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金子功とガーリーとオリーブ少女と80年代と。

DCブランド全盛期、ラフォーレ原宿がセールになれば、とんでもない大混雑と大行列でごった返し、足を棒にしながら洋服を求めて歩き回った80年代。あの熱狂はなんだったんだろう・・。新しいもの、ワクワクするもの、見たことのないオシャレな世界はぜんぶオリーブとかananの中にあって、リセエンヌの金色の猫っ毛とは真逆の自分の直毛に苛立ちつつ、ソバージュでごまかしていた高校生の頃、(すみません学校はパーマ禁止でした)今考えると世界はガーリーだった。

1970年代のananに見る、金子功さんのクリエイション

覚えられないぐらいたくさんのDCブランドがある中で、金子功さんがデザインするピンクハウスは、ある意味常軌を逸していた。フリルの量、花柄の量、暖色の量、インパクト強めの洋服に合わせるヘアスタイルはロングのソバージュ。全身がとてもボリューミーなスタイリングである。ちょっと全身は無理だな・・でも、おかしいな、ギャルソンとかニコルとかヨウジが大好きなはずなのに、どうしてあのフリルに心惹かれてしまうのか・・?で、手に取ると繊細な触り心地にキュンとしちゃう、、で、驚愕の価格!!もちろん、今のファストファッションとはアパレル全体の価格帯が比較にならない時代だったけど、BIGIとかコムサとかあらゆるブランドの中でも、ピンクハウスやインゲボルグは高額なブランドだった。なので、リアルタイムで着こなす機会はほとんどないまま大人になった自分が、改めて金子功という天才のクリエイションに釘付けになったのは、奥様である金子ユリさんのビジュアルがきっかけだった。

1970年代のananより モロッコで撮影されたビジュアル
こちらも1970年代のanan
70年代のananでは立川ユリさん、マリさん姉妹がモデルとして活躍されていた

それはふいに見かけた1970年代のananのファッションページ。なんとピンクハウス立ち上げ前、金子功さんはユリさんをモデルに、ファッションビジュアルをディレクションし、衣装を担当していたのだ。つまりクリエイティブ・ディレクターみたいな事をなさっていたのかな?と思う。本当に70年代??と目を疑うほど、美しく洗練されたビジュアル。こういう世界をつくりたかったのか、金子功というデザイナーは・・と、なにか真意というかDNAみたいなものに触れた気がした。世間でイメージが強い、いわゆるフリフリのブランドを作った人、という固定概念を超えて、その起源にはフォークロアやユニフォームやミリタリーなど、面白い要素が複数詰まっていて、なんて奥が深い豊かな才能の持ち主なんだろう。

ミューズであるユリさんという稀有な存在

生活感のかけらも感じさせない、国籍不明のような佇まいの金子ユリさん。(当時は立川ユリさん)その後80年代に入っても、ミューズとして様々な広告や記事でモデルとして金子功さんの服を着こなしている。大人の女なのに、少女のようでもあり、色っぽくて品が良くて、半径20メートルにドラマを作り出してしまうような、存在感。こんなふうに白い襟に水玉のワンピースや、花柄のドレスを着こなせたら、最高にかっこいい。彼女の写真を見ていると、真っ赤な口紅で笑う、屈託の無い表情にガーリーを感じることができる。花柄のワンピースを着て、無邪気で、無造作で、ときに奔放な、そんな人間としての隙間に、色気というのは宿るのかもしれない。

金子功のワンピース絵本より

80年代ファッションの向こうに見えてくる5~60年代カルチャー

金子功さんの活躍の影響もあったのか、80年代は花柄のワンピースを出しているブランドが他にもたくさんあって、スタジャンにプリントのフレアスカートを合わせたりするのが流行っていた。

1985年の雑誌オリーブ

でも実は、これは1950〜60年代のファッションが80年代にリバイバルブームを起こしていた、と記憶している。ウエストがきゅっとマークされて、スカートにはペチコートも入ってて、ヘアスタイルはポニーテール。ロカビリーなんかが流行った時代のカルチャーが80年代に注目されていたのだ。その証拠に原宿にはローラー族という、歩行者天国でツイストを踊る人々がいたり、今もあるがピンクドラゴンというお店がカリスマ的人気を誇っていた。1950~60年代のアメリカは、洋服だけでなくインテリアや車もパステルカラーやキャンディカラーが人気で、当時の写真を見るとおもちゃみたいな世界に見える。ミッドセンチュリーモダンという言葉もあるが、形も色も特徴的なスタイルが発生したようだ。世界が第二次世界大戦から復興し、高度成長期に突入した時代だから、戦争の傷を忘れるように、新たに明るく楽しい幸せな生活を渇望していたのかもしれない。

1954年のアメリカの広告
1950年代のアメリカの風景


1950~60年代 LIFE誌の写真
おそらく1960年代頃のGEの冷蔵庫の広告


そんなポップなスタイルがリバイバルしていた80年代、私も5〜60年代のオールディーズと呼ばれる音楽を聴いたり、アメリカの古着を扱っているヴィンテージショップなどに通っていた。写真は自分が持っているアメリカのヴィンテージドレス。これは10年前ぐらにブルックリンで、日本人オーナーさんが営むヴィンテージショップで購入したものだが、形も色も、内側にペチコートが入っているスカートも、骨董品のようでため息が出てしまう。とても細身のサイズで、実はこの8号トルソーが入らないから、背中のファスナーが閉まりきっていないのだけど、この年代のアメリカの古着は、都市部の物はサイズが細いけど、郊外に行くと大きなサイズばかり、というオーナーさんのお話も覚えている。体型をスリムに保つことに意識が高かったのは、都会のセレブたちだったのかもしれない。


