ラッパー・鬼の音楽が好きな「ホモ」が彼の同性愛ヘイト発言を見て思ったこと

まず、前提として私はHIPHOPが好きなゲイでございます。

これまでにも鬼の曲を聴いてきた。とは言っても現行の日本語ラップを新たに聞き始めたのが30過ぎてからだから、鬼を聴いてるのもここ5年くらいかな。近年の作品が中心で、昔の作品は後追いになるけど、詩的でメロディアスな鬼の曲は、時には心を激しく揺さぶり、時には心によく沁みた。中でもスイモクはよく聴いたし、他にFunky DLとの共作は後追いでも感動した。懊悩も小名浜もやっぱり好き。なんて言い出したらきりがない。ブルージーでリリシストでとても好きだった。

ゲイから性犯罪の被害にあったことは本当に気の毒だけど、この一連の発言で鬼の見方が変わった。元々香ばしさは感じてたけどね。精神病質などから感じられるある種のモロさも鬼の魅力だったし。

ただ、今回思ったのは「好きなアーティストに嫌われる立場でいるのは苦しい」っていうこと。いやあ、最初はやっぱショックだったな。いっその事、これで鬼の曲を全て嫌いになれたらと思うんだけど、これまで鬼の曲を聴いてきた空間や思い出も否定してしまうことになりそうで中々思いきれない。何よりスイモクの美しい旋律を忘れることができない。アイザックヘイズ大好きなのよ。

鬼からしたら私のようなものに好きになってと頼んだつもりはないのだろうけど、望まざる客が来てしまうのも表現者でいる以上、リスクがあるってことで。

話はずれるが、HIPHOPとゲイフォビアという問題は昔からあった。レゲエでもよくチチマンを燃やせというリリックが出てくる。私もそういった曲とどうやって向き合えばいいかわからなかった。表面では強がってみても自分の存在を否定する歌詞は未だにどう対峙していいかわからない。ドライブバイの頃は高校生だったけど、ただ悲しかった。カマとかホモとか侮蔑を含んだ呼び方で幼い頃から呼ばれてきたから。いい歳になった今、いちいち傷つくのもばからしいので大抵は無視してる。

でももう2020年になってしまったのよ。色々あったね。エイコンが同性愛讃歌をヒットさせて、マックルモアが同性愛讃歌でグラミーを取った。フランクオーシャンはゲイであることをカミングアウトし、ラッパーのリルナズXも一位を獲得してカミングアウトした。ビーニマンもブジュバントンももう同性愛について否定をしない。

だからなんだ、俺はホモが嫌いだ、と言われればそれまでなんだけどね。

でも日本だって変わったよ。何を持ってシーンと呼ぶか、ヒップホップ村と呼ぶかは知らんけども、西新宿パンティーズという変わり種も出てきた。そしてHIPHOPと密接な活動をとってきた宇多田ヒカルが「ともだち」という、同性愛者の淡い片思いを描いた歌を歌った。

私もゲイだということを隠さずにクラブに行って遊んでるけど、皆さんとても紳士的に対応してくれる。今思い返すだけでもラッパーだったり、DJだったりトラックメーカーだったり、オーガナイザー、そしてお客さんなど沢山の仲良い人たちの顔が浮かんでくる。鬼の呟きで傷ついてる暇はない。私は彼らとまたバカみたいに酒を飲んで遊ばなければならないのだ。本当に良い時代になりました。

案の定、鬼には過激なバッシングが集中してしまった。そして鬼なりに考えて揺れてる様子が伺えた。それでいいと思う。答えは導かせてなくとも。個人の信条なんて結局他者に理解してもらえるもんでもないし。ま、それを表に出してしまうとそういうことになるけどさ。

鬼の発言が悲しくないこともなかったけど、それ以上に声を上げて反対する人たちがいて、そっちの方が嬉しかった。ってのが正直な気持ちです。MC松島みたいに差別は良くない、と声を上げるラッパーもいる。当事者よりも盛り上がっていたと思う。

当事者なんて気楽なもので、私の周りのゲイなんてあんまり気にしてない人が多い気がする。あまりにも鬼がアングラな存在なので辿り着けてない感じ。「気になってtwitterで鬼って検索したけど鬼滅の刃しか出てこない」って呟きには笑わせてもらった。誰かがどこかでなんか言ってるのねくらいの認識だと思う。

「クソホモが」。たった五文字の言葉に込められた悪意を何度も何度も反芻する。繰り返してるうちにだんだん面白くなってきてしまう。クソホモだって。あはは。小学生かよ。クソノンケ!とあたしが返した所で何も生み出さないのはわかっているの。

私は私で揺れているよ。今後、鬼の音楽とどう向き合っていけばいいのか。でもそこにはもう怒りの感情はない。あらそうなんですね、とても残念だわ。でも仕方ないよね。個人の自由ですから。って感じ。「鬼がホモのことを嫌いでもあたしは鬼の音楽が好き」なんて開き直れる図太さも残念ながら持ち合わせていない。二丁目から眺める月も歌舞伎町から眺める月も同じだと思いたいけどね。やっぱりスイモク好きだなぁ。

鬼の音楽に浸ったという過去の事実だけがある。そしてこれからも私は鬼の曲を聴く度に揺れていくことでしょう。でもいいの。人生は長い。これからもたくさん色々なことを考えながら揺れていけばいい。本当にいやになったら聴かない。それだけのこと。そんなことを今回思ったんでした。


※思いのほか反応があったので改題しました。

※宇多田ヒカルのエピソード、追加しました。大好き。

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