kanata544

日々思ったことやコンテンツ論をつらつらと。

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最近の記事

古い憧れとロリィタの話

昔、ロリィタに憧れていた。 当時の流行りの甘辛ミックスへの反抗か、引き算をしないファッションが好きだった。可愛い物も大好きで、辿り着いたのがaxes femme。その延長線上にロリィタがあった。 いつか着たい、着ようと思っていた。今はまだお金もないし太っているけれど、メイクをしてみたいと言ったら家族全員にバカにされたけれど、誰にも文句を言われなくなったら着たい。そう思ってカバンにムック本の付録のくまくみゃちゃんを付け、イノセントワールドの日傘で通学する女子高生だった。

    • 「まひる野」2022年7月号

      マチエール掲載「黎明」 瞬間を悟られることなく満ちる月の真下で開くベゴニア あなたの持つ橙色の沈黙のなかで揺られる臨月の猫 クレープの写真に写り込む足が革靴を履いていて青葉風 光らない日々が街には必要でジャンボタニシのいない用水 朝に降る雨の静けさ ほんとうはあなたと寝坊してみたかった 慣れるからさみしいのですね花を摘むしぐさと灯すしぐさは同じ 憶えていてねと背骨をなぞる黎明の火に喩えられやすい素肌で 背中にしか会えない夢を繰り返し見ていて夏は嫌いだと言う SNSで学生時

      • 「まひる野」2022年6月号

        マチエール掲載「カラフル」 ひとつだけの冬を意味する季語として異国の祭りの名を口にする 夜更かしを誇る子供のまなじりに陸路で越える海があること 文庫から視線を上げて見回せば部屋中が待ての姿勢の仔犬 てのひらに落ち来るまでを永遠のきらめきとしてガムボール回る くしゃくしゃのブレザーを抱え少年が雨の残り香を連れてくる 赤鉛筆の赤と色鉛筆の赤、塗り分けられて白地図に朝 読点のあたりが長い朗読を聴いているコインランドリーで 虹色に光る足跡携えてなめくじが這うつつじの茂み 岡山の祭

        • エゴサーチで勝てない話

          突然だが、私は「藤原奏」という。 短歌作品を発表する際も本名であるこの名前を使用しているのだが、近年、この名前のせいでささやかな問題が発生している。 作品を発表すれば、読者からの感想や評価が気になるのが作者の性だ。 短歌は短い作品形態のため、読者がネットで作品に感想を述べる際は大抵作品1首の全文と作者名を引用した上での投稿となる。そこで、作者は自分の名前(もしくは筆名)でネットやSNSで検索をかけ、感想を見つける。いわゆるエゴサーチである。 私がエゴサーチをするとき、そこ

        古い憧れとロリィタの話

          再掲 その2

          獺祭が読めない君はそれだけで清純すぎる異世界のひと 2019年の岡山大学短歌会(以下、おかたん)の新歓歌会に出した歌。 新歓イベントだけあって、ゲストを招いたり、新入生に宣伝をしたりと、普段の歌会より多くの人を集めるものだった。 大学に入りたての18歳から、ゲストでいらした社会人の方まで。主催であるおかたんの方も院生がいたりOGがいたり、年齢層が幅広かったと記憶している。 おかたんの歌会では、最初に司会が指名した人が提出された短歌を読み上げ、評(一読した感想や「自分はこ

          再掲 その2

          再掲 その1

          絶滅後女児の名前になりたくて三億年を銀杏いろづく (初出:連作「若輩」2014年11月) noteで作品について書くにあたって、自分としては気に入っているけれど特に評価や感想が得られなかった歌たちをふと思い出し、もう一度日の目を浴びさせてやれるのではないかと思い、この文章を書いている。いわば、作品だけで語れなかった作者の言い訳である。 この歌は高校生の頃に詠んだ。生物だか地学の教科書で、イチョウが三億年前とほぼ変わらない植物であることを知ったときだ。 楓、もみじ、桜……そ

          再掲 その1

          「まひる野」2022年2月号

          二月集掲載「始発前」 手に取ればありふれているガチャガチャの動物たちを棚に並べる あなたがいない夜に余白がひとり分あってそこから海鳴りがする 知らぬ間に二冊に増えたマクベスの片方だけに貼られた付箋 私を帰すときのあなたの軽口をいつか墓標に刻んでほしい ふたりだけで三原色になるために夜の窓辺で飲むソーダ水 始発前だけが寂しい 借りたまま返し損ねた上着のように 手元にあるものの価値は気づきにくいものだ。すごく欲しいと思って通販で注文したものは何か月も開封せずに置きっぱなしのこ

          「まひる野」2022年2月号

          「まひる野」2021年11月号

          十一月集掲載「原爆忌」 法事ではないが命日 式典の要人のタイいずれも黒く ベランダの鳩は正しく駆除されて中継で見る平和式典 温度のある夢を見ている 被爆者の知る戦争の多くは銃後 語り部が孫に命じた東京ではわしの被爆のことは隠せと 黙祷のさなか薄目で見渡せばだれもが死後の顔をしていた 広島のアナウンサーが他人事のように原発事故を憐れむ 隠さないのか隠せなくなったのかケロイドのまま祖母は笑顔で 戦争を知っている人の相槌につめたい夏の踏切が鳴る 私自身は岡山出身だが、ルーツは広

          「まひる野」2021年11月号

          「まひる野」2021年10月号

          作品Ⅲ欄掲載「帰省」 どうしても会いたい人に会うために時期を外れた夏季休暇取る 真夏でも布団をかけて寝る君は四で死を想起してしまう人 隠すべき旅路のような気がしてはキャリーケースを少し浮かせる それぞれに銀河を持って少女らは一人称を「私」に変える ベランダに裸足で降りて汽笛聞く台風前のなまぬるい風 飼い犬を敬語で叱る人がいてその背の丸さ夜は紫 東京に染まったな、と茶化される君の誰よりきつい方言 烏瓜ひらき始めて帰省先から帰るとは小さな矛盾 2020年初頭から、新型コロナウ

          「まひる野」2021年10月号

          今更ながらプロフィールと、このnoteについて

          「藤原奏、いちおう歌人の卵です」 ――自分の肩書に「いちおう」、「~の卵」をつけている限りは一人前になれない。どこかでそんな話を聞いた気がする。 思い切り当てはまっている立場としては反論したいが、短歌歴10年、高校時代を除いてはろくな受賞歴もなく歌集も出していない者としては反論のしようがない。そもそも歌人という名乗りを許されていいのか迷う程度には寡作である。 しかし、10年という歳月は思春期の少女に物書きとしての自意識を芽生えさせるには十分すぎる時間である。きっと、この

          今更ながらプロフィールと、このnoteについて

          都市伝説の発生に立ち会ったかもしれない話

          都市伝説が好きで、よく読んでいる。 日常、ジョーク、怪談…さまざまなジャンルの都市伝説が存在し、それをまとめたサイトもまた多い。 そんなサイトに関わる都市伝説で、「都市伝説サイトの管理人は失踪する」というものがある。 都市伝説を扱ううちに取材で社会の暗部を知ってしまい、消されてしまうのでは……という考察がされることもある。 実際、都市伝説サイトには長らく更新されていないものも多くある。更新されないうちに利用しているホームページ作成サイトのサービスが終了し、消えてしまっ

          都市伝説の発生に立ち会ったかもしれない話