芽吹くトリックアート

どれほど草木をかき分けても、中心には辿り着かない。声を上げて名前を呼んでも、そこにどれだけ想いを馳せても、返事は無いし反応もないのだ。心に秘めた思いは、それだけ深いところにあって、誰かに侵されることは無い。ましてやSNSという私たちの間に介在するものが文字と画像のみであるツールにおいて、相手と心を通わせるなんて不可能でしかないのだ。


Twitterというのも一つの社会であって、似た趣味を持った人の集まりに容易に参加できるものの、基本的な配慮やマナーは必要になる。アプリ内では、"呟き"という自分以外に対して排他的な印象を持つ言葉を使っているが、実際は呟く時点で何かしらと関係を持ち、やはり配慮が必要となるのだ。


本心はどこにあるべきなんだろうと思う。


秘めておくべきことなのだろうか。外に出すべきでは無いのだろうか。色々と考えてしまうことが多い。その圧迫された感情が、僕は時々行動に現れる。旅行をすることや人と関わることを減らすことで自己解決するのだ。


以前、そういった"上手くいかない"という感情に任せて行動する人に遭遇した。


高校3年の頃、僕は部活動の練習試合のためにいつもは使わない電車を使って他校へ行った。練習試合では代わり映えしない成績をあげ、高校へと帰る時。乗り換えるための電車を待っていたタイミングだった。
僕が待合室の椅子に座っていると、ドアの外からこちらに向かって歩いてくる女性がいた。年齢は同い年くらいで僕よりひとまわり大きい。両手にはポテチが入った袋。バトミントンラケットを背負っている。

その女性は僕の2つ隣の椅子に座り20秒ほど経った後、すぐにドアから出てこちらを振り向いた。僕はその行動の不自然さに気を取られていたので、当然目が合う。


すると、突然
「今なんで私のこと見てたの?もしかしてストーカー?」
と僕に問いかけた。


僕は何故見ているだけでストーカーになるのか理解が出来なかったが、とりあえず波風立たせたくなかったので、
「違います。もし僕が見ていたことで不快な思いにさせていたのならすみません。」
と言って頭を下げた。

するとその女子は、何も言わずにそのまま遠くへ歩いて行った。

それから5分ほど経った頃だろうか。僕の方にまた彼女が歩いてきて
「さっきのやりとり、友達が動画撮ってたからそれを警察に見せに行くね」
と言われた。

「?」

内心、訳が分からなかった。ただ、この時僕に非がないのは明らかだった。
逃げ出すことも出来たが、"誰かに構って欲しい"という気持ちを感じたので少し話を聞いてみることにした。
今まで接して来なかったタイプの人なので、そういう人の考えに耳を傾けてみようという考えもあった。

彼女の話は僕の相槌のみで止め処なく溢れてくる。

「私はあなたの高校の同級生によくいやらしいことをされていて、その人は家までついてくる」


「私はバトミントンのオリンピック選手として協会から選ばれているから隠れてもすぐにバレてしまう(まだその時は選ばれる時期じゃない)」

「ストーカーされて何度も警察に相談している」


など、僕にどうにか気を向けてもらおうと様々な嘘をついていた。とても必死だった。


その後、話を聞き、同情した素振りを見せていると、彼女は僕に罪がないことを納得してくれたみたいだった。
僕は相槌を打ちながら、「他人から意識を向けられることがなかったんだろうな。話し相手が欲しかったんだろうな。」と感じた。

その後、僕と彼女は表面上仲良くなり、「じゃあ気をつけてね」と声をかけるようにまでなっていた。不思議な話だと思う。
何せ彼女はストーカーらしき人と最終的には知り合いになっているのだ。


そしてこのことから、僕たちが抱く"思惑通りにいかない"という気持ちは自ら律しないと人に迷惑をかける可能性を含んでいることを学んだ。


だから僕は、本当の気持ちを表に出すつもりはない。


草木が生い茂るよりも更に深いところへ、その気持ちは留めておくのだ。

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僕とラジオとアイドルと。