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「鬼滅の刃」大ブームを図解してみた ~興行収入記録達成記念・大ヒット分析完全版~

鬼滅 修正案内

どうもこんにちは。
アニメ・マンガで人生を学んできた社会人KanadeL(かなでぇる)です。
「カナデブログ/奏でるマンガの名言」(kanadeblog.com)という、マンガの考察ブログでも記事を書いています。
趣味を仕事に昇華させ、アニメの製作委員会等のお仕事にも関わったこともある、エンタメ業界人の端くれです。製作委員会のお仕事に関わったときは、企画や構成、脚本の本読み、アフレコ立ち合い、作品の宣伝・プロモーション等を近くで見ていました。アニメに関しては単なる「ファン」以上の知見があると思っています。

今回は僕の経験も踏まえて、「鬼滅の刃」の大ブームを「独自の図解」で分析・考察していこうと思います。趣旨は、

「1枚の図解で『鬼滅』大ブームまでの仕掛けと環境の変化を可視化する」

様々な情報を整理して、1枚で「鬼滅」が大ブームになった経緯を説明できるような、独自考察の図解をつくってみました。正に「鬼滅ヒット考察の完全版」といえる内容だと思います。


「鬼滅の刃」大ブームを図解してみた ~興行収入記録達成記念・大ヒット分析完全版~

「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」がついに「千と千尋の神隠し」を抜いて日本の映画興行収入第1位になりました。更に特筆すべきはその速さです。300億達成までかかった日数を比較すると、「千と千尋」が250日くらいかかっていたのに対して、「鬼滅」はわずか60日ほど。「鬼滅」の盛り上がり具合が判ろうというものです。

この記事では「何故、鬼滅はここまでのブームになったのか?」ということをマーケティング的な視点から改めて考察します。

既に様々なサイトや記事でもこの手の分析は行われていますが、それらはその時々のタイミングでなされた分析で、今の日本歴代興行収入1位を塗り替えるという結果を語るには不足していると思いました。

また、「鬼滅」の大ブームは一つ二つの要因で起こったものではなく、製作者側の狙いや仕掛け、周辺業界の考え、社会的な環境 等の複数の要因がうまく繋がった結果と言えると思っています。過去に挙げられた記事は「アニメとしての作品的な魅力」「コロナの社会環境による影響」等、それぞれの記事が限られた範疇の中での分析をしている内容が多いように感じました。

本記事では「『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の日本歴代興行収入1位獲得」を大ブームのゴールとして、どんな仕掛けがあったのか、何が起こっていたのか、を包括的かつ体系的に取り上げて分析していきます。

多分、興味のある人は本記事を読んでも「既に他の記事を読んで分かっていたけどね」ということも多いと思います。しかし、その考えを包括的かつ体系的に「記録」している記事はありません。この「鬼滅」大ブームの足跡を総合的に書き出して体系的に並べてみることで、今回の大ブームの構造がより鮮明になるのではないかと思っています。今回記す「記録」は、アニメコンテンツのマーケティングの成功事例として、マーケティングや宣伝プロモーション担当の人にも大いに参考になるものと思っています。


「鬼滅の刃」大ブームを図解してみた【ここに図解あります】

最初から本記事の切り札を切ります。今回、作成した図解は2つです。
今回の図解の趣旨は

「1枚の図解で鬼滅の大ブームまでの仕掛けと環境の変化を可視化する」

です。一般的な「図解」のようなテンプレートで説明する、というものとはちょっとイメージが違うかもしれません。

図解①は「鬼滅の刃」時系列ヒット分析です。今回、最も皆さんに見てもらいたい図解です。是非、クリックして拡大して見てみて下さい。

「鬼滅」がジャンプで発表され、大ブームになるまでの出来事やその影響、その間の「鬼滅」が置かれた社会的な環境 等の情報を時系列&種類別に整理したものです。今回、種類別は「原作マンガ」「アニメ」「映画」「その他(コラボなど)」としました。「鬼滅」に影響を与えたと思われる社会的環境の要因は、それぞれのタイミングでコメントを入れている形です。
※今回はこの図解が一番見てもらいたい資料なので、より見やすいpng版をダウンロードできるようにしましたので、ご利用下さい。

