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ありがとうとごめんね



ごめんなさい。
なにもできなくなっちゃって。

ありがとう。
いい奥さんだほんとに。
おやすみ。



先日、Sさんが旅立ちました。
亡くなる数時間前まで一緒にいました。

病気が進行してお腹が痛くて苦しくて。
冒頭のセリフは最後となった処置を終えて、Sさんが奥さんに伝えていた言葉です。
苦しさを軽くするための処置だけど、その処置も苦しい。
頑張る姿を目の前にして、わたしは胸が張り裂けそうでした。
こんなに一生懸命生きている。その姿に感動していました。

申し遅れましたが、私は、訪問看護ステーションlifeで看護師をしている田代さとみです!
テレビはあまり見ないけど、好きな番組は「人生の楽園」です。
見ず知らずの人のセカンドライフに触れて「ほほう」となる。
まさに上質世界。
序盤の15分くらいで完結している気がするんだけど、30分番組なのも私的にはオモロポイント。


Sさんと出会ったのは2ヶ月くらい前です。
治療方法がなく、自宅で最後を迎えたいとの希望で、病院から退院されました。
「処置が多くて大変だと思いますが、よろしくお願いします」と申し送りを受けましたが、医療的な処置は全てご夫婦が自分達で管理されていました。
日々の記録も細かくつけていて、自分の体としっかり向き合っていました。

退院した当日に訪問させていただき、色々お話を伺った最後に、
おうちに戻ってきて、したいことはなんですか?
とお聞きしたら、
「少し休みたいです」と言った後、
「あと、普通のご飯が食べたいです」とはにかみました。
「そうそう。ほんとは油っこいものも好きなんだよね!」と、カラカラと笑う奥さん。

ふむふむ。
好きなものを食べたいんだな、と確信。
真面目なSさん。今までずっと食事制限を守ってきました。
自宅で過ごす、限られた時間。
もう、たくさん食べられるほどの身体状況ではありません。
ご自宅を出て近くのコンビニの駐車場で先生に相談したところ、
「そんなに制限することないでしょう。好きなもの食べてもらってください」
との指示。

ありがとうございます先生!!!
(車内に響く自分の声。予想以上にデカい。)

Sさんと奥さんへ報告すると、とっても喜んでいました。
お粥じゃないご飯や焼きそば、お肉。
食べたいけどずっと我慢していたメニューを少しずつ楽しんでいました。

壮絶な処置に耐えた数時間後、急に静かになり、全然動かなくなったと連絡を受けました。もうすぐ朝になります。
電話の向こうで、一生懸命呼吸している声が聞こえます。
お別れが近づいています。
(ご自宅に)行きますか?と聞いたら、
「・・・大丈夫です。また何かあったら連絡します。」
泣いていたけど、しっかり伝えてくれました。
私が駆けつけて、一緒にいることもできる。
でも、奥さんは1人でSさんのそばにいることを選択されました。
その電話の2時間後くらいに「呼吸が止まりそう」と連絡を受けて訪問しました。
その間のことは、Sさんと奥さんしか知りません。

呼吸がだんだんと弱くなっているSさんのそばで、奥さんが色々とお話してくださいました。息子さんの到着を待ちながら。
Sさん、お別れの日を自分で予想されていたそうです。
「俺は○日に逝くと思う。なんとなくわかるんだ」と言っていたそうです。
お別れの数日前にお墓参りにも行きました。
「急にお墓参りに行くって言ってるんです」と連絡をいただき、驚きました。
体力的に外出は難しいと思っていたからです。
でも、当日は息子さんも来てくれて、お墓では草むしりまでしていたそうです。
人間の力って、すごいと思います。

息子さんご夫婦が到着されて、一旦弱まっていた呼吸がまた規則的になりました。
到着してまもなく、奥さんがお嫁さんに、
「孫のこと、やさしい子に育ててくれてありがとう。
そう言いたかったんだよね?お父さん。聞こえるでしょ?ちゃんと伝えたからね。」
「うんうん、わかったよ。お父さん、ありがとう。」とお嫁さん。
しっかり伝わりました。
よかった・・・
Sさん、よかったですね・・・
私はもう泣いちゃいそうだし、「また来ますね」と伝えて、一旦ご自宅を後にしました。
Sさんはこの時を待っていたんだ。
今私にできることは、退室すること。これしかない。


その後に行った訪問先で奥さんから電話がきて、
「今呼吸が止まったみたいです」と報告を受けました。
ケアを終えてすぐにSさん宅へ向かいました。
Sさんは静かに眠っていました。
「田代さん帰った後、おしゃべりしてくれたんです。スマホで孫の声も聞かせてもらって。」

そうだったのか・・・また泣いちゃいそう。

ご自分で予想していた日。その通りに、Sさんは旅立たれました。
息子さんにも手伝ってもらいながら、奥さんと一緒に体を綺麗にさせていただきました。
パジャマから秋らしい服に着替えました。とても似合っていました。
最後のケアが終わると、
「家に帰ってきてからは、先生も看護師さんも、痛いって相談したらすぐ来てくれたし、話聞いてくれたから、それがすごく嬉しかったみたい。」と奥さん。
そうだったのか・・・
看護師として当たり前にしているようなこと。
これくらいしかして差し上げられなくてごめんなさい。と思うようなこと。
それでも、力になることができていたのかもしれない。
こちらこそ、ありがとう。です。


Sさんは奥さんと一緒に旅立ちの準備をされていたのだと思います。
痛みと苦しみに耐えるだけの日々でなかった。
そして最後までごめんねとありがとうを伝えてくれた。
一生懸命生きる姿を見せてくれた。
本当にお疲れ様でした。

力になれなかったこと。ごめんなさい。
一緒に過ごした輝くような時間。ありがとう。
Sさん、また会いましょう。


おわりに

心を亡くしそうになる時や、ネガティブな感情に飲み込まれそうになる時、みなさんはどうしていますか?(急に質問)
私は、本を読みます。本を読むより寝た方がいいよなぁと思いながらも、読みます。
テスト期間中なのに部屋の掃除を始めちゃう、あの不思議な現象のようなものです。
少し前まで毎日読んでいた本の中に、死に関することが書いてありました。

死は前よりしも来らず、かねてうしろに迫れり
人みな死あることを知りて、待つことしかも急ならざるに、覚えずして来る。
沖の干潟はるかなれども、磯より潮の満つるがごとし(徒然草 吉田兼好)
人は誰しも死が来ることを知っているが、そんなに急にやってくるとは思ってもいない。
だが、死は予期せぬ時、突如として来る。
沖の方まで干潟になって、はるかな向こうまで広々としている時には潮が来るとも思わないが、突然あっという間に磯の方から潮が満ちてくるのと同じようなことなのだ。
1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書 より

これを読んで、本当にそうだなと。
Sさんが教えてくれたように、人生の最後に伝えたいことは「ごめんね」と「ありがとう」なんだと思います。
だからこそ、1日1日を精一杯生きる。与えられた役割を果たす。
私は幸運にも好きなことを仕事にすることができました。
このありがたい人生を、出会う方たちの暮らしやいのちに貢献することで恩返ししながら歩んでいきたいと思っています。そんな姿を子供たちにも見せられたらいいな。

月末なのだから、note書くより請求業務をやるべきです。
はい。その通りです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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