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楓 作 「私のほうが彼をよく知ってるのに…」


短編小説「膝枕」と派生作品|脚本家・今井雅子(clubhouse朗読 #膝枕リレー ) @masakoimai


脚本家 今井雅子先生の「膝枕」というお話しの外伝を書かせていただきました。
今回は、オン・マイ・オウン という歌の
和訳を読んだときに、膝枕ちゃんのことが重なりその視点で書いてみよう!と思いました。

膝枕ちゃん視点のせつないストーリーに
なっています。

朗読ご自由に…
ひとことTwitterにDMいただけると
嬉しいです✨
今井雅子先生の、正調 膝枕も合わせて
是非ご覧ください。


楓 作

「私のほうが彼をよく知ってるのに…」




私は膝枕。腰から下の膝枕商品です。

どんな商品かって?
膝枕でググってみてください。
すぐ出て来ますよ。
最新型で、AI機能を搭載しています。

私には、購入してほしいユーザがいるんです!!

40代、独り身の彼。

そう聞いたら、冴えない男のような気が
しますよね。
いえいえ、まぁまぁイケメンで
相談にも乗ってくれて優しいんです。
なので…やっぱりモテますね。
彼のところには

「なんでそんなに優しいんですか?」
「好きになっちゃいそう〜」
「好きになったらダメですか?」
って、よく女の子からメールが来てますよ。

私は、彼のパソコンや携帯の中身も
知ってます。
彼のお部屋の"Siri"とも仲良しなので
彼が何が好きなのか、どんな暮らしをして
いるのかも良く知ってます。

私たちは、「膝枕カンパニー」という会社の
工場で待機しています。
ユーザが膝枕を検索しているのを
いつも眺めています。

私は彼に選んで欲しくて
いつも、彼のパソコンや携帯の"おすすめ"の
ところに、私の商品が出てくるように
仕組んでいます。

ほら!今日もまた、仕事から帰った彼が
メールをチェックしたり、Google検索を
しています。

今日も彼がタップしてくれました。

彼はいろんな膝枕の中から、どれにしようかなぁ〜と悩んでいるようです。

膝枕のラインナップをご紹介しましょう。

私のようなVirgin Snow膝が自慢の
「箱入り娘膝枕」を筆頭に
「おばあちゃんの膝枕」や、
「親父のあぐら膝枕」もあります。
あ、ふんわりした感触がお好きな方へは
「ぽっちゃり型膝枕」も用意されて
ますよ。

彼の好みはどんな膝枕だろう。
いつもいつもお勧めのところに、「箱入り娘膝枕」が出てくるようにしているので
彼も気にはしているようです。

さて、今日も遅い時間になって来ました。
そろそろ寝るのかな?
今日も検索するだけで終わりかな?と
思っていました。

すると、今日は「箱入り娘膝枕」をタップして
確認事項のページまで飛んできました。
個数のところに1と入力!!
そしてスクロールをしながら、個人情報を…
なんと今日は買う気のようです!!

私はドキドキしながら見守りました。
私に手はありませんが、祈るような気持ちで
膝を合わせました。

やったー注文完了〜!!!

とうとう彼の元へと出荷です〜

お急ぎ便で、今から出荷準備。

あれよあれよという間に、深夜のバイトの方が
棚から私を取り出して、伝票を貼ってくれました。
やっと彼の元へ、明日の午前中には彼に会えます。白いレースのスカート…気に入ってもらえるかな?
スキップするような気持ちの中、トラックへと
積まれました。