図1B 鬼滅ヒット分析時系列

(図1:「鬼滅の刃」時系列ヒット分析)
※有料Ver.でコメント追記の「完全版」のpng版をDLできます。


「鬼滅」が仕掛けた施策や起きた出来事や話題等を種類別で時系列に並べるだけでも、「鬼滅」がどういうステップを経て大ブームになっていったのかが体系的につかみやすくなったのではないかと思います。

図解②は「鬼滅の刃」検索数からのヒット分析です。
アニメの人気の度合いというものは、ネットの検索数に現れるものと思います。今回は「鬼滅」というキーワードの検索数の推移に「鬼滅」の出来事を重ねることで、大ブームになっていった過程を分析します

図2 鬼滅ヒット分析検索

(図2:「鬼滅の刃」検索数ヒット分析)
 ※有料Ver.でコメント追記の「完全版」のpng版をDLできます。

ざっと見た感じでも、いくつかのポイントで段階的に堅実に人気を獲得してきたことが判ります。また、2020年2月から5月のコロナの「巣籠り特需」でも特筆的に注目を集めていたことが判ります。

この2つの図解を基に以降の分析は行っていきます。2つの図解を時々参照しながら、読んで頂くとより理解してもらえるのではないかと思っています。


鬼滅第1章

第1章:「鬼滅の刃」大ブームを時系列で分析・考察

〇「鬼滅の刃」大ブームの5段階

僕が考えるに「鬼滅」が社会的な大ブームになるまで、大きく分けて5つの段階があったのではないかと思います。5段階は次の通りです。

鬼滅 ブーム5段階

それぞれの時期を考察していこうと思います。

鬼滅 第1段階

〇第1段階【2016.02~2019.03】地力醸成期

原作マンガの連載開始からアニメが始まるまでの期間。粛々と展開され、ヒットに備えて良質な原作を蓄積している期間。

●「鬼滅の刃」マンガ連載開始
「鬼滅の刃」は2016年2月から週刊少年ジャンプで連載を開始。しかし、絵のテイストや画力そのものの課題もあり、万民ウケするマンガではなかった。それでもジャンプ特有の「友情・努力・勝利」に「家族愛」を追加した感情移入し易いストーリーや、過去のジャンプで人気だったマンガの良いとこ取り(「柱」や「十二鬼月」の設定など)の内容は一定数のファンを作り、その一定の評価の元、打ち切りも何とか回避して、良質な原作マンガが描かれ続けた。

●「鬼滅の刃」アニメ開始前の市場環境
また、この時期は、2011年「まどかマギカ」辺りに端を発する、熱狂的なアニメファン創出による大人向けアニメブームや、「妖怪ウォッチ」や「君の名は。」等の一般的なユーザー(一般層)を巻き込んでの社会的なアニメブームも一段落し、熱狂に疲れた彼らが少しお休みしているような時期だったと言える。

このような環境の中、周りに振り回されることなく、落ち着いて作者が良質な作品を生み出し続けることが出来た結果、「鬼滅」はブレイクに向けて粛々と準備を整えていたと言える。

鬼滅 第2段階

〇第2段階【2019.04~2019.08】アニメ化によるヒットへの成長期

アニメの放送・配信開始から第19話「ヒノカミ」放送までの期間。
アニメ化で話題が高まり、高品質なアニメの評価がアニメファンに浸透するまでの期間。

●「鬼滅の刃」アニメ化と制作スタジオに恵まれた幸運
2019年4月からアニメが開始。「fate」等の高品質なアニメで知られるufotableがアニメ制作を担当した。ufotableのアニメ制作で「鬼滅」にとって良かった点は2つある。

1つ目は、好みの分かれる原作マンガの絵のテイストが綺麗に整えられ、万民ウケするものになったこと。これにより、絵を理由に原作マンガを読んでいなかったが、本来ファンになり得る可能性を持った潜在的なマンガ・アニメユーザーが入門しやすくなったこと。

