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〖短編小説〗11月16日は「録音文化の日」

この短編は798文字、約2分で読めます。

実家の押し入れを片付けていたら、懐かしいものが出てきた。

なんだこれ、カセットテープじゃないか?
それは、小学生の時に録音したであろう、カセットテープだった。この軽さと、サイズになつかしさを覚えた。

ラベルには「10年後の自分へ」と書かれている。なるほど、卒業の記念に未来への自分に向けた言葉を録音したことを思い出した。

片付け中に思い出のものが見つかり、手が止まるのは誰しも経験があるだろう。卒業アルバムや昔の思い出の品などなど、見ていると時間があっという間に過ぎていく。

聞いてみたいと思ったが、当たり前だがカセットデッキがない。今の時代にカセットデッキがある家のほうが珍しい。

諦めて、カセットテープを脇によけ、片付け作業を続けた。

その後、片付けがひと段落し、カセットテープと必要なものだけを鞄にいれ、その他のものはすべて処分した。

一人暮らしのアパートに戻ったあとも、再生できないカセットテープを手にもち、書かれているラベルやSONYの文字を様々な角度から観察した。
そのたびに何が録音されていたのか、自分はどんなことをしゃべったのかよりも、もっと重要なことを考えるようになった。

あのカセットテープには12才の俺がいる。時が止まったままの12才の俺が、まだ声変わりしていない、子どもの声の俺がいるんだ。そう思うと、なぜだかそこから解放してやりたくなった。
解放とは具体的にどういうことなのか、自分でもよくわからないが、閉じ込められている自分を解放してあげたいと思った。なんせ、10年間もカセットテープに閉じ込められているのだから。

このことを考えると、なぜだか今の22歳の俺もとても息苦しくなってくる。

解放=テープの再生なのか、いや違う気がする。解放のやり方が分かるまでは、大事にカセットテープは取っておくことにする。

1878年(明治11年)に日本初の録音・再生の実験を行った。
11月16日は「録音文化の日」

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