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産まないことは「逃げ」ですか?#読書感想

産まないことは「逃げ」ですか?
吉田潮 2017年初版

作者、吉田潮さんは編集プロダクション勤務を経てフリーライターになった方だ。
20代で結婚、自身の浮気で離婚、30代半ば付き合った男性と妊活に対して思いが合わず、一度別れるが1年後に再び付き合い再婚、39歳で不妊治療を始め一度の稽留流産、そして夫と二人で歩むことを決めた。
24歳の私からすると、この先15年の女性の人生、想像できる部分と、できない部分がある。
ただ、“世間的な”ハッピーエンドや、“メディアでもてはやされる”成功談ではない、
赤裸々で、もがきまくってる、この方のような人生が
ほんとうは世間一般なんじゃないかと思う。

はじめに、である文書が、この本のスタンスを簡潔に述べている。
『働く女の味方でもなければ、悩んでいる女性の代弁者でもない。何かこう、波乱万丈のスペシャル破天荒な人生を送ってきたわけでもないのですが、ただひとつ、
「主語は自分で生きてます」
というだけ。親でもなく、夫でもなく、世間でもなく、私は私。主語が自分だと、こんなにラクなのかと思うし、そこに気づくと3倍くらい楽しいです。3倍って微妙だけど。』

いろいろ悩んで、腹黒い自分も抱え込んだりして、どうしようもない悲しさに悶えたりして、
それでも、主語を自分で生きてきたことが、45歳の作者に、今の自分でいいんだ、と思わせている。
世間から、周囲の人から、自分から、「逃げ」なんかしてこなかった、と。

それぞれの章が、それぞれ軽快で面白いから、ラインナップを写真であげてみた。

本の中では、つらつらと時系列に、作者がその時々で考えてきたことを振り返っている。
読んでいく中で、メッセージはこの2つだと思った。

♦️私たちは、世間の“こうあるべき”に近づけない“自分に引け目”を、感じやすいけど
まず、世間のこうあるべき、は世間が主語で自分ではないこと。
そして、自分に引け目を感じる必要なんかない、ということ。
♦️他人や世間の価値・評価と、自分を比べるのではなくて、
自分の中の二面性を知って、どちらの面の割合が、今は大きいのかな、と考えてみること。
例えば、世間なんて別に!とサバサバできる自分と、本当は世間にとらわれて後悔や自責をする自分、どちらも自分だということ。

度々キーワードになる吉田潮語録を、いくつか紹介したい。
女性ならなんとなくわかる、リアルで、複雑で、扱いに困る感情を、言い当ててくれていると感じた言葉、3選。

【子どもが欲しいという病】

妊娠を考えてこなかった吉田潮さんが、30代半ばに子どもが欲しいと、急に思った理由は、付き合っているが、結婚に踏み切らない男性との物理的な証が欲しかったから、だという。

再婚してから不妊治療を始めようと思ったのは、自分の子というより、大好きな人の子どもを授かりたい、と思ったから、だという。

すべての女性はいつかは、子どもが欲しいと思ってるよね?なんてことはなく、
様々なタイミングで、いろんな理由で、そうなるし、その気持ちもなくなったりして
まるで一時の病のようだ、という表現だ。

もちろん女性として、自然に発する本能もあると思う。
でも、なんとなく抱く今の自分への不安から逃げたいから、大きなきっかけとして子どもを産み母になりたいと思うかもしれないし、
赤ちゃんという純粋無垢な存在への憧れから産みたいと思うかもしれないし、
生き物として成熟したい、母になりたい、と強く願うかもしれないし、
もしかすると、親や親戚に責められるから、そうしないと一人前じゃないから、といった世間体に合わせて妊娠したいと思うかもしれない。

【何者でもない自分への歯がゆさ】

妊娠したい、子どもが欲しい、と思いながら、なかなかできない時、
周囲で妊娠出産の話題が多くなってくる時に、私の結婚どうしよう?
子ども産むのかな、どうしよう?と
ジワリと抱く思いを、【何者でもない自分への歯がゆさ】と表現している。

だからこそ、妊活という言い方をする。

妊活=目的に対して前向きに活動する自分、カテゴライズされたい自分、だと。

【胸に(子宮のあたりに)チクっと押される、小さなハンコ】

39歳で不妊治療を始めた作者。
クリニックに通い、3時間待ち、採血し、ホルモン値などで自分の女としての体の成績表が如実に出るツラさ。
排卵誘発剤使用で、体調も気分も、ホルモンに振り回される体。
体外受精で妊娠陽性に喜びもつかのま、稽留流産で、失う。
流産がわかったとき、クリニックでむせび泣いたという。
何が悲しいのか、寂しいのか。悔しいのか、辛いのか。
人様にできている妊娠出産が、自分にはできない、と拭えない不全感を抱く。
本当に子どもがほしいのかな?もう一度自分は、夫と頑張れるのかな?今度もダメだったらどうしよう?でもまだ自然妊娠の可能性もあるかもしれない...様々な思いが交錯するなかで、よし、次も!と切り替える気持ちの高まりも、余裕ももてず、フェードアウトしたという。
家族づれをみたり、知人の妊娠の報告を聞くたび、【胸に(子宮のあたりに)チクっと押される、自分にはできなかったね、と烙印する小さなハンコ】が押されていく。
その頻度や強さは、年齢とともに短く弱くはなっていくけれど、将来ずっとあるんだろうな、と作者はいう。