2つ目は、「呼吸」を使った戦いの演出が他作品と差別化されて特筆的に良かったこと。原作のイメージを再現するためにCGに頼り切らない手法で演出された「呼吸」を使った戦いの描写は、他のアニメ作品とは確実に差別化された印象を与え、制作スタッフの「本気」を感じさせ、本作の明確なアイデンティティとなったと言える。この斬新で美麗な「呼吸」の戦闘演出は「アニメ好きなら一見の価値あり」ということを伝えるのには非常に分かり易く効果的だったと思われる。

●「鬼滅の刃」アニメ界の常識を無視した放送・配信方針
そして、この時期に最も効果的だった施策は、通常では考えられないほどに多くのTV局や配信サイトでアニメが視聴できたこと。放送開始時期で21のTV局(地方局含む)で放送、15の配信サイトで配信がされていた。

つまり、先述の流れで「一見の価値あり」の情報を得たアニメユーザーが「『鬼滅』を観たい」と思ったときに、タイミングを逃さず視聴させる体制が整っていた ということになる。一度、作品を観てもらえれば、その良さが伝わるハイクオリティなアニメは、試しに視聴したアニメファンの口コミを呼び(作品の個人的な好みは置いておいて)、その口コミは新たなアニメファンに作品を視聴させる呼び水となった。アニメファンの評価というものは同じアニメファンにおいては絶対的な信頼度があるので、効果が高かったと思われる。

●アニメ・マンガユーザー界隈でじわじわ広まる「鬼滅の刃」人気
話題が広まると当然、原作マンガにも興味が出てくる。アニメファンは好きになった作品を追求することも多いので、全てを理解したいと思う人も少なくない。そういう人が大勢出てくることでジャンプでも人気が出始め、単行本が売れ始める。急激に売れ始めた単行本は需要に対しての供給が追い付かず書店で品切れとなり、その状況が更なる話題を呼び、更なる注目を集めることになる。

アニメの超クオリティによる話題と原作マンガの単行本の品切れの話題等が雪だるま式に拡大し、アニメ・マンガユーザー内で「鬼滅」のファンや「鬼滅」が気になる人が大幅に増えた時に、彼らを熱狂させる施策が発動する。

鬼滅 第3段階

〇第3段階【2019.08~2020.05】アニメとしてのヒット最盛期

第19話「ヒノカミ」の放送で大量のコアファンが生まれた時から、アニメ・マンガファンの間で大ブームとなるまでの期間。
大量の熱狂的なコアファンが誕生し、その周辺の潜在的なアニメファンに話題が浸透。ライトアニメファンが最大限に増大しアニメとして最大の盛り上がりを見せた期間。

●神回 「ヒノカミ」がアニメ・マンガユーザーを劇的にファンに変える
先述した大幅に拡大した「鬼滅」が気になるアニメ・マンガユーザーを熱狂させる施策、それは第19話「ヒノカミ」の放送である。炭治郎のTVアニメにおけるラストバトルということで、アニメ制作のufotableの粋を結集したバトル演出は「神回」と呼ぶにふさわしく、大幅に拡大していた「鬼滅」が気になるアニメ・マンガユーザーを虜にした。これまで「嫌いじゃないけど好きでもない」といった感じだった彼らの大半を完全に「ファン」に変えたと言える。

アニメ開始から4ヶ月かけてライトファン層(「鬼滅」が気にはなっているアニメファン)を大幅に増やし、「ヒノカミ」の神演出でそれらのライトファン層の大半を熱狂的なコアファン(作品の全てを肯定するインフルエンサー)に変える。正に理想的なシナリオを持って「鬼滅」は大量のコアファンが支持する強固な人気のアニメ作品になったと言える。

この理想的なシナリオが実現したのは、それまでのアニメブームが一段落し、休養していたアニメファンが、体力を回復し、次の熱狂できる作品を探し始めた環境であったことがプラスに働いたためと思われる。そんな環境下において、「ヒノカミ」の神演出は、コアファンの口コミや評価を更に広め、更に多くの潜在的なアニメファンの獲得に繋がったものと思われる。