スカートをふくらませるためにペチコートが縫われている
当時のマンハッタン5番街はどんな風景だったのだろう?と想像を掻き立てるタグ



もう一枚は、実際に80年代に原宿にあったFAKEという、5~60年代のアメリカの古着を扱っていたお店で、高校生の頃に買ったワンピース。プリントがまるで手書きみたいで、さすがにもう着れないけど当時から大切にしている一着。タグが無くて、既製品なのかも不明な、裏地もついていないつくり。正確な年代もわからないのだけれど、記事や柄の質感、そしてこのTALONジップ!が、ただものではないアイテムだということを耳元で囁かれているような気がする一着なのだ。

現代から見ると、80年代スタイル自体がリバイバルブームだが、その向こう側にさらに50年代のスタイルがつながっていると考えると、トレンドとはまるでマトリョーシカかタイムトンネルのように、永久につながっているように思える。

古今東西のガーリーから考える、その本質

ガーリーについてもう少し掘り下げておかないと気がすまない。(笑)
ガーリーというカルチャー?テンション?スタイル?は、古今東西に存在する。前述の5~60年代を舞台に、海外でガーリーカルチャーを席巻した作品といえば、ロリータである。

1961年にキューブリックが監督した映画ロリータのポスター
1997年エイドリアン・ライン監督の映画ロリータのヒロイン ドミニク・スウェイン

ウラジミール・ナボコフという小説家のロリータという作品を読んだことが無い人でも、ロリコンの語源となったロリータという言葉は知っているだろう。過去2回も映画になっているし、ビジュアルも有名なのでなんとなくイメージできる人も少なくないはずだ。この小説自体は問題作で、なかなかこじらせてしまったオジサマと、少女と女性の中間の年代の白人の女の子ロリータのお話。まあ、今の世の中のものさしで捉えると、色々問題が多すぎる話だが、笑。私はエイドリアン・ライン監督が大好きなので、97年の映画ロリータに焦点を当てて書くが、とにかくこの主人公の女の子の行動、生態、映画でのファッション、全てがガーリーである。

ここで思うのは、ガーリーというのは、無邪気であり、残酷であり、エゴイスティックであるということ。年齢のせいもあるのかもしれないが、この主人公のロリータは、無意識にこのオジサマを誘惑している。三編みにリボン、ショートパンツやミニスカート姿でオジサマに抱きつき、大きなロリポップキャンティーを舐めたり、平気で歯列矯正のブリッジを人前で口から出したり、パジャマで出てきたり、それらがガーリー、ロリータ・ファッションの要素にもなっているところが面白い。だけど正直、本気でオジサマなんか好きでもなんでも無い。というか、自分以外の人間を愛するという感情自体、まだ知らないのだ。好きとか言ってても、そういう意味の好きじゃないし、彼女の興味は明後日の方向にあって、オジサマはそんな奔放なロリータに振り回される事自体が快楽になっている。ヤバい話です。(笑) つまりつまり、男性はそこにいるようでどうでもいい。正確に言うと、ドキドキを与えてくれればそれで良し、その目的以外には眼中無し。この状態がガーリーの完成された状態なんじゃないだろうか。男性置き去りの状態=ガーリー と行っても過言ではないかもしれない。

このロリータの系譜を引き継ぐのが、ソフィア・コッポラだと勝手に思っている。ヴァージン・スーサイズなんて、完全に男性置き去りだ。というか、ボーイフレンドだけでなく、あらゆる物を置き去りにして彼女たちは旅立ってしまうのだから。

ソフィア・コッポラ監督 ヴァージン・スーサイズのポスター


さらに、ガーリーなファッションを表現した様々な時代、様々な国のファッションページに、必ずと言っていいほど存在するのが、女性のツーショット写真。女の子二人組というテンプレは、男性置き去りの構図だし、女の子二人だけに通じる秘密、ひそひそ話、おそろいの服、なにか男の子には近寄れない聖域のようなものを作り出す構図なんだと思う。これぞ、ガーリー。

1970年代 アメリカSeventeen誌のファッションページ
金子功のワンピース絵本より
おそらく1960年代の日本の写真


まとめると、ときにだらしないくらい無造作な隙があって、無邪気で残酷でわがままで、ふくれっつらで気まぐれで、女の子だけの世界で排他的に生きている状態がガーリーであり、逆に言えば、行儀正しく周囲に気遣いができて、オープンマインドでいつも安定していて裏表なく、どんな人とでも公平につきあえる状態、っていう、大人の良い人っていうのはガーリーと程遠いといえる。まあ、Girlだから当たり前だけど、、人間が成長して成熟するって、そんな惹きつけられる魅力を洗い流していってしまうことなのかもしれない。それでも、自分以外の存在を心から愛する豊かさや喪失感を知っていった後にも、金子ユリさんのように、ときに覗かせるガーリーな隙間は、ワンピースのポケットに大切に取っておきたい、そんな気もするのだ。

【出典】
・1970年代 雑誌 anan マガジンハウス
・金子功のワンピース絵本
・1985年 雑誌 オリーブ マガジンハウス
・その他1950~60年代の写真
・映画 ロリータ/スタンリー・キューブリック監督作品
・映画 ロリータ/エイドリアン・ライン監督作品
・映画 ヴァージン・スーサイズ/ソフィア・コッポラ監督作品

下記のマガジンでは、ピンクハウスやインゲボルグをテーマにコーディネートしたコレクションをご覧いただけます。

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株式会社アンティー・デザイン
⑤Vintage Laboratory 水野可奈子
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