第3話 Unsatisfied
神威は約6年勤めた一部上場企業を退職した。
この決断に関しては親や上司からの反対も受けたが、前話で述べたような率直な思いを伝え、退職に踏み切ることになった。
そして、ハローワークの紹介を受け、興味のあるリノベーション関連の知識や資格を習得するため、1年コースの職業訓練校に入校した。
職業訓練校とは、求職者向けに新たな仕事に就けるよう様々な訓練を通じて就職をサポートする場で、新しい仕事を始めたい方や、これから仕事を探そうという方が、必要な知識・スキルを身に付けられるよう様々なコースが用意されている。
国や自治体が主体となって運営しており、年間30万人に利用されている。
ただ、職業訓練校に通っている間は学生という身分ではあるが、「無職」となるので、両親からは
「空白期間があると転職に響くので、なるべく期間を開けず、早く次の転職先を見つけるべきだ」
という意見もあった。
最もな意見である。
ただ、業界未経験で採用してくれる会社は限られており、ブラック企業も多いのが現実だ。
更に、ちょうど新型コロナウィルスが日本に蔓延し始めた時期であり、飲食・旅行・サービス業界などでは業績悪化に伴う人員削減や、内定取り消しが問題となっていた。
そんな状況下において、何の知識や資格も持たず転職市場という海に飛び込むのはリスクがあると考え、神威が選んだのが職業訓練校であった。
職業訓練校にはメリットもある。要件を満たせば、在学中の間、失業保険を貰い続けることができるのだ。このことは、意外と知られていない。また、非常に濃厚な内容にも関わらず、授業料も1万円/月(12万円/年)程度と非常に格安である(※)。
また、半年コースの場合だと、1年コースに比べると授業の内容が浅い代わりに授業料が無料な場合もある(※)。
※訓練校やコースにより異なるので、もし、入校を考えられている方は直接確認してみてください。訓練校に入校するための条件や、1日の流れ、年齢制限などについてはまた別の記事で挙げようと思います。
つまり、お金を貰いながら興味のある分野を学ぶことができるという素晴らしい制度なのだ。
なお、失業保険は下記の計算式にて算出する。
①賃金日額=退職前6ヶ月の給与総額÷180(6ヶ月 ×30日)を算出
②基本手当日額=賃金日額×45~80%(年齢や賃金 日額によって異なる)を算出
③基本手当の総額=基本手当日額×所定給付日数
つまり、退職前6ヶ月の給与総額が多ければ多いほど貰える失業保険の金額が増えることになる。
神威の場合は約20万円/月を貰うことができ、さらに実家に戻っていたため、例え無職になったとしても全くもって問題なかった。
そして、訓練校の授業は17時には終わり、以前のように残業や飲み会で遅くなるということもなく、神威は健康的で充実した毎日を送っていた。
同時に、安定した毎日に物足りなさを感じ、投資により収入を増やしたいと思うようになった。
仕事をしていた時も投資に興味はあったものの、毎日が忙しく、そこまで考える余裕はなかった。
なお、失業保険は隠れてアルバイトなどの労働収入を得ていた場合、不正受給となる。
不正受給をすると、もちろん残りの失業給付を受ける権利はすべて失うとともに、支給を受けた金額の全額返還と不正な行為により支給を受けた額の2倍に相当する金額の納付が命じられる(返還合計額は不正受給額の3倍)。
いわゆる、「3倍返し」である。
また、全額返還と納付が終わるまで、年利5%の延滞金が課され、非常に厳しい罰が課される。
そのことは、神威もハローワークで聞かされてよく分かっていた。では、なぜそれでも投資を行おうと思ったかと言えば、株式投資やFX投資で得た収入は労働収入とはみなされず、失業保険の受給と並行して行うことができるからである。
これも一般的にはあまり知られていない。
また、働いていた頃のようにボーナスや残業代と言うものは存在しないため、収入を増やしたいという思いが日に日に大きくなっていった。
では、何の投資をするか?
日中は訓練校の授業があり、建築系のコースであるめ、座学だけではなく、職人さんに教わりながら何かを製作するという授業も多かった。
そのため、丸一日チャートに張り付くというような投資はできなかった。
そこで、神威が投資先に選んだのはFXの自動売買ツールだった。
第4話へ続く
訓練校の雰囲気を味わいたい方は、イーアイデムさんのサイトで漫画で分かりやすく紹介されています!
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