●様々な話題が潜在的なアニメファンを掘り起こしファン拡大
更に熱狂的なファンが大幅に増えた段階でアニメが終了したことで、原作マンガや単行本への注目や需要は更に高まり、単行本の品薄状況は更に加速し、枯渇感・飢餓感を与えるまでに至り、話題を更に呼ぶことになる。

更にアニメ主題歌の「紅蓮華(ぐれんげ)」のヒットでLiSAが紅白歌合戦に出場し、同曲を歌唱披露したことで、「鬼滅」の盛り上がり具合が更に説得力を持って世間にアピールされることになる。

これらのアニメやマンガに関する話題やニュースは、それでもまだ「鬼滅」に反応していなかった潜在的なアニメファンを掘り起こしていった。

●ファンの2重構造が生まれ、アニメとしてのヒット最盛期へ

鬼滅 大ヒットファン構造

結果として大量の「強固なコアファン」と、ほぼ全て掘り起こされた「潜在的なアニメファン(ライトアニメファン)」というファンの2重構造を生み、「鬼滅」はアニメ・マンガユーザーの世界においての最大の盛り上がりを見せたと言える。

鬼滅 第4段階

〇第4段階【2020.06~2020.09】社会的ブームへの成長期

キャンペーンやコラボ等で露出機会が増え始めた頃から「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」公開までの期間。
キャンペーンやコラボ等の露出機会が増え、社会的なブーム感が生まれ、更にコロナの外出規制が強まり一般層(普段アニメに興味を持たない層、一般的なミーハー層)も興味を持つようになった期間。

●一般層にも「流行」として認知され始めた「鬼滅の刃」
「鬼滅」は既に大ブームのアニメコンテンツと言えたが、あくまでも「アニメやマンガが好きな人」の間での話、という程度だったと思われる。(その証拠に2020年「ユーキャン流行語大賞」TOP10に「鬼滅の刃」は選ばれるが、2019年にはエントリーさえされていない。2019年は「ネット流行語大賞」の「pixiv賞」に選ばれており、アニメファン界隈での盛り上がり具合はうかがい知れる)

そんな中、コミックスの品切れ続出のニュースや「紅蓮華(ぐれんげ)」のLiSAの紅白歌合戦出場という分かり易い話題性は潜在的なアニメファンのみならず、普段はアニメに興味を示さない一般層にも「鬼滅」の存在を認知させるキッカケになったと思われる。更に2020年4月から、お菓子や缶飲料等でコラボ商品の発売が始まり、コンビニのキャンペーン等でも「鬼滅」テーマが多く展開され、より多くの一般層の目に入るようになった。一般層は自然と目や耳に入ってくる「鬼滅」を「流行っているもの」として認識し、既にちらほら一般的な話題にもなっていた事実との相乗効果もあり、興味を持つようになり始めた。

●コロナによる外出規制を味方にした「鬼滅の刃」のアニメ配信方針
そんな環境の中で、コロナウィルスの流行により外出を控える風潮が広まった。まだ、発生したばかりで詳しい性質が判らず、有名人の死等で強烈なインパクトを与えたコロナは、世間の外出意欲を削ぐには威力抜群だった。

急に増えた「家で過ごす時間」。そこで需要が増したのが、動画視聴であり、マンガを読むことだった。その環境において、一般層は先述した流れで、なんとなく興味を持ち始めていた「鬼滅」を観たり、読んだりしてみる気になる。そして単行本の品切れによる入手のし難さを現実に体験し、ブームを更に実感する。

ここで再び効果を発揮したのがアニメ配信の環境だった。この時期、アニメのTV放送は終了していたが、多くの有名動画配信サイトでは「鬼滅」アニメの配信が継続していた。一般層も「鬼滅」アニメが配信されているどれかのサイトには登録していたと思われ、先述した第2段階と同じく、ここでも一般層が「観たい」と思った時にタイミングを逃すことなく多くの視聴者を獲得できた。そして「鬼滅」が持つ元々の作品力で一般層をもファンに変えていったのだ。(「ファン」というのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも口コミで「すごいアニメだ」「一度、観てみるべきだ」という良い意味での宣伝をしてくれるくらいの好意度は持たせられていたと思われる) 

