでもどこでも携帯できることだと思う。肌身離さず持ち歩いているiPhone6s plusのKindleアプリを開けば、電車の中だろうが、布団の中だろうが、いつでも本を読むことができる。

そしてもうひとつのいいところは、文字の大きさが調整できることである。わたしはKindleを読むときはいつも、書かれている言葉の密度によって文字の大きさを変える。多くのビジネス書

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恋で人は死んでしまうのか問題と古典文学のタイトルはどうしてこんなにそそられないのか問題。「若きウェルテルの悩み」(ゲーテ)

 ずっと本棚にあって気になりつつも読めなかった本をようやく読んだ。読んでみたら若きウェルテル君の悩みは、恋の悩みであった。それなのにもうずいぶんと長い間、ウェルテル君を放置していたわけで、なんだかとても申し訳なかった。
 本というものは開かれるまで忍耐強く黙っている。もしも、若きウェルテル君が、わたしの前に現れて、
「実は婚約者がいる人のことを好きになって……」
 などと告白し始めたら、今すぐ聞か

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