これからは「家族農業」でいこう(3/3)『家族農業が世界を変える』全3巻完結!
食と農の未来を考えるシリーズ・『家族農業が世界を変える』関根佳恵(監修・著)全3巻(1巻「貧困・飢餓をなくす」、2巻「環境・エネルギー問題を解決する」、3巻「多様性ある社会をつくる」)の全3巻が完結しました。著者の関根佳恵さんによる、出版にいたるまでのエピソードの第3回目です(全3回)。
第3回 各巻のコラム 目からウロコが落ちる内容が満載。
関根佳恵(愛知学院大学准教授)
シリーズ全3巻では、各巻に3つずつのコラムが掲載されています。さまざまなテーマについて、その分野の専門家や実践家の方々に分かりやすく解説して頂きました。それぞれ目からウロコが落ちる内容が満載です。
以下では、コラムを通して私が気づいたこと、考えたことをお話したいと思います。
小さな漁業と林業
本シリーズには、小さな漁業と林業についてのコラムがあります(二平章さん、佐藤宣子さん、それぞれ1巻と2巻に所収)。
実は、国連「家族農業の10年」でいう家族「農業」には、林業も漁業も含まれています。このコラムを読んで、漁業と林業が本来持っている多様な役割について改めて気付くことができました。今の漁業・林業のための政策は、貿易自由化を前提としながら、産業としての経営の効率化を高めようとする内容が中心です。しかし、農山漁村地域の活性化や文化の伝承、国土保全などのためには、小さな規模の漁業や林業の役割を見直し、支援する必要があることが分かります。
食べものはお金で買うもの?
今、コロナ禍で所得が減少したり、失業したりして、日本でも食料を十分買うことができない人たちが増えています。また、ウクライナ危機により原油や穀物の国際価格が上昇し、食料の値上が相次いでいます。政府による食料の買上や配布がほとんど行われていない中で、子ども食堂では無償(あるいは低額で)の食事提供が行われています(栗林知絵子さん、1巻コラム)。
私たちは、食べものに値札が付けられていることを「当たり前」だと思っていますが、本当にそうなのでしょうか。市場経済の中では当然と考えられていますが、そもそも大地や水、空気、農作物の種などは人間が創ったものではなく、本来は誰のものでもありません。そう考えれば、食は私たちの共有財産(コモン)であり、市場経済の原理とは異なるルールで維持・管理する必要があることが分かります(斎藤幸平さん、2巻コラム)。
農業と科学技術、戦争の関係とは?
一般にはほとんど知られていないことですが、19世紀以降に農業に取り入れられた新しい技術は、戦争と深い結びつきがあります(藤原辰史さん、1巻コラム)。例えば、化学肥料は火薬に、農業機械のトラクターは戦車になり、毒ガスは農薬になりました。
21世紀の今、農業にロボット技術や人工知能(AI)などの新しい技術を導入しようとする動きが活発になっていますが(藤原辰史さん、2巻コラム)、こうした技術も戦争に使われています。地球にも、動植物・微生物にも、人にも優しく、省エネで気候変動対策にもなる農業は、こうした新しい技術よりも、伝統的な農業の中で大事にされてきた生態系と調和した技術なのではないでしょうか。
無意識の差別・分断に気付く
買い物をするとき、「国産」「外国産」などの産地を気にする人は多いと思いますが、実は「国産」の農産物を生産している「外国人」の方たちが急速に増えています(岩佐和幸さん、3巻コラム)。
コロナ禍で頼りにしていた外国人技能実習生が来日できなくなり、国内の産地は悲鳴をあげていました。また、農業を支えている労働力の約半数は女性ですが、その貢献は「見える化」されていません(上野千鶴子さん、3巻コラム)。
こうした可視化されていない存在に気付くことは、私たち自身の中にある無意識の差別や社会の分断を直視し、状況を改善するきっかけになります。
世界の農業は半農半Xだった?
「農家」というと農業だけを行っている人を思い浮かべる人が多いようです。でも、実際は世界でも日本でも、農業以外の仕事とかけもちしている人の方が多いのです。また、統計上は「農家」に含まれないような小さな農業、つまり市民農園や家庭菜園、キッチン菜園をしている人は、実は農家の数を大きく上回っています。これまでは、農家は農業を専門にする方が好ましいと考えられ、政策でも支援されてきましたが、2020年から政策が見直され、「半農半X」と呼ばれる人も支援される流れが生まれています(塩見直紀さん、3巻コラム)。
半農半Xは、農に携わりながら、その他の社会的使命を果たす生き方です。実は、世界の農業のほとんどは兼業農業ですので、半農半X=小規模・家族農業が世界を養っていると言ってもよいのではないでしょうか。そう考えると、世界の見え方も変わってきますね。皆さんも、自分の「半農半X」を始めませんか?
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