●ファンの3重構造が「鬼滅の刃」社会的ブームへの土台を築く
一般層はコアファンのような熱狂はしないが、その代わり人数は多い。人は「流行に乗り遅れたくない」と思う心理があり、その心理が「鬼滅」の世間的なブーム感の下で、一般層に「鬼滅」への興味を持たせるに至った。

鬼滅 大ブームファン構造

「熱狂的なコアファン」の定着と、ほぼ全て掘り起こされた「潜在的なアニメファン(ライトアニメファン)」、先述の第3段階ではここまでだったが、更に規模的にはコアファン、アニメファンを大きく上回る「一般層」の支持。「鬼滅」はこのファンの3重構造を生み出したことで社会的ブームに成長していったと言える。

鬼滅 第5段階

〇第5段階【2020.10~2020.12】社会的ブームとしての最盛期

「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」公開から日本興行収入第1位獲得&記録更新までの期間。
一般層まで巻き込んで社会的ブームが巻き起こる中で、劇場版が公開。コロナの規制緩和もあり、鬱憤を晴らすかのように異常な盛り上がりが超スピードで加速した期間。

●映画業界の危機的状況が決断させた「鬼滅」映画の最大キャパシティ態勢
2020年、映画業界はコロナによって大打撃を受けていた。休業要請や座席数制限、そもそも映画制作自体が予定通り進まない状況で上映する映画の本数も減っている等、様々なマイナスが重なり、昨年対比50%とも言われる状況だった。そんな中、社会的ブーム真っ只中の「鬼滅」の映画の公開。映画業界というか、映画を上映する劇場にとっては正に千載一遇、闇の中の光とも言える状況で、もはや「鬼滅」の映画に賭けざるを得ない 状況だったと思われる。

その業界の覚悟は数字にハッキリ表れている。映画.comによると公開館数365館(400館以上というネット情報もある)、複数スクリーンを持つ劇場はいくつものスクリーンを「鬼滅」映画に配分し、異例の多回転上映、多い所では1日42回の上映をする劇場もあったという。公開館数360超と言うのは、アニメ映画の場合は過去に実績のあるタイトルが到達できる数だし、1日の上映回数は話題作だとしても多くて10回程度ではないかと思われる。如何に劇場がこの映画に期待をしたか、せざるを得なかったかが判ろうと言うものだろう。

更に、この時期にコロナの規制緩和が始まり、劇場の席数制限も緩和された。席数制限を設けるか否かの最終判断は各劇場に委ねられたようだが、多くの劇場が席数制限も解除し、最大の受け入れ態勢を持って「鬼滅」映画の公開に備えたと思われる。

劇場が最大のキャパシティを持って万全の上映態勢を敷く中、フジテレビ全国区の土曜プレミアムでの特別総集編の放送や、同じくフジテレビで関東ローカルではあるがTV版の再放送等が映画の封切前に展開され、一般層の興味と認知が更に高まり、「鬼滅」映画公開への注目と期待は更に高まった。

●劇場の最大キャパシティ態勢が生んだ「鬼滅」映画の大記録
2020年10月16日。公開された「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」は、「観たい」と思ったたくさんのユーザーを万全の受け入れ態勢で受け止め、わずかでも取りこぼすことなく興行収入に変えていった。

映画公開から3日間の興行収入は46億。通常、映画の興行収入は30億を超えればかなりのヒットと言える。46億という数字は2018年の映画で言えば10作品しか超えていない。そんな数字をわずか3日間で達成。それだけでも一般層や映画ファンが注目する大きな話題だが、その想像以上のクオリティ、「時刻表」とも言われSNSでも話題になった上映スケジュールの異常さ 等の話題性にも事欠かず、それが更なる追い風になり10日で100億突破、24日で200億突破と興行収入の最速達成記録を次々と塗り替えていく。