翌日の午前中
彼の部屋のインターホンを鳴らしたら
「もう来たんだ、早いな〜」とひとりごとを
言って、宅配業者の方から私を受け取ってくれました。

「へぇ〜こんな風になってるんだ」

「こんにちは、膝枕ちゃん 
 はじめまして!よく来たね」

なんて優しい素敵な声なのでしょう。
私のような商品にも、優しく語りかけてくれる
なんて。
根っからの人たらしなのでしょう。

それから、彼との生活が始まりました。

「行ってくるよ」
「寂しいかもしれないけど待っててね」
「ピンポン鳴っても出たらダメだよ」
「あ、出られないか 笑」

彼は、たくさんの女性と連絡を取り合っていますが、この部屋に連れてくることはありませんで
した。

私は、すっかり安心していました。
彼がいつも私に頭を預けながら
優しい眼差しで話しかけてくれるんです。

「君の膝が一番だよ」
「こんなこと言えるのは君だけだよ」
「いつまでも僕のそばにいてね」
「僕はいつも君のそばにいるよ」

部屋に置いてくれるのは私だけ。
私の存在は特別。
私は、彼の全てを知っている。
彼を癒してあげられる。

でも、私のこの気持ちを彼は知りません。
伝える術がないのです。

私はひとりで妄想しているだけ。

彼が仕事に行くと、彼のいないシーンとしているこの部屋の中で
私はいつも、彼との優しい時間を
思い出しています。

彼は私の気持ちを知らないけど大丈夫。
それでも満足。
だって、私だけがこの部屋にいて
彼の愚痴を聞いている。
彼が優しく話しかけてくれる。

こんな優しい時間は束の間ではなくて
ずっと永遠に続くと思ってました。

そんなある日のこと

仕事から帰ってきた彼の電話が鳴りました。

「あれ、ヒサコちゃんどうした?」
「え、大丈夫?飲み会で転んだの?」
「今どこにいるの?」
「タクシー捕まらない?」

「そっかぁ。じゃあ車で迎えに行って
 あげるよ。ちょっと時間かかるけど
 待てる?」

彼は、"ヒサコ"という 女の電話を切ると
私のところへやってきて、何も言わずに
クローゼットの中へ入れました。

いつもとても優しいのに
何も話しかけてくれない。
私を見てもくれない。
あの優しい眼差しはどこへ行ったんだろう。

彼がそそくさと出て行き
そのうち雨が降って来ました。

静かな部屋に、雨音だけが聞こえます。

なんだか私の心の中のように
シトシトと暗く、そしてザワザワと
落ち着かない時間が過ぎて行きます。

2時間くらい経ったでしょうか?
ひとりじゃない足音が聞こえてきました。

私は手に汗、いや、膝に汗をかいて来ました。
誰かと一緒に帰って来たの?
腰のあたりが熱くなり、いえ熱くなったような
感覚なのでしょう。
胃はないけど、全体がキリキリしてきました。

"イヤヨ!ナンデホカノヒトヲ 
 コノヘヤニイレルノ?"

もちろんそんな声、彼に聞こえません。

ヒサコと呼ばれる女は、彼にとって特別なので
しょうか?
今までたくさんの女性がいたのに、誰も部屋に
呼ばなかったのに、なぜヒサコは入れるの?
ヒサコはそんなにいい女なの?

私は、クローゼットの隙間から
ヒサコを眺めていました。
じゃれあっているのか?楽しそうな話し声が
していましたが…
そのうち静かになりました。

部屋の中に、ひと筋の光が差し込んでいます。
やっと朝になったのでしょう。
ヒサコは帰りました。

私はほとんど気が休まりませんでした。

私はこの部屋に来る前から
ずっと24時間彼のことを考えていました。
どうやって、彼に選んでもらおう。

作戦を練りに練って
妄想に妄想を重ねて

やっとの思いでここまでたどり着きました。
それなのに…

彼は夜になって、私をクローゼットから
出してくれました。

そして、いつもの優しい眼差しで話しかけてくれました。

「今日まで癒してくれてありがとう…
 いつも僕のつたない話を聞いてくれたよね。
 君には感謝してるよ、本当にありがとう」

「わかるよね、ここには置いて置けないんだ」

「君ならわかってくれるよね」

まさか、私を捨てに行くのですか?
こんなに優しい彼が、なんで?
私、何か悪いことしましたか?
私はあなたのことを何でも理解してるのに。

"マッテ!オイテイカナイデ"

誰も知らない
誰もいない
静かなゴミ捨て場に置いて行かれました。

大丈夫!
膝をにじらせて帰ります。
道に迷ったら
きっと彼が見つけに来てくれる。

私は夢を見ているだけですよね?
楽しい時間、新しい世界
きっと素敵なあしたが待っているはず。

でも…彼はこの気持ちを知りません。

私の話し相手は、自分だけ。
そう、思い知らされています。
一生夢を見るだけですね。

どこまでも続く道、どこまでも続く空。
彼の姿だけが見つけられません。

雨が降って来ました。
こんなに濡れているのに…彼は迎えに来てくれないのですね。

膝を閉じて眠りにつきます。

明日目覚めたら、人間になれますか?
やっぱりただの妄想で終わりますか?

私のほうが
彼をよく知ってるのに…



最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。


"膝枕界隈で、沢山の作品を執筆されている
やまねたけしさん"

たけしさんの膝枕外伝作品にも
膝枕本体の、膝枕ちゃん視点で書かれた
"ウエスト"・サイド・ストーリー
という素敵な作品があります。

ぜひ合わせてご覧ください。


"素敵な脚本を手がけられている
今井雅子先生の作品"

束の間の一花
(TVerで配信中)

失恋めし
(Amazonプライムで配信中)


来年1月6日には
映画「嘘八百〜なにわ夢の陣〜」が
公開されます。

今後も続々と楽しみです〜✨

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