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命が輝く瞬間

「いやー、心と体がようやく一致してきました」

先日、ほぼ寝たきり状態だったAさんが、ポータブルトイレで排泄する瞬間に立ち会いました。
ご本人と奥様と3人で大喜びして排泄を終え、ベッドに戻り、
「気分はいかがですか?」と伺った時の感想が冒頭の言葉です。
じんわりと感動…

「心と体が一致する」

病気から回復する過程を、この方の言葉で表現するとこうなるのか…
わたしは心に残る言葉を手帳にしたためています。
この言葉も大切に噛み締めながら手帳に書きました。

寝たきりの方の排泄ケアで多く見られるのが、
・食事内容の見直し
・お薬での調整
・訪問看護での浣腸や腹部マッサージ
・摘便…
摘便は特に苦痛が伴うケア。
Aさんも利用当初から排泄の課題を持っており、上記のような対応をしてきました。
そして、関わるわたしもあまり違和感なくケアを提供していました。
しかし!摘便がとにかく辛い。
Aさん「やめてーーー」
看護師「ごめんなさいーーーーでも体のために出さないわけにはいかないのです」
ケアが終わるとお互いにぐったり…
この苦痛をなんとかしたいと感じた、わたしではない看護師さんが、ある日ポータブルトイレでの排泄を試みたのです。
初めてチャレンジしたその日、なんと、大成功!
リハビリ担当者とも情報を共有して、もしかしたらトイレでの排泄が夢ではないのかも!と、リハビリメニューにもトイレ動作が追加となったのです。

週2回のリハビリで、ポータブルトイレへの移乗と、ズボンの上げ下げの練習が開始。
看護師も、自力で出るかどうかは別として、毎回ポータブルトイレでの排泄を継続しました。お通じが柔らかくなるように、お薬の調整も続けました。

Aさんは介入当初から、看護の保清ケアが終わった後、ベッドサイドに足を下ろして座る練習をしていました。
ベッドから背中を離して、両足を床につけて、自分で座る。
この動作が人に与える影響ったらすごい。
それまで何となくされるがままだった人が、シャキッとして、人生について語り出したりするのです。
わたしはAさんとのこの時間が大好きで、(同じお話をされることも多々ありますが笑)思い出話はもちろんですが、経営論からパートナーシップに至るまで、たくさん学ばせていただいているのです。ある時は、奥様とのデートでボートに乗ったけどうまく漕げなくて、同じところをぐるぐる旋回した話を大真面目に話してくださいました。「昔から運動がからっきしダメでねぇ」としみじみ語るAさんに「お父さん、ほんと運動ダメよね」と奥様が急に辛口だったのが可笑しかったな。
でも、この座ってお話しをする時間を積み重ねていたから、そろそろポータブルトイレにも座ることができるだろう、と評価したのは確かだと思います。看護師がポータブルトイレでの排泄を試みる根拠になっていたと思います。

そんな日々が続いていたある日、いつものようにポータブルトイレへ移乗。
まるで社長のようにリラックスした姿勢でポータブルトイレに座るAさん。
(それもそのはず、元経営者。社長さんですものね。)
「いやー、出ないですよ」と、不発を匂わせます。

いつものようにお腹をモミモミする看護師S(わたし)
S「そうですか?お腹が張っているようですよ。ところでAさん、便が出やすいように、少し前屈みになりましょう。考える人みたいに!」
Aさん「ほほう。こうですか?」(前屈みになるAさん)
S「そうそう!そうです!きっと出ますよ」(あくまでもチャレンジは前向きにね!)
モミモミモミ・・・(マッサージを継続する看護師S)

プスぅ(・・・ご想像の通り。前兆。)

Aさん「お?おおおおおおお?」
(固唾を飲んで見守る看護師Sと奥様)
Aさん「んん出ます!」
Aさん「んおおおおぅ」

奥様「何?出たのお父さん!」
S「Aさん出ました!?」
(奇跡の瞬間に立ち合おうとしている看護師Sと奥様)

Aさん「んんん…もうね…今…盛りです…」

で、出たーーーーー!!!
しかも盛りってーーーーー!!!!!笑笑

奥様と大笑い、そして、大喜び。
嬉しい嬉しい瞬間。
Aさんと奥様の笑顔がキラキラ輝いていました。

この日以降もポータブルトイレでのケアを継続し、Aさんは私たちが訪問する時以外にも、ご家族の介助でポータブルトイレへ移乗し、排泄するようになりました。
お嫁さんからも「う○ちが出るようになってよかったですー!ありがとうございます!」とご連絡をいただきました。


生活のほんの一コマなのですが、ドラマだなぁと書きながらに思います。

介入当初は寝たきりだったAさん。
訪問看護と訪問リハビリの関わりで、ここまで回復する姿を見せてくれました。
命と暮らしが輝く瞬間を見せてくれたのです。
こういう瞬間に立ち会うたびに、わたしは大きな喜びを感じ、自分の仕事の意味や価値を再確認することができます。
そして、またエネルギーが湧いて、次の利用者様のお宅へ向かうことができるのです。
わたしはAさんとAさんのご家族を助けているようで、助けられている。
支えているようで、支えられています。


簡単ではない病気がこの世の中にはたくさんあって、家族のカタチもさまざまで、救えない命もたくさんあります。
それでも人って素晴らしいし、どんな生活の中にも希望の光が灯っていると思っています。
誰かとつながることで、その光に気づき、より輝かせることができるとも思っています。信じている、の方が近いかな。
Aさんの命の輝き…心と体が一致して回復を実感したその瞬間。
立ち合わせていただき、ありがとうございました!

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