●劇場業界のプロフェッショナルの感覚が生んだ大ブーム
ここで強調したいのは、この映画のブームに限って言えば、劇場の判断の影響も大きかったということがある。次々と興行収入の最速記録を更新した原動力の一つとして、公開館数の多さと1日の多回転の上映スケジュールがあったのは間違いない。コロナがなく、上映できる映画の数が十分あれば、少なくともこの多回転の上映スケジュールはなかった。普通の上映スケジュールだったなら物理的な上限があり、「観たいけど席がいっぱいで観られない」というチャンスロスも生まれ、ここまでのハイペースでの記録更新はなかったと思われる。

この点に関して言うと、劇場業界のプロフェッショナルな感覚に敬意を表したい。おそらく彼らは、コロナの状況下で苦戦している映画業界において、コロナの規制緩和という回復のチャンスが来たこと、中途半端に施策を打つよりは集中させるべきであること、またこの手のアニメのブームは一過性であることが多く、熱しやすく冷めやすい性質があること、そしてもちろん本作の映画としてのクオリティ 等の全てを理解した上で「鬼滅」に勝負を賭けた上映シフトを決めたと思われる。この彼らの判断が無ければ、異常なスピード記録更新はなく、それに伴う話題の力も弱まり、今回のほどの大ブームには到達していないかもしれない。「鬼滅」映画の社会的大ブームは劇場業界の「プロフェッショナルな鼻の利き具合」が生み出したものである、と言える要素は確実にあると思われる。

●様々な話題が「雪だるま式」に拡大!「鬼滅」社会的ブーム最盛期へ
それだけでも十分な話題だが、この公開期間中に原作マンガの単行本の最終巻の発売や累計発行部数1.2億部の達成、「『ONE PIECE』よりも売れたマンガ」という情報、映画主題歌「炎(ほむら)」の超スピードでのミリオン達成、「炎(ほむら)」を歌うLiSAの年末の紅白歌合戦への出場決定、日本だけでなく海外でも人気爆発中というニュース、更には興行収入歴代1位が見えたところで、当時1位だった「千と千尋の神隠し(スタジオジブリ)」の興行収入の修正 等、様々な話題が提供されることになる。正に話題が発信されるごとに注目を集め、動員が増えた結果、興行収入が驚異的なスピードで伸び、それが次なる話題を呼ぶ。そして、2020年12月29日の発表で「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」は興行収入324.8億を記録し、「千と千尋の神隠し」を超え、遂に日本映画歴代興行収入第1位に輝いた!! 正に「雪だるま式」に話題が加速し、「鬼滅」は社会的ブームの最盛期を迎えたと言える。
(※2021.01.04時点で映画の興行収入は346.4億を記録している)

その社会的ブームが残した記録・数字は次の通りである。

鬼滅 5大記録

・経済効果:2000億
・単行本の累計発行部数:1.2億部(日本の単行本発行部数8位タイ)
・アニメ主題歌「紅蓮華」:ミリオン達成
・映画主題歌「炎」:ミリオン達成&2020年日本レコード大賞受賞(アニメ主題歌の大賞受賞は初)
・日本映画興行収入:歴代1位、346.4億(2021年1月4日時点)

〇「鬼滅」ブームはいつまで続くのか

●「劇場版 鬼滅」興収1位の達成感が区切りとなるか
僕は「鬼滅」のブームは2020年年末が最盛期になるのではないかと思っています。もちろんその後もしばらくブームは続くでしょうが、今の異常なまでの熱狂は落ち着くのではないかと思います。

今までは「日本映画興行収入歴代1位の達成」という分かり易い目標に世間が注目して話題になっていましたが、それも達成して一段落した雰囲気になり、一般層は特に冷静になるのではないかと思います。

アニメファン(ライトアニメファン・コアファンよりもハマり方が甘い層・アニメの流行を追いかけていた層)も同様で「興行収入1位」や「煉獄さんを300億の男に!!」といったお祭り要素を楽しんでいたのが、両方とも達成して気持ち的に一段落、年末にはLiSAが映画主題歌「炎(ほむら)」でアニメソングでは初めて日本レコード大賞の大賞を受賞して、達成感と言う意味ではトドメを刺しました。

