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「モダン」MoMAを舞台にした5つの濃厚な物語。

モダン 原田マハ 

もうすっかりその作品群に虜になってしまった、原田マハさんの短編集です。
「MoMAーニューヨーク近代美術館ー」を舞台にした5編の物語が綴られています。

原田マハさんの物語は、どれもこれも、モチーフに対する「熱量」がすごくて、とても「濃厚」です。

以下、簡単ではありますが、各話の感想を述懐します。

中断された展覧会の記憶

MoMAが、ふくしま近代美術館に貸し出した「一枚の絵」をめぐる物語です。
舞台は2011年。そう。東日本大震災の起こった年です。

MoMAで働く主人公は、ふくしま近代美術館に貸し出したその一枚の絵に、ある「調査」を行います。
その調査は、震災から10近くが経過した現在では、ちょっと失笑してしまうような行為なのですが、当時は、結構な人に「シリアスな行動」として写ったのではないでしょうか。

なんとなく・・・ですが、今起こっている出来事を、2030年の人たちがみたら、同じ様な感覚に陥るんだろうなと思ってしまいました。

余談ですが、「福島」と「ふくしま」と「フクシマ」。
三種類の「ことば」を、登場人物の立ち位置から同音異句に扱っている。
その見事な手腕にうなされました。

ロックフェラー・ギャラリーの幽霊

この短編に関しては、そもそものタイトルが思いっきりネタバレなので、遠慮なく書評したいと思います。

物語の中心は、美術館に無許可で作品を残す正体不明のアーティスト『バー』を巡る物語です。

無許可で作品を残すアーティスト・・・多くの方が、あるアーティストを想像すると思います。
そう『バンクシー』です。

原田マハさんは『リーチ先生』の販売記念インタビューで、このように語られています。

 私が史実をベースにして書くのは、そのアーティストをリスペクトしているからなんです。ですから、登場するアーティストを絶対におとしめないというのが、自分の中の決め事です。

このご発言を踏まえた上で、ちょっと考察をしてみようと思います。
はたして、バンクシーという「アーティスト」は、「天才」なのでしょうかそれとも「反逆者」なのでしょうか。

これはあくまで、私の感想としてお読みいただきたいのですが、私はこの短編を読んで、バンクシーは、アーティストですらなくただの犯罪者だと感じてしまいました。

なぜなら、この短編で描かれた『バー』は、アーティストではなく熱烈なモダンアートファンとして描かれているからです。

その人物は、結果的にMoMAの展示室に「作品」を創ってしまっているのですが、そこにはメッセージなんて何もありませんでした。

死してなお、ただただ、パブロ・ピカソの熱狂的なファンとして描かれているだけでした。

私の好きなマシン

1934年にMoMAで開催された、「マシン・アート展」に、人生の面舵を切らされた人物の物語です。

私は、結構いい大人になってから、九段下にある科学技術館で、実物の「ベアリング」を見てとても興奮したのですが、

物語の主人公は、若干8歳でその魅力にとりつかれた「天才」です。

その「天才」が、プロダクトデザイナーとして円熟期に達した時に、「もうひとりの天才」と出会う瞬間を描いた物語です。

5編の短編の中でも、圧倒的に「熱量」が高くて、とんでもなく「濃厚」な物語に感じました。

新しい出口

非常に残念なのですが、この作品だけは、一切心が動かされませんでした。
理由はただ一つ、主人公のモノローグ。

「メッセンジャーにデリバリーさせましょう。」

この一言を、盟友ともいえる職場仲間に言えなかったことを、後悔しているからです。

その職場仲間は、ワールドトレードセンターで、とても不幸な最後を迎えるのですが、もし、メッセンジャーにデリバリーをさせていたら、不幸な最後を迎えるのは、メッセンジャーになってしまいます。

この「命の選別」というか・・・なんとも言えない薄気味悪さに、完全に思考を奪われてしまい、物語が一切頭に入ってきませんでした。

大傑作「楽園のカンヴァス」の主人公のひとり、ティム・ブラウンが登場するにもかかわらず、私の心は薄気味悪さに囚われて、頭を働かすことができませんでした。

あえてよかった

エッセイのような、あとがきのような物語です。

MoMAで働くという現実を、結構リアルにつづった物語なのですが、とても爽やかな読後感を得られる、とても素敵なおはなしだと思いました。

最後に

原田マハさんの小説は、どれもこれも、その「熱量」がとんでもないので、毎回、読書感想文にならないので困っています。

自分の感じたことを、ただただ「陰謀論」のように書き殴っている。そんな気がします。

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