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転んだっていいんだ

「かんちゃん!? 大丈夫?」

運動リハビリのトレーナーが駆け寄って来た。
リハビリで卓球をやっていて、ちょっとそれた球を追って
左足で強く踏み込んだら、踏ん張れなかった。

景色がスローモーションの様になって、
「あ、転ぶ」と自分でも分かった。
そのまま転んでも、手の力がない私は
手を床について衝撃を和らげることが出来ない。

仕方なく、受け身の要領で肩から床につき、
身体を丸めて転がる事で事なきを得た。
何となく、転んだ時はせめてこうしようと
イメージトレーニングしていたのが役立った。

痛みもなく、手を貸してもらったらすんなり立てた。
心配そうにたくさんのトレーナーが来てくれて
転び方だけ見るとかなり大げさに見えるので
身を守るためとはいえ、ちょっと恥ずかしかった。

イメージしておいてよかった。
落ち着いて対処できたので自信になった。
スマホで得た情報も、たまには役に立つ。

それ以来、幸いなことに大きな転倒もなく今まで来た。
細かいことを正直に言えば、家の中では何回も転んでいるし
風呂場では一度激しく転んで、しばらく動けなかった。

転んだら骨折などの大きなケガに繋がると、
療法士の方々に言われていたので、もう必死だった。
その後もイメージトレーニングは欠かさなかったし、
疲れが出る夕方等は、無理せず休みながら帰った。

全ては転ばないため。ケガをしないため。
手をついたり、捕まったりが出来ないという現実が
転ぶことに対しての恐怖心を増長させていた。

そんな中、自分の部屋からキッチンへ向かうと、
いつもはない場所に、大きな段ボールが置いてあった。
視界が狭く場所を感覚で捉えている私は、
それに気づかず、思いっきり足を取られて転んだ。

手が付けず、顔面の左側を強打した。
痛くて、情けなくて、しばらく動けなかった。
ものすごい音がしたので、家族が次々に集まってくる。
恥ずかしかった。みっともないと思った。

顔や腕や太ももや、とにかく打ち付けたところが
ものすごく痛い。これは痣になる、そう思った。

そこまで考えて、寝ている場合ではないと
ゆっくり顔を上げてみた。
家族と目が合って、ホッとした。

気を付ける様に散々注意されて、
冷やすためのタオルを持って部屋に帰った。
結局打撲であちこち腫れあがってひどい目にあった。

もう二度と転ばない。
守ることは難しいだろうけど、
私は固く心に誓ったのだった。

でも、今では転んだっていいんだと分かっている。
転ばないと思えば思う程、逆に視野が狭くなる。
注意するのに越したことはないが、しすぎると逆効果だ。

何事もとりあえずやってみる。
それで転んだっていいじゃないか。
「ああ、痛かった」で、次に進もう。


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