●アニメファンは本来「次の流行を探す移り気志向」
更にこの手のライトアニメファン、つまり「アニメの流行を追いかける層」は移り気が強いです。次の流行が来れば、そちらになびくのも早いのです。(上述の通り、この性質を理解し短期決戦の判断をした劇場業界の感覚は評価に値します) 熱狂的な本当に作品を愛しているコアファンは引き続き作品を支持し、一定規模(多分、それでも十分な巨大市場と思われますが)でのビジネスは維持・展開されていくと思いますが、一般層をも巻き込むブームというものではなく、あくまでもアニメファンの中でのブームという限定的なものになるのではと予測しています。

一時期、熱狂的なファンを生み大ヒットしたアニメは第2期が企画されますが、やはり第1期ほどには盛り上がらないのがほとんどです。僕の図解の一番下の欄で上げたような、かつてアニメ界にブームを巻き起こした作品も、一番盛り上がったのはやはり第1期や最初のオンエアの時です。ヒットを支えてくれる「アニメの流行を追いかける層・アニメの流行に敏感に反応する層」は、敏感なだけに移り気であることは、過去のアニメ作品でも立証されているのです。

●「鬼滅」を「エヴァ」にするのが、今後の関係者の命題
そんな中でも僕がすごいな、と思うのは「新世紀エヴァンゲリオン(ヱヴァンゲリヲン)」です。放送当時と最初の映画になった時の社会的な大ブームだけでなく、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」は何年も間を空けて公開されるにも関わらず、毎回確実に話題になり、ヒットと呼べる実績を残していきます。

今回の「鬼滅」の大ブームには様々な予期しなかった出来事が偶然にも良い方向に繋がったという「運」の要素も大きかったように思います。「鬼滅」が「エヴァ」のように、真に継続して世の中を沸き立たせるコンテンツになるかどうか、正にここからが関係者の腕の見せ所といえるのではないでしょうか。

〇「運」だけではない「鬼滅の刃」の社会的大ブーム

●優れた宣伝プロデューサーがいるだけではブームは作れない
先ほど「『鬼滅』の大ブームは『運』の要素も大きかった」と書きましたが、作品そのものの素晴らしさと、不測の事態において「運」を味方にするようにコーディネートした関係者の努力が大ブームの原動力になっていることは間違いないと僕も認識しています。

何故なら、仮に宣伝やプロモーション手法がとても優れていて、多くの人の興味を引き、アニメを視聴させることが出来たとしても、作品そのものがダメであれば話題になることはないからです。もっというと、宣伝の力でダメな作品に注目を集めたとしても、その「ダメさ加減」をアピールすることにしかならないので、逆効果とも言えます。これだけブームになったのは、作品そのものが世間の注目に耐え、期待を裏切らない作品であったからこそといえるでしょう。だからこそ、注目が口コミを呼び、話題が話題を呼ぶようになったのです。

アニメ制作においてufotableは非常に真摯に作品と向き合ったのだと思います。その作品に取り組む姿勢こそが、大ブームに発展し得る良質な作品を生み出したのです。

また、不測の事態を味方につけた関係者の力も確実に存在します。特に「アニメを出来る限り制限なく視聴できるようにする」という方針です。サブスク等による有名配信サイトでのアニメ配信を常にオープンにしていたことが、コロナ禍において非常に大きな追い風になったことは疑いようがありません。コロナ禍においても方針を変えず視聴しやすい環境維持に努めたこと、この関係者の英断も大ブームの礎になっているのだと思います。

正に、この作品を作り上げた制作関係者の方々と、今までにない視聴方針で大ブームを生み出した関係者の方々には畏敬の念しかありません。

〇まとめてみたら、「そもそも論」に原点回帰

いろいろ分析や考察をしてきましたが、最終的には

1.作品そのものが優れていること
2.その時の環境に適した形で多くの人が認知できるように発信したこと
3.良質な作品が広く認知されたことで、口コミが拡がり話題になったこと