以下の文章は、そのまま引用してしまうけど、
あー、こういうこと、スパッと、自分の考えを伝えるために、どんな場面でも言えたらいいのに、さすがライターさんだ、と思う内容だ。

『「女は子供を産むのが当たり前」という考え方がひろくあまねく蔓延っている。
2017年5月6日付けの『東京新聞』で「生涯未婚率は必要?」という記事があった。生涯未婚率とは、50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示す数字だ。この数字は時代遅れで、不要ではないかという義論である。
記事によれば、「(生涯未婚率は)出生数にかかわる指標のひとつで、厚労省は女性の『出産可能年齢』を15〜49歳としているため、一人の女性が出産に寄与したらどうかを知るうえで、50歳時点での未婚率を取っている、と説明する。つまり結婚よりも出産に重きを置いた調査なのだ」とある。50歳で生涯と決めつけるのもおかしな話だし、「出産に寄与したかどうか」という文言もショックだ。寄与って。産めよ増やせよの時代かよ、と。』

結婚よりも、出産に重きを置いた調査。
私たちは、国のために妊娠して、子どもを産むわけじゃないのにね。

『妊娠も出産も子育ても、罪悪感も義務も責任も、女は一生背負わされ続けるのかと思うと、キツイよね。背負わされた荷物、ひとつでも下ろしたいよね。
私はもう下ろした。頑張って背負ってみようと思ったけど、荷が重すぎて、歩けなかった。なので、早々に下ろしてしまったよ。積極的に不妊治療を受けたのも、たぶん「産めないという科学的根拠」が欲しかったんだと思う。』

罪悪感も、義務も、責任も。
その思いは自分がダメだから...と自分に向きやすい。この思いが、どちらかというと女の人に偏ってる日本って、やっぱりなんだか変だと思う。

『子供を産まない人への批判は、ふたつに分けられる気がする。ひとつは純粋に日本国を憂う人々(厄介な人もたくさんいるけれど)、あるいは生き物の責務として「産める性にはぜひお願いしたい」という人々だ。
で、もうひとつは、「子どももつくらずに自由に生きている女が許せない」人々ではないか。子育ての苦労もせず、好きな時間に好きなことをやって、自由奔放に遊びまわって、という女がむかつくのだろう。もしかしたら、子育てを経験した人たちで、
「私がこんだけ苦労したのに、あんたは楽しく生きやがって。苦労を知れ!」という恨み節なのかもしれない。自分の苦労が報われないのが悔しいのか、他人の人生にまで口を出す。私も不妊治療後に、その傾向があったのだから避難できないけれど。
あるいは、女が自由を謳歌しているのが許せない男たちという説もある。俺たちはこんなに苦労して、頑張って、国のために会社のために家族のために尽くしているのに、女子会だのなんだのと遊びまくりやがって、という逆恨みである。
余計なお世話だよねぇ。こっちだって働いて税金払って、結婚しろだの孫の顔が見たいだの寂しくないのだのと、常にプレッシャーかけられて、精神的に追い詰められてるんだよ、いちいち人の人生に口をはさんでくんじゃねーよ、と言いたい女はたくさんいる。』

これは、本当にそう思う!頷くしかない。
産まない女性への、タテマエとホンネ、というところだろうか。
それぞれの人が自分の立場を窮屈に思えば思うほど、ほかの立場の人には寛容になれない。

『まずは産んだ人と産むんでいない人を比べるのをやめることだね。産もうが産むまいが、人生の選択肢を自分で決めてきたかどうか。自分を卑下したり、人のせいにしたり、他罰に走ったりしないで、今を楽しめているかどうか。そこが重要なのだと思う。
だから、「産まない人生をお勧めします!あなたも産むな!」ではないことをわかってほしい。「私は産まない人生を選んでよかったよ」と言いたいだけ。これは私の人生であって、他人の人生はどうなろうと私には関係ない。でも、自分が決めたことはわりと後悔しないけれど、他人が決めると後悔することが多いから、気をつけて!
ともあれ、子供を持てなかった人が自分を欠陥品のように思わないこと。
子供を産んだ人が、「子供を産んでいなければ今頃...」と後悔しないこと。』
きっと、ここが作者の行き着いた大切な考え方の核だと思う。

24歳でこの本を読んだ私。
5年後、10年後、15年後に読むと、違う感想になるかもしれない。
でも、今この本を読めて良かったと思う。
本は出会いで、
自分の思いや言葉を、少しだけわかりやすく、整理してくれる。
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