様々な要素を内包させつつではありますが、「鬼滅」の大ブームはこのように整理できるのではないでしょうか。但し、上記項目の2も3も、上記項目1の「作品そのものが優れていること」がないと成立しません。

鬼滅 ヒットピラミッド

つまり「鬼滅」は、1「作品力」がしっかりした土台として成り立ち、その上に2「優れたプロモーション=アニメを出来る限り制限なく視聴できるようにする」が盤石に乗っかり、その2重の強固な土台だからこそ、その上に3「話題やユーザー」をたくさん積上げることができた といえるでしょう。

「優れた作品を生み出すこと」
そもそも論ではありますが、それこそが大ヒット、大ブームの根本的な必要条件であることは、間違いありません。アニメ関係者は誰もがそのつもりで作品を作っているはずなので、言われて出来るものでもないのだと思いますが、今回の分析・考察がより良いアニメを生み出す一助になれば幸いです。


【ご購入に向けたご案内】第2章・第3章について

ここまでお読み頂いて、ありがとうございます。第1章を面白いと感じて頂けましたら、第2章・第3章も続けて読んで頂けるとうれしいです。

第1章では「鬼滅」が大ブームになるまでの大きな流れを可視化した図解と共に考察しました。第2章・第3章では第1章では掘り下げなかった「鬼滅」を構成する各種要素をそれぞれ考察していきます。

鬼滅 9ファクター

第2章で考察するのは上記の9要素、第3章では特記事項として3要素を考察します。第1章以上に僕の考察の要素が多いので、読み物として、又は「こんな見方もあるな」という参考意見として読んで頂くのが良いかと思います。

また、考察の記述が中心なので、図解は第1章ほど多くありませんが、4つの総括的な図解を付録として入れています。情報が細かいので見易いように図解①~④はpng版をご用意しました。

鬼滅 購入案内バブル

●付録1(左上):「鬼滅の刃」時系列ヒット分析【完全版】※png版
→第1章に示した「図解①」の完全版です。1枚でより多くの情報が分かるように各種項目の情報を大幅に追記しています。「1枚の図解で鬼滅の大ブームまでの仕掛けと環境の変化を可視化する」という目的の集大成とも言える資料です。上図でも情報が細かく追加されているのが分かってもらえると思います。

●付録2(右上):「鬼滅の刃」検索数ヒット分析【完全版】※png版
→付録1と同様に、第1章で示した「図解②」の完全版で、より多くの情報を1枚に追記しています。上図からも情報が細かく追記されているのが分かってもらえると思います。

●付録3(左下):「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」実績推移からのヒット分析 ※png版
→劇場版の興行収入、動員数、客単価の推移を可視化した図解です。

●付録4(右下):「鬼滅の刃」ヒットの構造分析 ※png版
→「鬼滅」のヒットの構造を可視化した図解です。図解①の時系列に並べる方法とは別の見方で「鬼滅」のメディア事業としてのヒットの構造をまとめてみました。

ご購入価格はアニメ業界関連のビジネス本1冊分くらいにしました。基本的にはデスクリサーチのまとめですが、個別に拾っていくと時間もかかると思います。網羅的にまとめている本記事は価値を感じてもらえると思いまして、ビジネス本と同等程度の価格設定とさせて頂きました。考察も含めてそれらに近しい感覚で読んで頂ければと思います。


鬼滅第2章

第2章:「鬼滅の刃」大ブームの要素を因数分解し分析・考察する

この続きをみるには

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「鬼滅の刃」大ブームを図解してみた ~興行収入記録達成記念・大ヒット分析完全版~

KanadeL(かなでぇる)

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エンタメ業界の端くれで20年超過ごすマンガ・アニメ考察家です。マンガとマンガ・アニメ関連本の所有は5,000冊超。その経験と知識を使って、マンガやアニメの分析・考察を発信していきます。考察ブログ❘カナデブログ~奏でるマンガの名言~⇒kanadeblog.com を運営しています。